No.2:『見慣れた街、見知らぬ世界』
「……起きろ……起きろ……おい!起きろって」
誰かの声が聞こえる。
「……ん……」
重たいまぶたを開ける。
最初に目に入ったのは——見慣れた顔だった。
「……陸?」
俺の親友が目の前に立っている。
「え?なんでここに陸がいんの……?」
辺りを見渡す。
「……夢かな?」
まだ頭が回らない。
「ちょっと顔引っ張ってみて」
「おけー。やるからには何事にも全力だよな?」
「おい、ちょっと待って。強くとはーー」
バチコンッ!
「痛えっ!」
頬に強烈な痛みが走った。
「本当にやりやがっな、このやろ……。いつか絶対やり返してやるからな……」
「まあ、よかったわ。おまえだけ長く寝てたから少し気になってたけど、元気そうだな!」
「まあな……」
「夢でも見てたのか?」
その言葉を聞いた瞬間、頭の中にさっきの言葉が蘇った。
——この世界を信じるな。
「……いや、何も」
とっさに誤魔化した。
「それより、さっき『準備が整った』とか、『転送します』とか、浮かび上がっていた文字を見たんだけど……俺以外も見た感じか?」
「あーー、あれな。俺らも見たぞ」
「俺ら?」
その言葉が引っかかる。
「他にも誰かいるのか?」
陸は呆れたような顔をした。
「……おまえさ、寝ぼけてねぇで周りをちゃんと見てみろ」
「え?」
言われるがまま、周囲を見渡す。
そして——。
「…‥なんだ、これ」
そこには、大勢の人がいた。
全員、白い服を着ている。
俺と陸も、いつの間にか同じ白服を着ていた。
そして、その服には一人ずつ異なる番号が記されている。
俺の服に書かれていたのは、
——No.99
……なんの数字だ?
疑問に思いながら、ふと陸の服へ視線を移す。
しかし——。
「……あれ?」
陸の服には、番号がなかった。
「陸、おまえの服……番号ないぞ」
「え? ああ、本当だな」
陸は自分の服を見下ろす。
「まあ、別にいいんじゃね?」
「……そうか?」
少し疑問に感じたが、考えてもよくわからないだけだった。
さらに視点を広げる。
そこで、もう一つの違和感に気づいた。
そこは——。見慣れた街だった。
いや。
見慣れすぎた街だった。
俺と陸が住んでいる街、そのもの。
「……どういうことだ?」
「俺にもわからない」
陸は周囲を見ながら答える。
「ただ、これだけは分かった」
「何が?」
「ここは元の世界じゃない」
「はあ?」
思わず声が出る。
「何言ってんだ。ここはどう見ても、俺と陸が住んでいる街じゃねぇか」
「俺も最初はそう思った」
陸は空を見上げた。
「だけど、いくら経っても時間が流れてないんだよ」 「時間が……?」
「ああ。おまえはわからないかもしれないけど、丸一日ぐらい寝てた」
「丸一日?」
「それなら普通、太陽が昇ったり沈んだりするはずだろ?」
陸が指を空へ向ける。
「でも、ずーっと真上にある。正午のままなんだ」
俺も空を見上げる。
……確かに。
太陽はまったく動いてない。
「それに、お腹も空かない。トイレにも行ってない」
「マジかよ……」
その言葉を聞いた瞬間だった。
俺の脳が、危険信号を鳴らし始めた。
何かがおかしい。何もかもおかしい。
なのに、手がかりになりそうなものは一つもない。
……やばい。
そう思った、直後だった。
ピコン。
再び、音が鳴り響いた。
そして——。
『この街のプレイヤーが全員集合したことを感知しました。これより、塔に案内いたします』
今度は文字ではなかった。
声によるアナウンス。
初めて聞くその声に、周囲の人々も一斉に顔を上げる。
ざわ……。
ざわざわ……。
皆、驚きを隠せない様子だった。
今までは、心のない文字だけだったからだろう。
やがて、ざわめきが少しずつ収まっていく。
すると——。
俺たちの前方に、一本の道が現れた。
その道の両側には、矢印の描かれた看板が一定の間隔で並んでいる。
どうやら、案内に従って進めということらしい。
「…‥これに従っていけばいいってわけね」
「多分な……」
誰もが互いの顔を見ながら、動こうとしない。
誰が先に行くのか。
それを探っているようだった。
そんな中——。
「俺は、行きます」
一人の男が前に出た。
30歳前後だろうか。
痩せ気味の男だった。
「このままここにいても、何も起こらないだけだ」
男はそう言って、看板の矢印に従って歩き始めた。
「俺も」
「うちもー」
その後を、何人かが続いていく。
その流れに乗るように、俺と陸も歩き出した。
大通り沿いを、矢印に従って進んでいく。
——しばらく歩いた頃だった。
俺たちは、東京タワーがあるはずだった港区へと近づいていた。
だが——。
そこに、東京タワーはなかった。
「……え?」
代わりに街の中から異様な存在感を放っているものがある。
中世を思わせるような、巨大な建造物。
その先端は、どこまでも空へと伸びている。
そして——。
それは、雲よりも高くまで続く、巨大な塔だった。




