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【Amazonで発売中!】妻殺しの冤罪で七年間独房に閉じ込められた俺、脱獄後にダンジョンガチャで復讐を果たす  作者: 月瀬 リュカ


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第8話 灰牙狼の包囲

 正面の闇から、灰色の狼が二体現れた。

 左側の通路に一体。

 そして背後からも、爪が岩を擦る音が近づいてくる。

 俺は剣を抜いたまま、ゆっくりと周囲を見回した。

 普通の狼より一回り大きい。

 灰色の毛皮に覆われた身体は細く、岩背猪ほどの重さはなさそうだ。だが、口から伸びた牙は短剣のように太い。

 何より厄介なのは、互いの位置を確かめながら動いていることだった。

 一斉には襲ってこない。

 正面の二体が低く唸り、俺の注意を引く。

 左の一体は壁際を回り、背後の獣は足音だけを聞かせている。

「囲むつもりか」

 牙鼠のように、ただ群がってくる敵ではない。

 洞蝙蝠よりも統率されている。

 毒脚蜘蛛のように、巣から動かない敵でもない。

 こいつらは、俺の動きを見ている。

 正面の一体が踏み込んだ。

 俺が剣を構えると、狼はすぐに止まる。

 直後、左から別の一体が飛びかかってきた。

 身体を捻って避ける。

 剣を振ろうとした瞬間、正面にいた二体目が動いた。

 牙が脇腹へ迫る。

 俺は剣を引き戻せず、左腕で狼の首を受け止めた。

 牙が防具へ食い込む。

「ぐっ……!」

 噛み砕かれる前に、剣の柄を狼の頭へ叩きつけた。

 一度では離れない。

 二度目で狼の牙が外れた。

 追撃しようとしたが、最初の一体が再び迫ってくる。

 剣を横へ振る。

 狼は地面へ身を伏せ、刃の下を潜った。

 そのまま俺の足を狙う。

 後ろへ跳んだ。

 背中が岩壁へ当たる。

 背後から近づいていた四体目の狼は、通路の入口で足を止めていた。

 逃げ道を塞ぐ役目らしい。

 四体が同時に襲ってくるわけではない。

 一体が攻撃し、俺が反応すれば、別の一体が死角へ入る。

 俺に剣を振らせ、疲れさせようとしている。

 自分たちが傷つかないよう、少しずつ追い詰めるつもりだ。

 正面の二体が左右へ分かれた。

 背後の狼も、通路からゆっくり近づいてくる。

 このままここにいれば、完全に囲まれる。

 俺は剣を構えたまま、左側へ走った。

 そこにいた狼が後退する。

 追わない。

 目的は狼を倒すことではなく、包囲から抜けることだ。

 俺は狼が空けた隙間へ踏み込み、狭い通路へ飛び込んだ。

 すぐに振り返る。

 一体目が追ってきた。

 通路が狭いため、二体並んでは入れない。

 狼が跳ぶ。

 俺は壁際へ身体を寄せた。

 すれ違う瞬間、剣を下から振り上げる。

 刃が灰色の腹を裂いた。

 狼が地面へ落ちる。

 まだ生きていた。

 振り返り、俺の脚へ噛みつこうとする。

 俺は剣を両手で握り、首へ振り下ろした。

 骨を断つ感触。

 狼の身体から力が抜けた。

 胸の奥へ、強い熱が流れ込む。

 毒脚蜘蛛ほどではない。

 だが、牙鼠や洞蝙蝠よりも大きな祝福だった。

 熱が脚と腕へ広がる。

 狼たちの動きを追うために張り詰めていた感覚が、さらに鋭くなっていく。

《灰牙狼を初めて討伐しました》

《神の祝福を獲得しました》

《野良ダンジョン討伐記録:5/6》

《ガチャ券を一枚獲得しました》

《灰牙狼討伐数:1/10》

《所持ガチャ券:八枚》

「灰牙狼……」

 残る魔物は、あと一種類。

 だが、目の前の群れも終わっていない。

 通路の入口に、三体の灰牙狼が並んでいた。

 仲間が殺されたというのに、すぐには入ってこない。

 先ほどの戦いを見て、狭い場所では不利だと理解したらしい。

 一体が短く吠えた。

 ほかの二体が左右へ姿を消す。

「呼んでいるのか?」

 遠くから、別の遠吠えが返ってきた。

 一つではない。

 複数の声だ。

 この四体だけで群れのすべてではなかった。

 俺は倒した灰牙狼の腹を切り開く。

 魔石を探しながらも、意識は通路の奥へ向けていた。

 指先に硬い物が触れる。

 肉の中から、毒脚蜘蛛のものと同じくらいの魔石を取り出した。

 その間も、灰牙狼たちは襲ってこない。

 俺を見張りながら、仲間の到着を待っている。

 数が増えれば、狭い通路の前後を塞がれる。

 その前に動く必要があった。

 俺は通路の奥へ進んだ。

 灰牙狼たちは距離を保ちながら追ってくる。

 走ってはこない。

 俺が疲れるまで、逃がさずについてくるつもりらしい。

 しばらく進むと、通路の先に白い糸が見えた。

 毒脚蜘蛛の巣へ戻ってきた。

 切り落とした巣の一部は床に垂れ、壁や天井にはまだ太い糸が残っている。

 俺は足を止めず、その中へ入った。

 背後から灰牙狼の唸り声が聞こえる。

 狼たちは巣の前で立ち止まった。

 毒脚蜘蛛はすでに倒している。

 だが、狼たちにそれは分からない。

 白い糸の匂いと、蜘蛛の残した毒を警戒しているのだろう。

 俺は巣の奥へ進み、剣で一本の糸を切った。

 太い糸を地面へ垂らし、岩の突起へ引っかける。

 次に、足元へ残った糸を剣で持ち上げた。

 素手では触れない。

 糸はまだ強い粘りを残している。

 狼の遠吠えが近づく。

 仲間が到着したらしい。

 巣の入口に、灰牙狼が次々と姿を現した。

 先ほどの三体。

 さらに六体。

 全部で九体。

 すでに一体倒している。

 残る九体を仕留めれば、十体討伐に届く。

 だが、一度に相手をする数ではない。

 灰牙狼たちは巣の入口で足を止め、こちらの様子を窺っている。

 先頭の一体が、地面の糸を避けながら入ってきた。

 後ろの狼も、同じ場所へ足を置く。

 先頭の動きを見て、安全な道を覚えている。

「賢いな」

 だが、賢いからこそ誘導できる。

 俺は狼たちへ背を向け、巣の奥へ走った。

 逃げたと判断したのだろう。

 先頭の灰牙狼が速度を上げる。

 ほかの狼も一列になって続いた。

 俺は床を這う太い糸を飛び越えた。

 先頭の狼も跳ぶ。

 着地した瞬間、俺は岩へ引っかけていた糸を剣で切った。

 張り詰めていた蜘蛛の巣が、一気に垂れ下がる。

 白い網が、二体の灰牙狼へ覆いかぶさった。

 狼たちが吠え、身体を暴れさせる。

 だが、動くほど粘つく糸が毛へ絡んでいく。

 後ろの狼たちは急停止した。

 俺は網へ捕まった一体へ駆け寄る。

 首を狙って剣を突き刺した。

 二体目。

 隣の狼が牙を剥き、糸へ絡まったまま噛みつこうとする。

 俺は横へ回り込み、頭部へ剣を振り下ろした。

 三体目。

 胸へ祝福が流れ込む。

 後ろにいた狼たちが、巣の左右へ散った。

 同じ罠には近づかない。

 三体が俺を囲もうと動き、残りは距離を取っている。

 最初と同じだ。

 ただし、今度は俺も相手の戦い方を知っている。

 一体が正面から迫る。

 別の二体が左右へ回る。

 俺は正面の狼へ向けて走った。

 予想外だったのか、狼の動きが一瞬止まる。

 剣を振る。

 狼は横へ跳んで避けた。

 避ける方向は見えていた。

 俺は剣を途中で止め、そのまま身体ごと狼へぶつかった。

 灰牙狼が体勢を崩す。

 首を斬る時間はない。

 脇腹へ剣を突き刺し、すぐに抜いた。

 致命傷には届いていない。

 それでも、深い傷から血が流れた。

 右から一体が飛びかかる。

 俺は傷つけた狼の身体を蹴り飛ばした。

 二体が空中でぶつかり、地面へ転がる。

 左から来た三体目の牙を、剣の腹で受けた。

 衝撃で腕が痺れる。

 だが、押し負けなかった。

 毒脚蜘蛛を倒したときよりも、身体に力が入る。

 灰牙狼を三体倒し、さらに祝福を得た。

 わずかな違いだ。

 それでも、生きるか死ぬかの場面では大きい。

 俺は剣を押し返し、狼の口元を弾いた。

 喉が見える。

 刃を横へ滑らせた。

 血が噴き出す。

 四体目。

 地面へ倒れた二体のうち、一体が起き上がる。

 もう一体は、先ほど脇腹を刺した狼だ。

 傷を負いながらも、牙を剥いている。

 俺は無傷の一体へ向けて剣を構えた。

 その瞬間、傷ついた狼が先に飛びかかってきた。

 仲間を守るつもりか。

 俺は半歩下がり、剣を下から突き出した。

 刃が胸へ入る。

 狼の重みが剣を通して腕へかかった。

 そのまま身体を横へ捻り、地面へ投げ落とす。

 五体目。

 だが、剣を抜くより早く、無傷の狼が俺の脚へ噛みついた。

「ぐっ!」

 防具に覆われていない場所へ牙が食い込む。

 俺は剣から手を放した。

 狼の耳を掴み、拳を頭へ叩き込む。

 一度。

 二度。

 狼が牙を外した。

 逃げる前に首を両腕で抱え込み、体重をかけて地面へ押し倒す。

 すぐ近くに落ちていた石を拾う。

 頭へ叩きつけた。

 狼が暴れる。

 もう一度。

 三度目で頭蓋が割れ、動きが止まった。

 六体目。

 残る灰牙狼は四体。

 奴らはすぐには来なかった。

 俺の周囲をゆっくり回りながら、傷ついた脚を見ている。

 血の匂いを嗅ぎ、弱るのを待っている。

 俺は剣を拾った。

 脚へ力を入れる。

 痛みはある。

 だが、骨までは届いていない。

 まだ動ける。

 灰牙狼の一体が、短く吠えた。

 二体が同時に飛びかかってくる。

 一体を剣で牽制する。

 もう一体が低い姿勢で足元へ入った。

 俺は避けず、前へ踏み込んだ。

 狼の肩を蹴り、身体を踏み台にして跳ぶ。

 頭上を越え、その背後へ着地した。

 振り向くより先に剣を突き刺す。

 七体目。

 もう一体が背中へ迫る。

 俺は剣を抜かず、身体だけを沈めた。

 狼が頭上を飛び越える。

 着地した場所には、毒脚蜘蛛の糸が残っていた。

 灰色の脚が糸へ貼りつく。

 狼が必死に引き剥がそうとする。

 俺は剣を抜き、動けない狼の首を斬った。

 八体目。

 残る二体が後退した。

 逃げるつもりらしい。

 一体は出口へ向かう。

 もう一体は、俺の注意を引くように唸り続けている。

 逃げる仲間を守るための囮か。

 俺は唸っている狼へ向かった。

 予想通り、狼は俺を引きつけながらゆっくり下がる。

 俺が追えば、もう一体は逃げ切る。

 だが、追うつもりはなかった。

 俺は足元の蜘蛛糸を剣先ですくい上げる。

 粘ついた糸を、逃げている狼へ投げた。

 背中には届かない。

 だが、後脚へ絡みついた。

 狼が転倒する。

 囮になっていた狼が振り返り、俺へ突進してきた。

 俺はその場で待った。

 牙が届く直前、身体をずらす。

 すれ違いざまに、剣を腹へ滑らせた。

 狼が血を撒き散らしながら転がる。

 追いかけ、首へ刃を突き立てる。

 九体目。

 最後の一体は、糸から脚を引き抜こうともがいている。

 俺はゆっくり近づいた。

 灰牙狼が牙を剥き、立ち上がろうとする。

 後脚が糸へ絡みつき、思うように動けない。

 それでも逃げるのではなく、俺へ飛びかかろうとしていた。

「お前たちも、生きたいだけか」

 魔物に俺の言葉は通じない。

 妻を殺した男のように、楽しんで誰かを苦しめているわけでもない。

 腹を満たすため。

 群れを守るため。

 それでも、ここで殺さなければ、殺されるのは俺だ。

「悪く思うな」

 灰牙狼が跳んだ。

 動きを制限された跳躍は、俺へ届かなかった。

 俺は一歩踏み込み、剣を振り下ろした。

 首へ刃が食い込む。

 もう一度振る。

 頭部が地面へ落ち、身体がゆっくり倒れた。

《灰牙狼を十体討伐しました》

《十体討伐報酬としてガチャ券を一枚獲得しました》

《灰牙狼討伐数:10/20》

《所持ガチャ券:九枚》

「あと一枚……」

 十一連まで、残り一枚。

 そして、このダンジョンでまだ倒していない魔物も一種類だけだ。

 そいつを倒せば、ガチャ券は十枚になる。

 同時に、六種類のコンプリートも達成する。

 俺は灰牙狼の死体から魔石を取り出した。

 すべてを回収する前に、何体かはダンジョンへ吸収されてしまった。

 それでも七個の魔石を確保できた。

 負傷した脚へ布を巻き、出血を抑える。

 テントへ戻ろうとしたとき、巣の奥から低い音が聞こえた。

 灰牙狼の唸り声ではない。

 岩背猪の足音とも違う。

 地面そのものが、わずかに震えている。

 一歩。

 また一歩。

 何か巨大なものが、洞窟の奥を歩いている。

 俺は暗視の働く目で、音のする方向を見た。

 岩壁に、五本の傷が残されている。

 一本一本が、俺の指より太い。

 まるで巨大な爪で、硬い岩を抉ったような痕だった。

 暗闇の奥から、腹の底まで震わせる咆哮が響いた。

 残る一種類が、近くにいる。


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