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【Amazonで発売中!】妻殺しの冤罪で七年間独房に閉じ込められた俺、脱獄後にダンジョンガチャで復讐を果たす  作者: 月瀬 リュカ


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第4話 初回無料十一連ガチャ

 十個――いや、十一個の光が、暗い通路を照らしていた。

 赤。

 青。

 白。

 色の違う光が、俺の周囲をゆっくりと回っている。

 目の前へ文字が浮かんだ。

《初回無料十一連ガチャの結果を開示します》

 一つ目の光が弾けた。

《初心者用防具セットを獲得しました》

 地面へ現れたのは、革の胸当てと籠手、脚当て、それに一足の靴だった。

 飾り気はない。

 使われている革も、特別上等には見えなかった。

 だが、傷も血の跡もない。

 山賊から奪った革鎧より、はるかに状態がよかった。

 二つ目の光が開く。

《保存食セットを獲得しました》

 硬いパンと干し肉、乾燥させた果実が、布袋に入った状態で現れた。

 三つ目。

《清潔な水を獲得しました》

 革袋に入った水が落ちてくる。

 四つ目。

《砥石を獲得しました》

 手のひらほどの石だった。

 剣の手入れに使える。

 五つ目。

《下級回復薬二本を獲得しました》

 赤い液体の入った小瓶が二本。

 六つ目。

《疲労回復薬を獲得しました》

 こちらは青い液体だった。

 七つ目。

《解毒薬を獲得しました》

 八つ目。

《干し肉を獲得しました》

 保存食セットにも入っていたものと、ほとんど同じに見える。

 九つ目。

《パンとチーズの包みを獲得しました》

 布に包まれた、柔らかそうなパンとチーズ。

 独房で与えられていた黒い塊とは違う。

 食べ物だと、一目で分かった。

 十個目の光が弾ける。

《火傷用軟膏を獲得しました》

 小さな陶器の容器が地面へ落ちた。

 そして、最後の光だけが残る。

 これまでの十個とは違い、淡い金色を帯びていた。

《十一個目の報酬を開放します》

《技能・暗視を獲得しました》

 光が俺の目へ吸い込まれた。

 反射的に瞼を閉じる。

 痛みはなかった。

 恐る恐る目を開く。

「……見える」

 暗闇に沈んでいたダンジョンの姿が、薄い灰色の景色となって浮かび上がった。

 濡れた岩壁。

 天井から垂れ下がる石。

 地面に散らばる小さな骨。

 奥へ続く通路まで、はっきりと見える。

 昼間のように色まで分かるわけではない。

 だが、歩くには十分だった。

 十一個の報酬。

 どれも、今の俺が生き延びるために使えるものだった。

 偶然にしては、都合がよすぎる。

 俺の状況を見て、必要なものを選んだのか。

 それとも、最初に引く者には同じものが与えられるのか。

 判断できる材料がない。

 今は考えても仕方がなかった。

 俺は《初心者用防具セット》を手に取った。

 革の胸当てには、身体へ合わせるための留め具がいくつもついている。

 山賊から奪った鎧を脱ぎ、新しい防具を身につけた。

 胸当て。

 籠手。

 脚当て。

 最後に靴を履く。

 わずかに大きかったが、革紐を締めれば問題なく歩けた。

 身体を動かしてみる。

 腕を振る。

 膝を曲げる。

 動きを大きく妨げることはない。

 薄い革だ。

 剣を防げるほど頑丈ではないだろう。

 それでも、爪や牙を直接受けるよりはましだった。

 俺は地面へ置いた報酬へ手を向けた。

 収納することを考える。

 防具以外の品が、次々と目の前の暗い空間へ吸い込まれていった。

《収納容量の一部を使用しました》

 十一個の報酬を入れても、まだかなり余裕がある。

 二立方メートルという広さを正確に想像するのは難しいが、今の荷物を運ぶには十分だった。

 次に砥石を取り出す。

 山賊から奪った剣の刃には、小さな欠けがいくつもあった。

 岩壁の近くへ腰を下ろし、刃へ砥石を当てる。

 七年間、剣を握っていなかった。

 それでも、昔覚えた手順までは失っていない。

 一定の角度を保ち、刃を滑らせる。

 音を立てすぎないよう、必要な部分だけを整えた。

 新品のようにはならない。

 だが、肉へ食い込む前に刃が滑る危険は減った。

 剣を鞘へ戻し、火傷用軟膏を取り出す。

 蓋を開けると、薬草の強い匂いがした。

 包帯を少しだけ外す。

 空気に触れただけで、頬へ焼けるような痛みが走った。

「……っ」

 声を漏らさないよう、奥歯を噛みしめる。

 指先へ軟膏を取り、焼けた皮膚の周囲へ塗った。

 ひんやりとした感触が広がる。

 火傷そのものが消えたわけではない。

 崩れた皮膚も、元の形には戻らない。

 だが、脈打つような痛みが少しずつ弱くなった。

 これでいい。

 顔を元に戻す必要はない。

 この傷は、俺が追手から逃れるために必要なものだ。

 再び包帯を巻き直す。

 次に、青い疲労回復薬を取り出した。

 小瓶を光へ透かす。

 今の身体で魔物と戦えば、途中で脚が止まるかもしれない。

 だが、ここで使い切れば、本当に動けなくなったときに何も残らない。

 俺は栓を抜かず、疲労回復薬を《収納》へ戻した。

 下級回復薬も使わない。

 今はまだ歩ける。

 剣も握れる。

 薬は、さらに深い傷や疲労を負ったときのために残しておくべきだ。

 俺は立ち上がり、剣の柄へ手を置いた。

 そのときだった。

 奥の通路から、硬いものが石を擦る音が聞こえた。

 ガリッ。

 ガリッ。

 先ほども聞こえていた音だ。

 暗視を得た今なら、音の正体を確かめられる。

 俺は岩壁へ背を預け、通路の奥を見た。

 何かが、こちらへ向かっている。

 地面すれすれの低い影。

 犬ほどの大きさ。

 四本の脚を持ち、背中には硬そうな突起が並んでいる。

 口からは、二本の長い牙が突き出していた。

 魔物が鼻を動かす。

 俺の血の臭いを嗅ぎつけたのかもしれない。

 暗視がなければ、姿を見る前に襲われていた。

 俺は剣を抜いた。

 鞘の擦れる音が、通路に小さく響く。

 魔物の頭が上がった。

 灰色の瞳が、俺を捉える。

「来い」

 魔物は低く唸り、地面を蹴った。

 速い。

 俺は正面から受けず、身体を横へずらした。

 魔物の牙が、胸当てをかすめる。

 鈍い衝撃。

 革が引き裂かれる音がした。

 だが、牙は身体まで届かなかった。

 防具がなければ、脇腹を深くえぐられていた。

 魔物が勢いのまま岩壁へ爪を立てる。

 すぐに向きを変えようとした。

 その前に、俺は剣を振り下ろす。

 刃が背中の突起へ当たった。

 硬い。

 火花が散り、剣が弾かれる。

 魔物が振り返る。

 口を大きく開き、再び飛びかかってきた。

 俺は一歩後ろへ下がった。

 牙が目の前を通り過ぎる。

 狙う場所を間違えた。

 背中は硬い。

 ならば、腹か喉だ。

 魔物は低い姿勢のまま、地面を蹴る。

 先ほどと同じ動き。

 俺は今度こそ、ぎりぎりまで引きつけた。

 牙が胸へ届く直前、左腕の籠手を突き出す。

 激しい衝撃。

 革の上から牙が食い込んだ。

 痛みが腕を走る。

 だが、骨までは届いていない。

 俺は噛みつかれた左腕を引かなかった。

 魔物の頭を押さえ込み、右手の剣を喉へ突き立てる。

 刃が肉を裂いた。

 魔物が暴れる。

 爪が脚当てを引っかいた。

 俺はさらに剣を押し込む。

 やがて魔物の身体から力が抜け、地面へ崩れ落ちた。

 剣を引き抜く。

 黒い血が、刃を伝って落ちた。

 俺はすぐには近づかなかった。

 剣先で身体を押す。

 反応はない。

 呼吸も止まっている。

 倒した。

 魔物を殺したのは、七年ぶりだった。

 いや。

 あの頃の俺なら、もっと簡単に倒せていたはずだ。

 身体は衰えている。

 勘も鈍っていた。

 初心者用防具と《暗視》がなければ、傷を負っていたのは俺の方だった。

 俺は噛まれた左腕を確認する。

 籠手には二つの穴が開いていた。

 皮膚には赤い痕が残っているが、血は出ていない。

 防具が、確かに俺の命を守った。

 倒れた魔物へ近づく。

 魔石があるとすれば、身体の奥だ。

 短剣を取り出し、胸元へ刃を入れた。

 肉の中を探ると、指先へ硬い感触が触れる。

 取り出したのは、親指の先ほどの小さな石だった。

 濁った灰色の中に、弱い光が揺れている。

 目の前に文字が浮かぶ。

《小魔石を獲得しました》

《岩背猪を初めて討伐しました》

《野良ダンジョン討伐記録:1/6》

《岩背猪討伐数:1/10》

《初回討伐ボーナスとして、ガチャ券を一枚獲得しました》

《所持ガチャ券:一枚》

《魔法のテントへ投入できます》

 売れば、いくらかの金にはなるのだろう。

 だが、今の俺には売る場所がない。

 追手はダンジョンの入口を見張っている。

 ここで何日過ごすことになるのかも分からない。

 必要なのは金ではなかった。

 安全に眠れる場所だ。

 俺は魔法のテントを取り出した。

 通路から少し外れた岩陰へ布包みを置く。

 淡い光が広がり、一人用のテントへ変わった。

 入口の横に、小さなくぼみが現れている。

 そこへ小魔石を入れた。

 魔石が光へ変わり、テントへ吸い込まれていく。

《小魔石を投入しました》

《安全結界を展開します》

 テントの周囲へ、透明な膜のような光が広がった。

 すぐに消えたように見えたが、空気の感触が変わっている。

《安全結界展開中》

《弱い魔物はテントへ接近できません》

《設備解放までの累積魔力が増加しました》

 俺は剣を握ったまま、しばらく待った。

 本当に安全なのか。

 文字だけを信じ、眠るつもりはない。

 やがて、別の足音が通路の奥から聞こえてきた。

 一体ではない。

 小さな影が二つ、こちらへ近づいてくる。

 先ほど倒した魔物の血の臭いに引き寄せられたのだろう。

 俺はテントの前で剣を構えた。

 二体の魔物は、倒れた仲間の死体へ近づいた。

 次に、俺へ顔を向ける。

 唸り声を上げながら走り出した。

 だが、テントから数歩離れた場所で、同時に足を止めた。

 見えない壁へぶつかったように、鼻先を引く。

 何度か周囲を回ったが、それ以上近づいてこない。

 やがて興味を失い、死体を引きずりながら暗闇の奥へ消えていった。

 結界は本物だった。

 俺はようやく剣を鞘へ戻し、テントの中へ入った。

 柔らかな照明。

 そして、一組の布団。

 それ以外には何もない。

 俺はパンとチーズの包みを収納から取り出し、布団のそばへ座った。

 パンは柔らかかった。

 チーズには、わずかな塩気と香りがある。

 少しずつ噛み、水と一緒に飲み込む。

 食べ終えたあとも、すぐには横になれなかった。

 布団を見つめる。

 独房では、眠っている最中に蹴り起こされることがあった。

 拷問の時間を告げる足音。

 鍵が開く音。

 看守の笑い声。

 眠ることは、無防備になることだった。

 ここには看守はいない。

 鎖もない。

 外に魔物はいる。

 だが、結界が近づくことを許さない。

 俺は剣を手の届く場所へ置き、ゆっくりと布団へ身体を横たえた。

 柔らかい。

 身体が沈む。

 石の冷たさもない。

 藁が皮膚へ刺さることもない。

 目を閉じても、誰にも罰せられない。

 それでもしばらくは眠れなかった。

 静かすぎた。

 安全すぎた。

 七年間忘れていた感覚に、身体の方が戸惑っている。

 やがて、張りつめていた力が少しずつ抜けていく。

 俺は七年ぶりに、自分の意思で眠りについた。


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