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【Amazonで発売中!】妻殺しの冤罪で七年間独房に閉じ込められた俺、脱獄後にダンジョンガチャで復讐を果たす  作者: 月瀬 リュカ


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第3話 ダンジョンガチャ

 遠くから、馬の蹄が聞こえた。

 俺は水面に映る、包帯だらけの顔から目を離す。

 追手だ。

 山賊の野営地を見つけたのか。それとも、森に残したわずかな痕跡を追ってきたのか。

 どちらでも構わない。

 ここに留まっていれば、いずれ見つかる。

 俺は火を消し、山賊から奪った荷物を背負った。

 顔が焼けるように痛む。

 包帯の下で脈打つたび、傷口へ熱した針を突き刺されているようだった。

 それでも、動かなければならない。

 俺は川の中を歩いた。

 冷たい水へ足を沈め、下流へ進む。

 岸を歩けば、足跡が残る。

 川の中なら、少なくとも進んだ方向までは悟られにくい。

「川辺を捜せ!」

 追手の声が聞こえた。

 近い。

 俺は川から上がり、木々の密集した斜面へ入った。

 濡れた服が肌へ張りつく。

 背負った荷物が重い。

 七年間、独房の中で鍛えていたとはいえ、長く走り続けられる身体ではなかった。

 肺が痛む。

 脚も限界に近い。

 それでも立ち止まらなかった。

 外へ出たばかりだ。

 まだ何も果たしていない。

 ここで捕まるわけにはいかない。

 木々の間を抜けた先に、灰色の岩壁が見えた。

 その根元に、大きな亀裂が走っている。

 人が一人、立ったまま通れるほどの隙間だ。

 入口の周囲には、獣のものとは違う爪痕が残されていた。

 地面には砕けた骨も転がっている。

 洞穴ではない。

 中から流れ出している空気には、独特の重さがあった。

 魔力を含んだ、ダンジョンの空気だ。

 だが、入口を管理する兵士はいない。

 冒険者ギルドの看板も、立ち入りを制限する柵もなかった。

 発見されても、まだ管理されていない野良ダンジョン。

 中に入れば、魔物がいる。

 どの程度の深さなのか。

 何が生息しているのか。

 何一つ分からない。

 背後から、再び馬の蹄が聞こえた。

 外に残れば捕まる。

 中へ入れば、魔物に殺されるかもしれない。

 迷う必要はなかった。

 俺はまだ、生き残れる可能性がある方を選んだ。

 岩壁の隙間へ身体を滑り込ませる。

 一歩入っただけで、外の光が急激に弱くなった。

 濡れた石の臭い。

 冷たい空気。

 奥から聞こえる、水滴の落ちる音。

 俺は壁へ手をつきながら進んだ。

 入口から離れすぎれば、戻れなくなる。

 だが、近すぎれば追手に見つかる。

 しばらく進むと、通路の脇に岩が重なった狭い隙間があった。

 俺はそこへ身体を押し込み、息を殺す。

 間もなく、外から男たちの声が聞こえた。

「足跡はここで途切れている」

「この中へ入ったのか?」

「野良ダンジョンだぞ。準備もなく入れば、俺たちまで死ぬ」

 声は入口で止まっている。

 すぐに追ってくる様子はなかった。

「奴は七年間、独房にいたんだ。まともに魔物と戦える身体じゃない」

「中で食われるまで待つか?」

「入口を見張れ。念のため、応援も呼んでこい」

 俺は岩陰で目を閉じた。

 予想どおり、すぐには入ってこない。

 だが、諦めてもいない。

 入口を見張られれば、外へは戻れない。

 追手が諦めるまで、ここで生き延びなければならなくなった。

 何日かかる。

 一週間か。

 それ以上か。

 食料には限りがある。

 水はダンジョン内で探せるかもしれないが、安全に飲める保証はない。

 そして、ここには魔物がいる。

 俺は背負っていた布袋を下ろした。

 今のまま奥へ進むのは危険だ。

 まず、持っているものを確認する必要がある。

 食料。

 水。

 傷薬。

 包帯。

 金貨。

 身分証。

 それから、馬車から急いで持ち出した小さな木箱。

 俺は身分証を取り出した。

 そこに記された年齢と出身地を、もう一度確認する。

 顔は火傷で変えた。

 服も囚人のものではない。

 追手を振り切り、町へ入ることができれば、俺はこの身分証に記された男として生きる。

 名前を目で追う。

 声には出さなかった。

 まだ、この名前は俺のものではない。

 町の門で初めて名乗ったときから、俺はこの男になる。

 身分証を懐へ戻した。

 最後に残ったのは、小さな木箱だ。

 片手で持てる大きさだが、簡単には開かない。

 錆びた留め金がかけられている。

 俺は短剣の先を隙間へ差し込み、力を込めた。

 一度目では外れない。

 二度目。

 金属が歪む音がした。

 三度目で、留め金が弾け飛んだ。

 蓋を開く。

 中に入っていたのは、握り拳ほどの黒い球体だった。

 宝石ではない。

 魔石とも違う。

 表面は磨かれた硝子のように滑らかで、その奥では淡い光がゆっくりと渦を巻いている。

 山賊たちは、これが何なのか知っていたのだろうか。

 知っていたなら、こんな箱の中へ放置していただろうか。

 俺は球体へ手を伸ばした。

 指先が触れた瞬間、黒い光が弾けた。

「――っ!」

 反射的に手を引く。

 だが、球体は俺の掌へ張りついたまま離れなかった。

 表面に亀裂が走る。

 中からあふれた光が腕を伝い、胸の奥へ吸い込まれていく。

 痛みはない。

 熱もない。

 それでも、得体の知れないものが身体へ入ってくる感覚に、俺は短剣を構えた。

 やがて黒い球体が完全に消えた。

 代わりに、目の前へ文字が浮かぶ。

《ガチャオーブとの接触を確認しました》

《所有者登録を開始します》

「……何だ、これは」

 顔を横へ向ける。

 文字も視界に合わせて動いた。

 壁に書かれているわけではない。

 目を閉じても消えなかった。

 独房で精神を壊した者たちを、何人も見てきた。

 何もない場所へ話しかける者。

 死んだ家族の声が聞こえると言い続ける者。

 俺も同じようになったのか。

 だが、文字は俺の疑念を無視して変化した。

《所有者登録が完了しました》

《固有能力・ダンジョンガチャを獲得しました》

 ダンジョンガチャ。

 聞いたことのない能力だった。

 だが、今いる場所がダンジョンであることとは、無関係ではないだろう。

 続けて、新しい文字が現れる。

《初回登録サービスを付与します》

《収納を獲得しました》

《収納容量:二立方メートル》

《生物は収納できません》

 目の前に、暗い裂け目のようなものが開いた。

 俺は短剣を握ったまま、しばらく様子を見る。

 風は吹いていない。

 何かが出てくる気配もない。

 試しに、足元の小石を拾って裂け目へ近づけた。

 指先から重さが消える。

 小石は音もなく、暗い空間へ吸い込まれた。

《小石を収納しました》

 取り出すことを考えると、再び目の前へ小石が現れた。

 俺はそれをつかむ。

 大きさも、重さも変わっていない。

「便利ではあるな」

 罠かもしれない。

 だが、追手から逃げながら荷物を背負い続けるよりはいい。

 俺は食料と水、傷薬、金貨を順番に収納した。

 背負っていた重さが消える。

 容量は二立方メートル。

 馬車一台分の荷物を入れられるほどではない。

 だが、今の俺が持っているものを収めるには十分だった。

 続いて、文字が現れる。

《魔法のテントを獲得しました》

《初期設備》

《照明》

《布団》

《魔石を消費することで、安全結界を展開できます》

《安全結界の展開中、弱い魔物はテントへ近づけません》

《魔石の累積投入量に応じて、設備が追加されます》

 魔石。

 魔物を倒せば、その体内から手に入ることがある。

 野良ダンジョンで暮らすなら、いずれ魔物とは戦わなければならない。

 倒して手に入れた魔石は、すべてテントへ入れる。

 まずは安全に眠れる場所を作る。

 追手が入口を見張っている以上、金に換えることを考えている余裕はなかった。

 俺が念じると、収納から小さな布包みが現れた。

 地面へ置く。

 直後、布包みが淡い光に包まれた。

 折り畳まれていた布が広がり、人が一人入れる程度のテントへ変わる。

 外から見れば、薄暗い色をした小さな天幕にすぎない。

 俺は剣を抜いたまま、入口を開けた。

 中には、柔らかな明かりが灯っていた。

 置かれているのは、一組の布団だけ。

 机もない。

 椅子もない。

 水も食料も出てこない。

 本当に、照明と布団だけだった。

 それでも俺は、入口に立ったまま動けなくなった。

 白い布団。

 汚れのない敷布。

 頭を乗せるための枕。

 独房にあったのは、冷たい石の床と、薄汚れた藁だけだった。

 冬になれば身体の熱を石へ奪われ、朝まで震えていた。

 横になってもいい。

 身体を丸めなくてもいい。

 誰かに蹴り起こされることもない。

 それが、すぐには信じられなかった。

 布団へ手を伸ばしかける。

 そのとき、表示が現れた。

《安全結界は停止しています》

《魔石を投入してください》

 俺は手を止めた。

 今はまだ、安全ではない。

 テントの外には、何がいるか分からない。

 このまま眠れば、魔物に襲われる可能性がある。

 布団を使うのは、魔石を手に入れてからだ。

 俺はテントを収納し、剣を握り直した。

 そのとき。

 通路の奥から、石を引っかく音が聞こえた。

 何かがいる。

 低い息遣い。

 複数ではない。

 少なくとも、今聞こえるのは一体だけだ。

 俺は岩壁へ背をつけ、音の方向へ身体を向けた。

 顔は痛む。

 身体も疲れている。

 武器は山賊から奪った剣だけ。

 だが、逃げることはできない。

 入口には追手がいる。

 そして、布団で眠るためには魔石が必要だ。

 目の前へ、再び文字が浮かんだ。

《初回無料十一連ガチャを使用できます》

《実行しますか?》

《はい/いいえ》

 正体の分からない力だ。

 何が出るかも分からない。

 だが、七年間の独房生活で学んだことがある。

 何も持たない者は、選ぶことすらできない。

 復讐を果たすには、力が必要だった。

 俺は《はい》へ指を伸ばす。

《初回無料十一連ガチャを実行します》

 十個の光が、暗いダンジョンを照らした。


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