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【Amazonで発売中!】妻殺しの冤罪で七年間独房に閉じ込められた俺、脱獄後にダンジョンガチャで復讐を果たす  作者: 月瀬 リュカ


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第32話 屍喰い蟲



 土の中から、巨大な顎が現れた。


 俺は剣を振り下ろす。


 氷膜をまとった刃が、上下に開いた口の奥へ入った。


 硬い外殻に弾かれる。


 浅い傷しかつかない。


 屍喰い蟲が身体を捻った。


 土と小石が飛び散る。


 俺は剣を引き、横へ跳んだ。


 直後、別の顎が足元から突き上がる。


 革靴の底を牙が掠めた。


 身体を回しながら着地する。


 地面の盛り上がりが、左右から近づいてくる。


 一体。


 二体。


 さらに奥からも三体。


 姿を見せているものだけで五体。


 土の中に、まだ何体いるか分からない。


 屍喰い蟲は、長い身体の大半を地中へ隠している。


 地上へ出ているのは、外殻に覆われた頭部だけだ。


 無理に近づけば、ほかの個体に足を食われる。


 俺は後退しながら、床の状態を見る。


 湿った土。


 地下水を多く含んでいる。


 凍らせられる。


 だが、広い範囲へ冷気を流せば、魔力の消耗が大きい。


 天井や壁まで凍れば、崩落する危険もある。


 必要な場所だけを狙う。


 魔力を左手へ集めた。


「《冷気》」


 正面を進む一体の周囲だけに、白い霜が広がる。


 湿った土が凍りついた。


 地中を進んでいた屍喰い蟲の動きが止まる。


 土の下から、身体を激しく揺らす音がした。


 凍った地面へ亀裂が入る。


 長くは拘束できない。


 俺は動きを止めた個体へ走った。


 口が開く。


 剣を突き入れるのではなく、上顎と下顎の間へ横向きに差し込んだ。


 牙が剣を噛む。


 鋼鉄の刃が軋んだ。


 屍喰い蟲の力は強い。


 正面から押し返すのは難しい。


 俺は自分から剣を押し込み、頭部の横へ回る。


 口を剣で塞いだまま、外殻の継ぎ目を探す。


 《解体》が、頭部の後ろに細い線を示した。


 生きている魔物の弱点は分からない。


 だが、外殻の構造は死体と変わらない。


 刃を引き抜く。


 顎が閉じる直前、頭部の付け根へ剣を振り下ろした。


 硬い感触。


 一撃では断てない。


 同じ場所へ二撃目。


 外殻が割れた。


 黒い体液が噴き出す。


 三撃目を叩き込む。


 頭部が胴から離れた。


 地中に隠れていた長い身体が、土を押し上げながら暴れる。


 やがて動かなくなった。


《屍喰い蟲を初めて討伐しました》


《ガチャ券を一枚獲得しました》


《共同墓地地下納骨堂討伐記録:6/?》


《所持ガチャ券:三枚》


 最初の一体。


 だが、残りは動きを止めてくれない。


 左右の地面が同時に盛り上がる。


 俺はその場から走った。


 二体の顎が、背後で閉じる。


 牙同士がぶつかる音。


 前方の土も動いた。


 挟まれた。


 立ち止まれば、足元から食われる。


 俺は壁へ向かって走る。


 屍喰い蟲が地面を割って飛び出した。


 口が腰の高さまで開いている。


 俺は壁を蹴った。


 身体を捻り、魔物の頭上を越える。


 空中から剣を振り下ろした。


 頭部の外殻へ刃が当たる。


 浅い傷。


 だが、氷膜の冷気が残った。


 着地する。


 屍喰い蟲が方向を変える。


 動きは速いが、小回りは利かない。


 頭部がこちらへ向く前に、凍りついた外殻へ二撃目を入れる。


 亀裂が広がった。


 三撃目。


 頭部の一部が砕ける。


 内部の肉へ剣を突き刺した。


 二体目。


 背後から土が弾ける。


 振り向く余裕はない。


 《危険察知》に従い、身体を左へ投げた。


 巨大な牙が右肩を掠める。


 革鎧が裂けた。


 墓守司祭の呪いを受けた場所へ、再び痛みが走る。


 屍喰い蟲の顎から、腐った肉の臭いがした。


 牙の根元には、黒ずんだ粘液が付着している。


 噛まれれば、傷口から何かが入る。


 毒か。


 病か。


 どちらにしても、受けたくない。


     ◇


 屍喰い蟲は、地面の下から繰り返し襲ってきた。


 姿が見えたときだけ斬っていては、こちらの体力が先に尽きる。


 俺は《収納》から鉄杭を一本取り出した。


 ガチャで得た物だ。


 長さは腕ほど。


 先端が鋭く尖っている。


 土の盛り上がりが近づく。


 俺は逃げずに待った。


 距離は三歩。


 二歩。


 足元の土がわずかに沈む。


 鉄杭を両手で握り、地面へ突き立てた。


 硬い外殻へ当たる。


 鉄杭が弾かれかけた。


 全体重をかけて押し込む。


 屍喰い蟲が地中で暴れた。


 杭を通じて、強い振動が腕へ伝わる。


 地面から頭部が飛び出した。


 口を大きく開き、俺の脚へ噛みつこうとする。


 剣を抜く時間はない。


 俺は鉄杭から手を離し、後ろへ下がった。


 屍喰い蟲の身体には、杭が刺さったままだ。


 地中へ戻ろうとする。


 だが、横向きになった鉄杭が土へ引っかかる。


 潜れない。


「使えるな」


 鋼鉄の剣を抜く。


 動きを止めた頭部の付け根へ、氷の刃を叩き込む。


 一撃。


 二撃。


 外殻が割れる。


 三体目。


 鉄杭を引き抜き、付着した体液を水で洗う。


 同じ方法で、次の一体を待つ。


 だが、魔物は学習したのか、真っすぐ近づいてこなかった。


 二つの盛り上がりが、左右へ分かれる。


 俺を中心に回り始めた。


 さらに背後からも土が動く。


 三体。


 同時に来る。


 俺は鉄杭を地面へ置き、左手を開いた。


 すべてを凍らせる必要はない。


 左右の二体が通過する場所へ、細く冷気を流す。


「《冷気》」


 白い線が地面を走った。


 二体の屍喰い蟲が、その線へ触れる。


 湿った土が瞬時に固まった。


 片方は止まる。


 もう一体は勢いのまま、凍った土を突き破った。


 だが、進む方向がずれた。


 地中の二体が衝突する。


 地面が大きく盛り上がった。


 土の下から、外殻が砕ける音が聞こえる。


 俺は鉄杭を拾い、盛り上がった中央へ突き刺した。


 黒い体液が地面から噴き出す。


 一体が飛び出した。


 頭部の横が割れている。


 もう一体に噛まれたのか。


 動きも鈍い。


 頭部の付け根を斬る。


 四体目。


 直後、足元の土が崩れた。


 衝突したもう一体が、下から顎を開いている。


 避ける場所がない。


 俺は剣を横向きにして、開いた口へ差し込んだ。


 牙が鋼鉄の剣を噛む。


 身体が持ち上げられた。


「ぐっ……!」


 屍喰い蟲が頭を振る。


 剣を離せば、俺の身体が口の中へ落ちる。


 両手で柄を握り、耐える。


 牙が少しずつ剣の腹を滑る。


 刃が外れれば、上下の顎に挟まれる。


 俺は剣へ魔力を集中させた。


「《氷膜》」


 屍喰い蟲の口内だけを冷気が覆う。


 牙。


 粘液。


 柔らかい肉。


 すべてが凍りついていく。


 魔物の動きが鈍った。


 口を閉じる力も弱まる。


 俺は片足を下顎へ置いた。


 剣を引き抜く。


 すぐに上顎の奥へ突き刺した。


 氷膜を厚くする。


 凍った口内へ亀裂が広がった。


 剣を捻る。


 屍喰い蟲の頭部が内側から割れた。


 五体目。


 身体が地面へ落ちる。


 俺も土の上へ転がった。


 立ち上がろうとした瞬間、背後の地面が盛り上がる。


 まだ一体残っている。


 俺は身体を起こさず、左手だけを向けた。


「《氷塊》」


 先端を尖らせた氷が飛ぶ。


 地面から現れた口の奥へ突き刺さった。


 屍喰い蟲が仰け反る。


 起き上がり、頭部の横へ回る。


 外殻の継ぎ目へ剣を入れる。


 六体目。


     ◇


 倒した魔物の魔石を回収する。


 地中に埋まった長い身体をすべて掘り出す余裕はない。


 《解体》で価値があると分かったのは、頭部の牙と外殻。


 状態のいい牙を四本。


 頭部の外殻を二枚。


 黒い粘液を蓄えていた袋も見つかったが、触れなかった。


 餓鬼亡者の体液と同じように、呪いを含んでいる可能性がある。


 先へ進む。


 地面の盛り上がりを見落とさないよう、歩幅を小さくする。


 魔力操作によって、冷気を足元の狭い範囲へ流し続けた。


 凍らせるほどではない。


 温度の違いを感じ取るだけだ。


 土の下に何かが動けば、冷気の流れが乱れる。


 一歩。


 二歩。


 左前方で、魔力の流れが歪んだ。


 剣を構える。


 屍喰い蟲が飛び出した。


 今度は先に動けた。


 横へ避け、頭部の付け根へ氷塊を放つ。


 細い氷が外殻の継ぎ目へ刺さった。


 同じ場所へ剣を振る。


 七体目。


 冷気の乱れ。


 右。


 鉄杭を地面へ突き刺す。


 外殻へ当たった。


 地上へ出てきた頭部を斬る。


 八体目。


 さらに二体。


 一体は冷気で動きを止める。


 もう一体には鉄杭を使う。


 先に凍らせた方の首を断つ。


 九体目。


 鉄杭を引きずって暴れる個体へ近づく。


 大きく開いた口へ、剣を突き込む。


 十体目。


《屍喰い蟲を十体討伐しました》


《ガチャ券を一枚獲得しました》


《所持ガチャ券:四枚》


 残る一体も、すぐ近くにいる。


 土の動きが速い。


 俺は鉄杭を構えた。


 だが、地面から現れた頭部は、これまでより小さかった。


 まだ成長途中の個体か。


 口が開く。


 俺は横へ避けた。


 屍喰い蟲は地中へ戻らず、そのまま全身を地上へ出した。


 長い。


 身体は俺の身長の二倍以上ある。


 無数の短い脚が、腐った肉の下で動いている。


 頭部だけを出していたのは、身体が地上では動けないからではない。


 獲物を待ち伏せするためだった。


 屍喰い蟲が壁を這い、こちらへ飛びかかる。


 俺は剣を振り上げた。


 柔らかい腹部が見える。


 氷の刃で、下から切り上げる。


 腹が裂けた。


 黒い体液と、食い残された骨が落ちてくる。


 身体を横へ投げる。


 屍喰い蟲が地面へ落ちた。


 まだ動いている。


 長い胴をくねらせ、俺の足へ巻きつこうとする。


 首の付け根へ剣を突き立てた。


 十一体目。


 洞窟が静かになった。


     ◇


 屍喰い蟲が潜んでいた通路を抜ける。


 その先には、広い空洞があった。


 天井から地下水が滴り、中央に黒い池を作っている。


 池の周囲には、無数の骨。


 人間。


 獣。


 魔物。


 屍喰い蟲が運び込んだ餌だろう。


 俺は足を止めた。


 骨の山の中に、形の残った死体がある。


 古い冒険者の革鎧。


 錆びた剣。


 共同墓地が閉鎖されたあと、ここへ侵入した者かもしれない。


 近づく。


 死体の腰には、腐食した革袋がついている。


 中から冒険者カードを取り出した。


 文字の大半は読めない。


 だが、上部に刻まれた等級だけは残っていた。


「Cランク……」


 この地下で、Cランク冒険者が死んでいる。


 屍喰い蟲に殺されたのか。


 さらに奥にいる魔物に殺されたのか。


 俺はカードを《収納》へ入れた。


 ギルドへ持っていけば、身元を確認できるかもしれない。


 そのとき。


 黒い池の中央で、水面が揺れた。


 波紋が広がる。


 俺は剣を構える。


 池の底から、白い顔が浮かび上がった。


 女。


 長い黒髪が、水面へ広がっている。


 目は閉じていた。


 肌には腐敗も傷もない。


 死体とは思えないほど、美しい顔だった。


 だが、胸から下は水の中に隠れている。


 女の目が開いた。


 白く濁った瞳が、俺を見た。


「あなた……生きているの?」


 人の言葉。


 一瞬、剣を下げかける。


 《危険察知》が、これまでにない強さで反応した。


 女の口元が笑う。


 黒い池の下から、無数の白い腕が伸びてきた。


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