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【Amazonで発売中!】妻殺しの冤罪で七年間独房に閉じ込められた俺、脱獄後にダンジョンガチャで復讐を果たす  作者: 月瀬 リュカ


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第29話 鎖を引く死者

 骸骨巨兵が壊した壁の向こうには、古い石段が続いていた。

 地下へ向かうほど、鎖を引きずる音が大きくなる。

 一定の間隔ではない。

 一度止まったかと思えば、急に近づいてくる。

 何かが歩いている音とも違った。

 俺は砕けた壁を抜け、石段へ足を置く。

 脇腹の傷がわずかに痛んだ。

 下級回復薬で塞がってはいるが、完全に治ったわけではない。

 骸骨巨兵に吹き飛ばされた背中や肩にも、重い痛みが残っている。

 それでも、戻るつもりはなかった。

《所持ガチャ券:七枚》

 あと三枚。

 十枚そろえば、十一連ガチャを引ける。

 強い魔物がいるなら、それだけ祝福も得られる。

 俺は氷膜をまとわせた剣を握り、石段を下りた。

 石段の先には、長い通路があった。

 左右の壁には、錆びた鉄輪がいくつも埋め込まれている。

 鉄輪から伸びた鎖は、途中で千切れていた。

 ここは納骨室ではない。

 生きた人間を閉じ込めるために作られた場所だ。

 壁には爪で引っ掻いたような傷が残っている。

 床には、崩れた人骨。

 鎖の先には、手枷や足枷がついていた。

 罪人を地下へつなぎ、そのまま死なせたのか。

 あるいは、病に侵された者を閉じ込めたのか。

 どちらにしても、ここで大勢が死んでいる。

 鎖を引きずる音が止まった。

 《危険察知》が反応する。

 正面ではない。

 右側。

 俺は壁から離れた。

 直後、暗闇から鎖が飛んできた。

 先端についた手枷が、俺の頭があった場所を通過する。

 石壁へぶつかり、火花が散った。

 鎖が引き戻される。

 通路の奥から、一体の骸骨が現れた。

 両手首に手枷。

 足首にも重い鎖が巻きついている。

 だが、動きを阻害されている様子はない。

 右腕の骨と鎖が一体化していた。

 鎖の先端についた手枷を、武器として振り回している。

 胸には、黒ずんだ頭蓋骨。

 骸骨人と似ているが、別の魔物だ。

 鎖が再び放たれる。

 今度は胸。

 剣で弾こうとして、手を止めた。

 鎖を受ければ、剣へ巻きつけられる。

 身体を沈める。

 頭上を通過した鎖が、背後の石柱へ巻きついた。

 骸骨が腕を引く。

 鎖が石柱を締め上げた。

 表面に亀裂が入る。

 骨だけの身体とは思えない力だった。

 鎖を引き戻される前に走る。

 距離を詰めれば、長い鎖は使えない。

 骸骨が左腕を振り上げる。

 そちらにも短い鎖がついていた。

 横から手枷が迫る。

 剣で受ける。

 衝撃で腕が痺れた。

 相手の胸へ剣を突き出す。

 骸骨が後退した。

 足枷の鎖が床を擦る。

 遅い。

 そう思った直後、床に落ちていた鎖が跳ね上がった。

 左足首へ巻きつく。

「なに……」

 骸骨が腕を引いた。

 足を取られ、背中から床へ倒れる。

 そのまま引きずられた。

 骸骨が足を上げる。

 俺の顔を踏み砕くつもりだ。

 剣を床へ突き立て、引きずられる身体を止める。

 左手を鎖へ向けた。

「《冷気》」

 白い霜が鎖を覆う。

 凍った鉄が硬くなり、動きが鈍った。

 骸骨がさらに引く。

 鎖が強く張った。

 俺は剣を振り下ろす。

 一撃。

 凍った鎖に亀裂が入る。

 二撃目。

 鎖が砕けた。

 足首が自由になる。

 踏み下ろされた骨の脚を横へ転がって避ける。

 すぐに立ち上がり、骸骨の懐へ入った。

 胸の黒い頭蓋骨へ剣を突き刺す。

 氷の魔力を流し込む。

 黒い頭蓋骨が内側から凍りついた。

 剣を捻る。

 骨が砕け、魔物の身体が床へ崩れ落ちた。

《鎖骸兵を初めて討伐しました》

《ガチャ券を一枚獲得しました》

《共同墓地地下納骨堂討伐記録:3/?》

《所持ガチャ券:八枚》

 鎖骸兵。

 床へ散らばった骨が動かないことを確認する。

 魔石を拾い、《収納》へ入れた。

 鎖も素材になるかもしれない。

 だが、錆びた鉄を持ち帰っても価値は低いだろう。

 今は先へ進む。

 通路の奥には、鉄格子が並んでいた。

 牢の跡だ。

 格子の向こうには人骨が積まれている。

 その数は、一人や二人ではない。

 俺が前を通るたび、骨の山から黒い光が浮かび上がった。

 鎖が動く。

 一つ目の鉄格子が、内側から吹き飛んだ。

 鎖骸兵が現れる。

 続いて二体。

 反対側の牢からも三体。

 奥の格子も破られた。

 全部で九体。

 先ほど倒した一体を加えれば、十体になる。

 鎖骸兵たちは通路へ広がった。

 狭い場所で、九本以上の鎖を相手にする。

 正面から突っ込めば、足や腕を拘束される。

 俺は一歩ずつ後退した。

 鎖骸兵たちが追ってくる。

 一体が鎖を放つ。

 身体を横へずらす。

 鎖が壁の鉄輪へ絡まった。

 続いて二本。

 一本を剣で下へ弾く。

 もう一本が右腕へ巻きついた。

 強く引かれる。

 剣を手放さないよう、柄を握り締めた。

 別の鎖が左脚を狙ってくる。

 後ろへ下がるのでは間に合わない。

 俺は自分から前へ走った。

 右腕を引いていた鎖が緩む。

 勢いのまま一体目へ肩からぶつかった。

 骨が壁へ叩きつけられる。

 胸の頭蓋骨へ剣を突き刺した。

 一体。

 左右から手枷が迫る。

 身体を沈める。

 二本の鎖が頭上でぶつかり、互いに絡まった。

 鎖骸兵たちが引く。

 鎖は外れない。

 二体の動きが止まる。

 俺は床へ手を向けた。

 生活魔法で水を広げる。

「《冷気》」

 通路の床が凍った。

 前へ出ようとした鎖骸兵が滑る。

 骨の身体が重なって倒れた。

 俺は氷の上を蹴る。

 自分から滑り、倒れた魔物の横を抜けた。

 起き上がる前に、一体の胸を砕く。

 二体目。

 振り向き、もう一体へ剣を振る。

 黒い頭蓋骨に亀裂。

 もう一撃。

 三体目。

 残る六体が、一斉に鎖を振り上げた。

 通路では避けきれない。

 俺は近くの鉄格子を蹴り開け、牢の中へ飛び込んだ。

 鎖が入口へ殺到する。

 鉄格子。

 壁の角。

 床の鉄輪。

 何本もの鎖が絡まり、動きを止めた。

 俺は牢の奥へ下がる。

 鎖骸兵が力任せに引いた。

 鉄格子が軋む。

 壁へ埋め込まれた鉄輪まで抜けかけている。

 長くは保たない。

 だが、十分だった。

 左手を向ける。

「《氷塊》」

 拳ほどの氷が、絡まった鎖へ当たる。

 冷気が鉄へ広がった。

 俺は牢から飛び出し、凍った鎖へ剣を叩きつける。

 砕けた鉄片が飛び散る。

 六体のうち、四体が右腕の鎖を失った。

 残る二体が手枷を振る。

 一本が肩へ当たった。

 革鎧の上から強い衝撃を受ける。

 身体が壁へぶつかった。

 もう一本が首へ巻きつこうとする。

 左手で鎖を掴んだ。

 掌へ錆びた鉄が食い込む。

 鎖骸兵が引く。

 喉が締まる前に、こちらから踏み込む。

 距離を詰め、剣を胸へ突き出した。

 四体目。

 残った鎖が床へ落ちる。

 肩の痛みを無視し、次へ向かう。

 鎖を失った個体は、骨の爪を伸ばしてきた。

 剣で腕を斬る。

 胸の黒い頭蓋骨へ蹴りを入れた。

 体勢が崩れたところへ剣を振り下ろす。

 五体目。

 右から二体。

 左から一体。

 背後にも気配がある。

 先ほど倒した骨を踏み越え、別の個体が牢から出てきた。

 数が合わない。

 九体ではなかった。

 牢の奥に、もう一体隠れていた。

 合計十体。

 先ほどの一体を含めれば十一体になる。

 十体目を倒せばいい。

 だが、今は残り五体。

 鎖が左右から飛んでくる。

 一歩前へ。

 一本を避ける。

 身体を回し、二本目を剣へ巻きつかせた。

 鎖骸兵が引く。

 剣ごと奪われる前に、俺も引き返した。

 互いの力が鎖へかかる。

 別の鎖骸兵が、その間へ入ろうとする。

「《氷膜》」

 剣を覆う霜が、巻きついた鎖へ移る。

 凍った部分を足で踏む。

 鎖骸兵がさらに引いた。

 鎖が途中から折れる。

 自由になった剣を横へ振る。

 近づいていた一体の胸を切り裂いた。

 六体目。

 後ろから手枷が背中へ当たる。

 前へ倒れそうになる。

 踏みとどまり、振り返らず剣を後ろへ突き出した。

 硬い感触。

 胸の頭蓋骨までは届いていない。

 剣を引き抜き、身体を回す。

 同じ場所へ二撃目。

 七体目。

 残り三体。

 呼吸が荒い。

 肩と背中が痛む。

 魔力も減っている。

 それでも、鎖骸兵の動きはもう分かった。

 鎖を放つ直前、肩の骨が持ち上がる。

 引き戻すときには、胸の頭蓋骨がわずかに前へ出る。

 一体が鎖を振る。

 避ける。

 引き戻す瞬間に踏み込む。

 胸へ剣を突き刺す。

 八体目。

 二体が同時に鎖を放った。

 俺は床へ滑り込む。

 二本の鎖が頭上を通過した。

 立ち上がりながら、一体の脚を斬る。

 倒れた胸へ剣を振り下ろした。

 九体目。

 最後の一体が、両腕の鎖を振り回す。

 近づけない。

 左右の壁へ手枷がぶつかり、石片が飛ぶ。

 俺は剣を構えたまま待った。

 鎖の回転が速くなる。

 鎖骸兵が前へ出る。

 床には、先ほど凍らせた水が残っている。

 魔物の足が氷を踏んだ。

 わずかに滑る。

 鎖の軌道が下がった。

 俺はその上を飛び越えた。

 鎖骸兵の肩へ足をかける。

 身体を捻りながら、胸の頭蓋骨へ剣を突き立てた。

 魔物が倒れる。

 剣をさらに押し込む。

 黒い頭蓋骨が砕けた。

《鎖骸兵を十体討伐しました》

《ガチャ券を一枚獲得しました》

《所持ガチャ券:九枚》

 十体目。

 俺は剣を引き抜き、その場へ膝をついた。

 十一体すべてを倒した。

 だが、ガチャ券はまだ九枚。

 あと一枚だ。

 息を整え、魔石を回収する。

 十一個。

 すべて《収納》へ入れた。

 鎖骸兵がいた牢を一つずつ調べる。

 古い骨。

 錆びた食器。

 壁へ刻まれた日数。

 証拠になりそうな物はない。

 最後の牢だけ、奥の壁が壊れていた。

 人が這って通れるほどの穴。

 その先から、弱い明かりが漏れている。

 鎖を引きずる音は、もう聞こえなかった。

 代わりに、小さな鐘の音が響く。

 一度。

 間を空けて、もう一度。

 墓地の礼拝堂で使われる鐘とは違う。

 もっと小さい。

 人の葬儀で、死者を送るために鳴らす鐘。

 俺は穴を抜けた。

 広い円形の部屋へ出る。

 中央には、石造りの祭壇。

 その前に、黒い法衣をまとった死体が立っていた。

 腐った肉が骨へ張りついている。

 顔には目も鼻もない。

 口だけが大きく開いていた。

 左手には小さな鐘。

 右手には、骨で作られた杖。

 死体が鐘を鳴らす。

 澄んだ音が地下へ広がった。

 床へ散らばっていた骨が動き始める。

 先ほど倒した鎖骸兵たちではない。

 円形の部屋に埋められていた無数の腕が、床を破って伸びてきた。

 俺の足首を掴もうとする。

 剣で一本を斬る。

 別の腕が革靴へ絡みついた。

 蹴って外す。

 黒い法衣の死体が、もう一度鐘を鳴らそうとする。

 あの鐘が、骨を動かしている。

 俺は投げナイフを抜いた。

 狙うのは死体ではない。

 左手の鐘。

 腕を振る。

 ナイフが鐘へ当たった。

 金属音。

 鐘が死体の手から落ち、床を転がる。

 動き始めていた骨の腕が止まった。

 黒い法衣の死体が、大きな口を開く。

 声の代わりに、黒い霧が吐き出された。

 《危険察知》が強く反応する。

 俺は横へ走った。

 黒い霧が、背後の石壁へ触れる。

 表面に苔のような黒い染みが広がった。

 毒か。

 呪いか。

 触れない方がいい。

 死体が骨の杖を床へ突く。

 止まっていた腕が、再び動き出した。

 鐘がなくても、完全には止められない。

 俺は祭壇へ向かって走る。

 床から伸びた腕が、左脚へ絡みつく。

 一本。

 二本。

 足が止まる。

 黒い死体が、杖をこちらへ向けた。

 先端に黒い霧が集まる。

 俺は左手を床へ向けた。

「《冷気》」

 脚を掴んでいた骨の腕が凍りつく。

 剣でまとめて断つ。

 前へ出る。

 黒い霧が放たれた。

 避けきれない。

 《氷膜》をまとった剣を盾のように構える。

 冷気と黒い霧がぶつかった。

 霜が一瞬で黒く染まる。

 剣から嫌な振動が伝わった。

 魔力を強く流す。

 氷膜が厚くなり、黒い霧を左右へ押し流した。

 完全には防げない。

 霧の一部が右肩へ触れた。

 《耐久の革鎧》の表面が黒く変色する。

 皮膚へ冷たい痛みが走った。

 それでも足は止めなかった。

 黒い死体の前へ踏み込む。

 骨の杖が振り下ろされる。

 剣で受ける。

 見た目より重い。

 腕が押し下げられた。

 死体の口が開く。

 近距離で黒い霧を吐くつもりだ。

「《氷塊》」

 氷を口の中へ撃ち込む。

 死体の頭が後ろへ反った。

 吐き出しかけた霧が、口の中で広がる。

 腐った顔が黒く膨らんだ。

 俺は剣を横へ振る。

 首を切断した。

 頭部が祭壇の上へ落ちる。

 それでも身体は倒れない。

 骨の杖が、俺の脇腹へ突き出された。

 避けるのが遅れた。

 杖の先端が革鎧へ当たる。

 治りかけていた傷へ衝撃が入った。

「ぐっ……!」

 息が詰まる。

 後退した俺へ、首のない死体が迫る。

 核は頭ではない。

 法衣の胸元が、黒く脈打っている。

 俺は痛みを堪え、剣を両手で握った。

 杖が振られる。

 身体を沈めて避ける。

 法衣の胸へ剣を突き刺した。

 硬い物へ当たる。

 骨ではない。

 石。

 黒い魔石が、胸の中に埋め込まれている。

 死体が杖を持ち上げた。

 剣へ魔力を流す。

「《氷膜》」

 刃から冷気が広がる。

 胸の黒い魔石が凍りついた。

 さらに押し込む。

 魔石の表面に亀裂が入る。

 杖が俺の背中へ振り下ろされた。

 強い衝撃。

 膝が床へつく。

 剣だけは離さない。

「壊れろ」

 柄へ全体重をかけた。

 黒い魔石が砕ける。

 首のない身体が止まった。

 骨の杖が床へ落ちる。

 黒い法衣の中身が崩れ、腐った肉と骨へ戻った。

《墓守司祭を初めて討伐しました》

《ガチャ券を一枚獲得しました》

《共同墓地地下納骨堂討伐記録:4/?》

《所持ガチャ券:十枚》

 胸の奥へ、強い祝福が流れ込む。

 熱が全身へ広がった。

 肩の痛み。

 脇腹の傷。

 疲労。

 すべてが消えるわけではない。

 それでも、身体の奥に新しい力が積み重なっていく。

《一定量の祝福が蓄積しました》

《レベルが上昇しました》

《身体能力が上昇しました》

 剣を支えにして立ち上がる。

 足元には、墓守司祭が持っていた小さな鐘。

 骨の杖。

 砕けた黒い魔石。

 鐘と杖を《収納》へ入れる。

 使い道は分からない。

 だが、このダンジョン特有の素材なら、残しておく価値はある。

 右肩を見る。

 黒い霧に触れた革鎧が変色している。

 内側の皮膚も赤黒くなっていた。

 毒ではないらしい。

 解毒薬を飲むべきか判断できない。

 下級回復薬を一本使う。

 傷の痛みは弱まったが、黒い染みは残った。

 長く戦い続ける状態ではない。

 俺は円形の部屋を調べた。

 祭壇の裏に、小さな石室がある。

 出入口は一つ。

 中に魔物の気配はない。

 床へ細い紐と鈴を張る。

 その奥へ《魔法のテント》を出した。

 魔石を補充する。

《魔法のテントへ魔石を補充しました》

《障壁出力が回復しました》

 テントへ入り、革鎧を脱ぐ。

 魔法のケトルで湯を作り、身体の汚れと血を拭った。

 簡易調理台へ鍋を置く。

 干し肉。

 乾燥豆。

 塩。

 少量の水。

 煮えるまでの間、寝台へ腰を下ろした。

 全身が熱い。

 レベルが上がった反動だろう。

 身体の奥では力が増えているのに、今は指一本動かすのも重い。

 それでも、手元には十枚のガチャ券がある。

 この状態で先へ進むには、新しい力が必要だ。

 意識を集中する。

《ガチャ券を十枚消費します》


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