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【Amazonで発売中!】妻殺しの冤罪で七年間独房に閉じ込められた俺、脱獄後にダンジョンガチャで復讐を果たす  作者: 月瀬 リュカ


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第22話 共同墓地地下納骨堂

 礼拝堂の地下で、二つの明かりが揺れている。

 共同墓地の外から見えるのは、それだけだった。

 中にいるのは、少なくとも二人。

 最初に墓地へ入った外套の男。

 そして、地下で待っていた何者か。

 俺は空き家の陰で動かず、礼拝堂を見続けた。

 すぐに追えば、侵入に気づかれるかもしれない。

 外套の男が何者なのかも分からない。

 どれほど強いのか。

 ほかに仲間がいるのか。

 墓地の中に罠があるのか。

 情報が足りない。

 だが、時間をかけすぎることにも危険がある。

 次の証拠が、あの地下にある。

 外套の男が証拠を回収しに来たのなら、朝まで待っている間に持ち去られる。

 破棄されれば、二度と手に入らない。

「行くしかないか」

 通りの奥から足音が聞こえた。

 二人組の巡回兵が、灯りを手に歩いてくる。

 俺はさらに空き家の壁へ身体を寄せ、《隠密》を強めた。

 巡回兵は共同墓地の正門で立ち止まった。

 鎖を引き、錠がかかっていることを確認する。

 外套の男は、墓地へ入ったあとに再び施錠していた。

 外から見れば、誰かが侵入したとは思わないだろう。

「異常なしだな」

「ああ。次へ行くぞ」

 二人が離れていく。

 足音が聞こえなくなるまで待った。

 今なら動ける。

 共同墓地の裏側へ回る。

 石壁の一部が崩れ、ほかよりも低くなっている場所があった。

 周囲に人影はない。

 壁へ手をかけ、身体を持ち上げる。

 全能力が上がったことで、動きは以前よりも軽い。

 壁の上から内部を確認する。

 傾いた墓石。

 伸び放題の草。

 枯れた木。

 動くものは見えない。

 俺は反対側へ身体を下ろした。

 着地の直前に石壁へ片手をつき、落下の勢いを殺す。

 革靴が土へ触れた。

 ほとんど音はしなかった。

 《隠密》を維持したまま、墓石の間を進む。

 礼拝堂までの地面には、真新しい靴跡が残っていた。

 外套の男のものだろう。

 足跡は正面の扉へ続いている。

 礼拝堂の扉は、わずかに開いていた。

 俺は横から内部を覗く。

 明かりはない。

 祭壇。

 倒れた長椅子。

 割れた窓。

 床には厚く埃が積もっている。

 だが、祭壇の前だけは埃が薄い。

 何度も人が歩いている。

 俺は扉を押し、身体が通るだけの隙間を作った。

 蝶番が鳴りかける。

 すぐに手を止めた。

 少しずつ力を加え、音を抑える。

 礼拝堂へ入った。

 外から見えた明かりは、もうない。

 祭壇の裏へ回る。

 石造りの祭壇が、横へずらされていた。

 床には、地下へ続く階段が口を開けている。

 冷たい風が吹き上がってきた。

 古い土。

 黴。

 そして、腐った肉に似た臭い。

 ただの地下納骨堂ではない。

 俺は《暗視》を使い、階段の奥を見る。

 石壁の一部が、淡い光を放っていた。

 ローデン地下迷宮で見たものと同じだ。

 さらに深い場所から、硬いものが擦れ合う音が聞こえる。

 骨。

 骨同士が触れ合っているような音だった。

 俺が一段目へ足を置いた瞬間、文字が浮かび上がる。

《未登録ダンジョンへの侵入を確認しました》

《共同墓地地下納骨堂》

《魔物種討伐記録:0/?》

「やはり、ダンジョンか」

 町は、この場所を把握しているのか。

 少なくとも冒険者ギルドでは聞かなかった。

 地下納骨堂がダンジョン化したから、墓地そのものを閉鎖した可能性もある。

 外套の男は鍵を持っていた。

 このダンジョンの存在を知っている。

 俺は剣へ手をかけた。

 だが、抜かなかった。

 今の目的は、魔物を倒すことではない。

 外套の男を追い、証拠を見つけることだ。

 ここで戦えば、音が地下全体へ響く。

 俺の存在を知らせることになる。

 ガチャ券も、コンプリート報酬も後回しだ。

 証拠を失えば、何体魔物を倒しても意味がない。

 地下階段を下りる。

 壁には古い墓碑が並び、ところどころに人骨が積まれていた。

 地下へ埋葬された者たちの骨だろう。

 だが、床に落ちているすべてが、ただの骨ではなかった。

 通路の先で、白い塊が動く。

 複数の人骨が、無理やり一つの身体へ組み合わされていた。

 腕が三本。

 脚は二本だが、長さが違う。

 頭蓋骨が、胸の位置に埋まっている。

 骨の魔物は、壁へ手をつきながら通路を徘徊していた。

 目はない。

 耳もない。

 それでも、ときどき立ち止まり、周囲を探るように頭蓋骨を動かしている。

 俺は通路脇の窪みへ入った。

 背中を壁へつけ、動きを止める。

 呼吸を浅くする。

 骨の魔物が近づいてきた。

 一歩。

 また一歩。

 足の骨が床を擦るたび、乾いた音が響く。

 俺のすぐ前で止まった。

 空洞の眼窩が、こちらへ向く。

 距離は腕一本分もない。

 俺は呼吸を止めた。

 骨の指が伸びる。

 革鎧の胸へ触れる直前で止まった。

 頭蓋骨が左右へ動く。

 何かを探している。

 《隠密》で気配は抑えられている。

 だが、姿そのものは消えていない。

 この魔物に目がないから通じているだけかもしれない。

 骨の指が、さらに近づく。

 革鎧の表面を擦った。

 わずかな音。

 胸の奥が強く脈打つ。

 骨の魔物が動きを止めた。

 気づかれたか。

 俺は剣を抜く準備をした。

 しかし、魔物はやがて腕を下ろした。

 何も見つけられなかったように、別の通路へ歩いていく。

 乾いた足音が遠ざかる。

 俺は静かに息を吐いた。

 《隠密》は死霊にも通じる。

 だが、触れられれば見つかる可能性がある。

 過信はできない。

 地下の奥から、かすかに声が聞こえた。

 俺は音のする方向へ進む。

 角を曲がる前に足を止め、壁際から覗いた。

 広い部屋。

 左右には石棺が並んでいる。

 中央に二人の男がいた。

 一人は、墓地へ入った外套の男。

 もう一人は、白髪の老人だった。

 老人は古びた外套を着て、腰に鍵束を下げている。

 共同墓地の管理者だろうか。

 俺は近くの石棺の陰へ移動した。

 声が聞き取れる距離まで近づく。

「これ以上、ここへ来るのは危険だ」

 老人が言った。

「魔物は以前より増えている。奥の通路も崩れ始めている」

「それでも行け」

 外套の男の声は低い。

「命令だ。明日の夜までに、奥の部屋を空にする」

「すべてか?」

「すべてだ」

 老人の顔が強張る。

「七年前の物まで持ち出すのか?」

 七年前。

 俺の指が、石棺の縁を強く掴んだ。

 マリエルが殺された年。

 俺が捕まり、独房へ入れられた年だ。

「残しておく理由がない」

「だが、あれは……」

「お前が内容を知る必要はない」

 外套の男が一歩近づいた。

「運び出せない物は、その場で燃やせ」

 証拠を消しに来た人間。

 その可能性が高い。

 俺が迷宮をコンプリートし、証拠の所在を知った直後。

 同じ夜に証拠を消す者が現れた。

 偶然ではない。

 ヴァルドの側で、何かが動き始めている。

 老人は首を振った。

「私一人では奥へ行けない。骨の魔物だけではない。もっと大きなものがいる」

「なら、お前が先に歩け」

「何を……」

「お前はこの地下を知っている。安全な道も知っているはずだ」

「今の地下に、安全な道などない」

 外套の男が老人の胸倉を掴んだ。

「なら、ここで死ね」

 静かな声だった。

「鍵さえ回収できれば、お前に用はない」

 老人の顔から血の気が引いた。

 二人は仲間ではない。

 老人は、この場所を知っているだけだ。

 外套の男は、命令を受けて証拠を消しに来た。

「分かった……案内する」

 老人が絞り出すように答えた。

 外套の男は手を離す。

「最初からそう言えばいい」

 二人は部屋の奥へ向かった。

 老人が壁の一部へ触れる。

 石壁がわずかに動き、狭い通路が現れた。

 隠し通路。

 老人が灯りを持って先へ入る。

 外套の男が、そのあとを追った。

 俺も石棺の陰から出る。

 距離を保ち、二人を尾行した。

 隠し通路は狭かった。

 左右の壁には、古い骨壺が並んでいる。

 少しでも触れれば、落ちて割れる。

 俺は足元だけでなく、肩や剣の鞘にも注意して進む。

 前方で外套の男が立ち止まった。

 俺もすぐに動きを止める。

「どうした?」

 老人が振り返る。

「……誰かに見られている気がした」

 外套の男が後ろへ顔を向けた。

 俺は壁のくぼみへ身体を寄せる。

 《隠密》を強める。

 呼吸を止めた。

 外套の男は、しばらく暗闇を見つめていた。

 顔は頭巾で隠れている。

 だが、視線だけははっきりと感じた。

 感覚の鋭い男だ。

 今までの冒険者とは違う。

 《隠密》があっても、距離を詰めすぎれば気づかれる。

「何もいない」

 老人が言った。

「この地下では、そういう気配を感じることがある。死者に見られているのだ」

「くだらん」

 外套の男は前へ向き直った。

 二人が再び歩き始める。

 俺はすぐには追わなかった。

 足音が少し離れてから、動き出す。

 通路の脇から、骨の擦れる音が聞こえた。

 別の横穴から、骨の魔物が現れる。

 一体ではない。

 三体。

 五体。

 崩れた人骨を集めながら、こちらの通路へ入ってきた。

 外套の男たちは、すでに角を曲がっている。

 魔物を倒せば、戦闘音が届く。

 待っていれば、二人を見失う。

 骨の魔物が道を塞ぐように広がった。

 俺は剣を抜かなかった。

 床を見る。

 地下水が流れ、薄く濡れている。

 左手を向けた。

「《冷気》」

 声はほとんど出さない。

 冷たい魔力が床を這う。

 水が白く濁り、薄い氷へ変わっていく。

 骨の魔物が氷を踏んだ。

 足の骨が滑る。

 一体が倒れ、隣の個体へぶつかった。

 骨同士が絡み合う。

 乾いた音が連続した。

 大きい。

 前方へ届くかもしれない。

 俺は倒れた魔物の横を走り抜けた。

 一体が骨の腕を伸ばす。

 外套の端を掴まれた。

 布が引かれる。

 俺は外套の留め具を外し、その場へ残した。

 骨の魔物が灰色の布を抱え込む。

 その隙に横を抜ける。

 討伐はしていない。

 祝福も、ガチャ券も得られない。

 それでいい。

 今は追いつくことが先だ。

 通路の奥で、重い音が響いた。

 扉が閉まる音。

 急ぐ。

 だが、走れば気づかれる。

 《隠密》を保ったまま、可能な限り速く進む。

 やがて、古い鉄扉が見えた。

 扉の表面には、一つの紋章が刻まれている。

 炎をまとった剣。

 町で見た。

 ヴァルドの外套や馬車にも使われていた紋章。

 クロイツ家。

 証拠がここにある理由が、はっきりした。

 鉄扉へ耳を近づける。

 中から、老人の声が聞こえた。

「本当に、これをすべて処分するのか?」

「ああ」

 外套の男が答える。

「七年前の帳簿もだ」

 紙を動かす音。

 箱の蓋が開く音。

「それと、女から回収した品もすべて燃やす」

 女。

 誰のことだ。

 マリエルなのか。

 胸の奥で、冷たいものが広がる。

 証拠が、この扉の向こうにある。

 今まさに燃やされようとしている。

 俺は鋼鉄の剣へ手をかけた。

 ここで扉を開けば、外套の男と戦うことになる。

 地下の魔物も集まってくるかもしれない。

 それでも、待つことはできない。

「間に合わせる」

 俺は鉄扉の取っ手へ手を伸ばした。


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