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【Amazonで発売中!】妻殺しの冤罪で七年間独房に閉じ込められた俺、脱獄後にダンジョンガチャで復讐を果たす  作者: 月瀬 リュカ


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第21話 閉鎖された共同墓地

 ローデンの町が見えたのは、日が傾き始めた頃だった。

 迷宮を出てから、半日。

 足は止めなかった。

 全能力が上昇したおかげで、身体にはまだ余力がある。

 それでも、黒鉱蠍に刺された左腕は鈍く痛み、何日も続いた戦闘の疲れが消えたわけではない。

 城門の前には、町へ入る商人や旅人が列を作っていた。

 俺も最後尾へ並ぶ。

 冒険者証を確認した門番が、そこに記された名前を読み上げた。

「シュナイダー。Fランク冒険者か」

「ああ」

「ずいぶん汚れているな」

「迷宮に潜っていた」

 門番は俺の革鎧と、乾ききっていない傷を見た。

 それ以上は尋ねず、冒険者証を返す。

「入っていいぞ」

 城門を通る。

 人の声。

 荷車の音。

 焼いた肉とパンの匂い。

 数日前と変わらない町の中へ戻ってきた。

 だが、俺の頭にあるのは一つだけだ。

《ローデン旧市街》

《閉鎖された共同墓地》

 次の証拠が、そこにある。

 最初に冒険者ギルドへ向かった。

 迷宮で集めた素材を、すべて出すつもりはない。

 Fランクになったばかりの男が、奥に生息する魔物の素材を大量に持ち込めば目立つ。

 俺は《収納》の中から、傷のある鉱殻蟻の大顎と、鉄牙百足の牙を数本だけ取り出した。

 ほかには、洞窟蜥蜴の皮を一枚。

 黒鉱蠍の毒腺は高く売れる。

 だが、それを新人が何個も持ち込めば、どこで手に入れたのか聞かれるだろう。

 一個だけにしておく。

 買取窓口の前へ素材を置いた。

 職員が一つずつ確認する。

「鉱殻蟻の大顎に、鉄牙百足の牙……こちらは洞窟蜥蜴ですね」

「ああ」

「黒鉱蠍の毒腺までありますが、これはご自身で解体を?」

「そうだ」

 職員が毒腺を光へ透かす。

「傷がありません。中身も漏れていない。かなり丁寧な処理です」

 《解体》が示した線に沿って、小刀を入れただけだ。

 それでも、普通に切り出した物とは違うらしい。

「黒鉱蠍の毒腺は、傷があると買取価格が大きく下がります。これは状態がいいので、通常より高く買い取れます」

 職員が計算板を動かす。

 提示された金額は、予想よりも多かった。

 食料や薬を買っても、しばらくは困らない。

 迷宮で魔石を売らずに済む。

「これで頼む」

「分かりました。ただし……」

 職員が冒険者証を見た。

「シュナイダーさんは、まだFランクですよね」

「ああ」

「黒鉱蠍の生息場所は、Fランク冒険者が一人で向かうような場所ではありません」

 責める口調ではない。

 死者を出したくないのだろう。

「仲間は?」

「いない」

「では、なおさらです。今回は戻ってこられましたが、次も同じとは限りません」

「気をつける」

 それだけ答えた。

 黒鉱蠍を十二体倒したとは言わない。

 迷宮をコンプリートしたことも。

 氷魔法や魔法のテントを持っていることも。

 職員は何か言いたそうだったが、硬貨の入った袋を差し出してきた。

「無理はしないでください」

 受け取り、ギルドを出た。

 道具屋で必要な物を揃える。

 暗い灰色の外套。

 予備の包帯。

 新しい解毒薬。

 短い縄。

 小型の鉄梃。

 手に持つ明かりは、必要なときだけ狭い範囲を照らせる物を選んだ。

 墓地へ忍び込むなら、明るすぎる物は使えない。

 次に、町と旧市街が描かれた地図を買う。

 共同墓地について直接尋ねることはしなかった。

 証拠が隠されている場所を探していると知られれば、余計な目を引く。

 地図を広げる。

 ローデン旧市街は、現在の町の西側にあった。

 かつて城壁の内側だった区画。

 町が東へ広がったことで、人も店も減り、今では古い建物ばかりが残っている。

 共同墓地は、そのさらに外れ。

 地図には、小さな印しか描かれていなかった。

 宿へ戻る前に、露店で食事を買った。

 焼いた肉を挟んだ黒パン。

 腹に入れる。

 温かい。

 味もある。

 だが、食事を楽しむ余裕はなかった。

 共同墓地が、なぜ閉鎖されたのか。

 今も誰かが管理しているのか。

 墓地のどこに証拠があるのか。

 分からないことが多すぎる。

 宿屋で湯を借りた。

 何日分もの血と汗を洗い流す。

 黒鉱蠍に刺された左腕は赤く腫れていたが、毒の痺れはほとんど消えている。

 湯へ浸かり、傷を確認する。

 独房にいた頃より、身体は明らかに強くなった。

 失っていた筋肉も戻り、その頃よりさらに力が増している。

 だが、傷跡は消えない。

 腕。

 胸。

 背中。

 七年間に刻まれた跡が残っている。

 部屋へ戻り、鏡の前に立った。

 焼いた顔。

 片側を隠す包帯。

 シュナイダーという偽名。

 門番も、ギルド職員も、誰も俺が妻殺しの罪で処刑された男だとは気づかなかった。

「この顔にも慣れたな」

 鏡の中の男へ呟く。

 顔は捨てた。

 名前も隠した。

 だが、マリエルの夫だったことまで捨てたわけではない。

 俺は灰色の外套を羽織った。

 共同墓地について、もう少し情報が必要だった。

 酒場へ入り、安い酒を一杯だけ注文する。

 カウンターの端で飲みながら、周囲の話を聞いた。

 冒険者。

 荷運び人。

 年老いた職人。

 酔った男たちの会話に、旧市街の話が混じる。

「西側は暗くなると危ねえぞ」

「建物が崩れかけてるからな」

「昔の墓地も、まだ残ってるんだろ?」

「共同墓地か。とっくに閉じられたよ」

 俺は杯へ口をつけたまま、耳を向ける。

「何で閉じたんだ?」

「新しい墓地ができたからだろ。旧市街の方は地下まで古くて危ねえらしい」

「墓荒らしが入ったって話もあったな」

「夜は巡回が来るぞ。捕まりたくなきゃ近づかないことだ」

 地下。

 巡回。

 それだけでも十分だった。

 別の店では、年老いた露店商から旧市街の道を聞いた。

 墓地の話は出さない。

「西へ行くなら、日が落ちる前に戻ってきな。あっちは人が少ない」

「巡回兵もいるのか?」

「たまに通る。だが、毎日同じ時間じゃない」

 決まった間隔ではない。

 侵入するなら、先に動きを見る必要がある。

 夕暮れ前。

 俺は旧市街へ向かった。

 新しい町並みを抜けると、人の数が急に減った。

 閉じた店。

 板で塞がれた窓。

 屋根の一部が崩れた家。

 石畳の隙間には雑草が伸びている。

 足音が遠くまで響きそうな静けさだった。

 俺は《隠密》を発動する。

 革靴が石を踏んでも、音はほとんど出ない。

 外套も風に合わせて揺れるだけだ。

 地図を頼りに西へ進む。

 やがて、高い石壁が見えてきた。

 壁の向こうには、傾いた墓石。

 枯れた木。

 崩れかけた礼拝堂。

 鉄柵の正門には、太い鎖が巻かれていた。

 頭へ流れ込んだ光景と同じだ。

「ここか」

 すぐには近づかない。

 向かいにある空き家の陰へ入る。

 姿勢を低くし、墓地の周囲を観察した。

 正門。

 石壁。

 周囲の建物。

 人の通る道。

 裏手へ回れば、石壁の一部が低くなっている。

 越えることは難しくない。

 だが、着地した先に何があるか分からない。

 罠。

 見張り。

 番犬。

 地下へ魔物が住みついている可能性もある。

 日が沈むまで、俺は動かなかった。

 一度、二人組の巡回兵が通った。

 墓地の門へ近づき、鎖を確認する。

 内部へは入らない。

 そのまま旧市街の奥へ消えた。

 次に来る時間は分からない。

 空が暗くなる。

 家々の影が長く伸びた。

 旧市街から、人の気配が消えていく。

 俺は墓地を見続けた。

 完全に日が落ちてから、足音が聞こえた。

 一人。

 ゆっくりと旧市街を歩いてくる。

 暗い外套を着た男だった。

 顔は深く被った頭巾に隠れている。

 男は何度も背後を確認した。

 迷っている様子はない。

 まっすぐ共同墓地へ向かう。

 俺は空き家の陰で呼吸を止めた。

 男は正門の前へ立った。

 太い鎖へ手を伸ばす。

 壊すつもりではない。

 懐から小さな鍵を取り出した。

 錆びた錠へ差し込む。

 小さな音。

 錠が開いた。

 閉鎖されているはずの共同墓地へ、男は正規の鍵で入っていく。

 門を閉じ、再び鎖を巻いた。

 俺は動かない。

 ここで追えば、男に気づかれる可能性がある。

 まず見る。

 男は墓石の間を通り、崩れかけた礼拝堂へ入った。

 しばらく何も起きない。

 やがて、礼拝堂の窓に小さな明かりが灯った。

 その光が下へ移動する。

 地下へ続く階段がある。

 報酬で見た場所だ。

 男は地下へ下りた。

「証拠を隠した人間か」

 それとも。

「証拠を消しに来た人間か」

 今すぐ確かめたい。

 だが、相手が一人とは限らない。

 俺は剣の柄から手を離した。

 まだ入らない。

 出てくるまで待つ。

 どれほど時間が経ったのか。

 礼拝堂の地下で、もう一つ明かりが灯った。

 最初の光とは離れた場所。

 中には、少なくとも二人いる。

 俺は暗闇の中で、共同墓地を見つめ続けた。


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