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【Amazonで発売中!】妻殺しの冤罪で七年間独房に閉じ込められた俺、脱獄後にダンジョンガチャで復讐を果たす  作者: 月瀬 リュカ


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18/41

第18話 氷剣と岩喰い山羊

 岩を噛み砕いていた《岩喰い山羊》が、ゆっくりとこちらを振り返った。

 馬に近い大きさ。

 灰色の毛に覆われた太い身体。

 頭から伸びた二本の角は、岩壁から生えた鉱石のように黒く、先端が鋭く尖っている。

 口元から、砕かれた石の欠片が落ちた。

 岩喰い山羊は俺の姿を確認すると、前脚で地面を掻き始める。

 突進するつもりだ。

 売却できる素材は、角と毛皮。

 特に角は硬く、武器や工具の材料として高値で取引される。

 角を折らずに倒すなら、正面から剣をぶつけるべきではない。

 俺は鋼鉄の剣へ魔力を流した。

「《氷膜》」

 剣身を白い霜が覆う。

 冷気が指先まで伝わり、周囲の空気がわずかに冷えた。

 岩喰い山羊が地面を蹴る。

 重い身体からは想像できない速度だった。

 黒い角が、まっすぐ胸へ迫る。

 俺は横へ避けた。

 すれ違いざまに首を斬るつもりだった。

 だが、岩喰い山羊は突進の途中で首を振った。

 角が横から迫る。

 避けきれない。

 剣を立て、黒い角を受けた。

 硬い音が通路へ響く。

 両腕に衝撃が走った。

 身体ごと押され、足が岩の上を滑る。

 剣にまとわせた薄い氷が砕けた。

「重いな」

 岩喰い山羊は停止すると、すぐに向きを変えた。

 俺の剣では角を斬れない。

 正面から力を比べれば、押し負ける。

 だが、奴の動きは直線的だ。

 岩喰い山羊が再び前脚で地面を掻く。

 俺は左手を床へ向けた。

「《冷気》」

 冷たい空気が、岩の床を這う。

 表面に薄い霜が広がった。

 だが、それだけでは足を滑らせるほどではない。

 岩喰い山羊が二度目の突進を始める。

 俺は《生活魔法》で水を生み出し、目の前の床へ撒いた。

 すぐに《冷気》を重ねる。

 水が白く濁り、薄い氷へ変わった。

 直後、岩喰い山羊の前脚が氷を踏む。

 蹄が横へ滑った。

 巨体が傾く。

 それでも勢いは止まらない。

 岩喰い山羊は肩から岩壁へ激突した。

 砕けた石が飛び散る。

 俺は背後へ回った。

 首へ剣を振り下ろす。

 氷をまとった刃が、灰色の毛と肉を切り裂いた。

 一撃では足りない。

 二度目の斬撃を、同じ場所へ叩き込む。

 骨を断つ感触。

 岩喰い山羊の身体が地面へ倒れた。

 胸の奥へ、神の祝福が流れ込む。

《岩喰い山羊を初めて討伐しました》

《ガチャ券を一枚獲得しました》

《ローデン地下迷宮討伐記録:6/7》

《所持ガチャ券:一枚》

 残る魔物は一種類。

 《黒鉱蠍》だけだ。

 剣から砕けた氷が落ちる。

 《氷膜》だけで敵を斬れるわけではない。

 《冷気》も、一度使っただけでは岩喰い山羊を止められなかった。

 だが、生活魔法の水と組み合わせれば、足場を凍らせられる。

 今は弱い魔法でも、使い方次第で戦える。

 俺は倒れた岩喰い山羊へ近づいた。

 解体を始めようとした瞬間、《危険察知》が反応する。

 正面ではない。

 通路の奥。

 さらに、背後からも硬い蹄の音が聞こえた。

 一つではない。

 俺は剣を構え、周囲を見回した。

 岩陰から、別の岩喰い山羊が現れる。

 一体。

 三体。

 五体。

 背後にもいる。

 最後に姿を見せた個体まで数える。

「十体か」

 倒した一体を含めれば、十一体。

 岩喰い山羊たちは、通路の前後から俺を挟んでいた。

 狭い場所で二方向から突進されれば、逃げ場がない。

 前方の四体が頭を下げる。

 背後の六体も、黒い角を俺へ向けた。

 俺は近くの分かれ道へ走った。

 岩喰い山羊たちが追ってくる。

 蹄の音が重なり、通路全体が揺れた。

 分かれ道を右へ曲がる。

 そこには、先ほどより少し広い空間があった。

 正面には大きな岩柱。

 左右には細い通路。

 俺は岩柱の前で立ち止まり、床へ水を撒いた。

 水を広げすぎれば、俺まで動けなくなる。

 岩柱の手前に、細長い帯を作る。

「《冷気》」

 水が凍る。

 魔力が身体から抜けていく感覚があった。

 氷魔法を得たばかりだ。

 続けて使えば、簡単に力を失う。

 前方から四体の岩喰い山羊が現れた。

 俺を見つけると、足を止めずに突進してくる。

 一体目が氷へ乗った。

 前脚が左右へ開く。

 後ろから来た二体目が、その身体へ衝突した。

 三体目と四体目も止まれない。

 岩喰い山羊の巨体が折り重なり、岩柱へ激突する。

 俺は横の通路へ逃れた。

 倒れた一体の首へ剣を振り下ろす。

 二体目。

 後脚を下敷きにされた個体が、起き上がろうともがいている。

 首の付け根へ剣を突き刺した。

 三体目。

 残りの二体が身体を起こす。

 一体が首を振り、黒い角を横から叩きつけてきた。

 剣で受ける。

 腕が痺れた。

 そのまま押し返される。

 もう一体が立ち上がり、俺へ頭を向けた。

 挟まれる。

 俺は岩柱の陰へ回った。

 二体の岩喰い山羊が追ってくる。

 左右から角が迫る直前、岩柱へ背をつける。

 最後まで待ち、身体を沈めた。

 黒い角が、俺の頭上で岩柱へ突き刺さる。

 二体とも角が抜けない。

 俺は横へ回り、一体の首を斬った。

 四体目。

 もう一体が激しく頭を振っている。

 角の根元へ傷をつけないよう、首の後ろへ剣を入れた。

 五体目。

 背後から蹄の音が迫る。

 残る六体が広い空間へ入ってきた。

 最初の四体が倒れたことで、すぐには突進してこない。

 俺と死骸、凍った床を見比べている。

 同じ罠は通用しないらしい。

 一体が左へ回る。

 二体が右へ広がる。

 残る三体は、正面からゆっくり近づいてきた。

 囲むつもりだ。

 俺は剣へ《氷膜》をまとわせ直した。

 先ほどより、氷が薄い。

 魔力を使いすぎている。

 戦いが終わるまで、あと何度使えるか分からない。

 右から一体が突進する。

 俺は岩柱の近くまで引きつけ、横へ避けた。

 岩喰い山羊は、今度は柱へぶつからなかった。

 前脚を踏ん張り、無理やり方向を変える。

 太い首がこちらへ向く。

 その瞬間、足元へ《氷塊》を放った。

 拳ほどの氷が、前脚へ当たる。

 傷を負わせるほどの威力はない。

 だが、踏み込もうとした脚がわずかにずれた。

 俺は懐へ入り、首へ剣を振る。

 氷をまとった刃が毛を凍らせながら、肉へ食い込んだ。

 六体目。

 左から別の一体が迫る。

 避ける場所がない。

 俺は《耐久の革鎧》を信じ、肩を前へ向けた。

 黒い角が肩の補強部分へぶつかる。

 身体が浮いた。

 岩の床へ叩きつけられる。

 息が詰まった。

 鎧は貫かれていない。

 だが、肩と胸へ強い痛みが残る。

 岩喰い山羊が再び角を向けた。

 起き上がる時間はない。

 俺は地面を転がった。

 角が岩を削る。

 腹ばいのまま、岩喰い山羊の前脚へ剣を振った。

 腱を断つ。

 巨体が前へ崩れる。

 俺は立ち上がり、首へ剣を突き刺した。

 七体目。

 呼吸が荒い。

 身体も重い。

 レベルが上がったとはいえ、連戦で消耗している。

 魔力も残り少ない。

 それでも、残るのは四体。

 岩喰い山羊たちは、同時には来なかった。

 一体ずつ距離を変えながら、俺の隙を探している。

 俺は凍った床の近くへ戻った。

 表面の氷は、一部が割れている。

 まだ使える場所も残っていた。

 一体が正面から走る。

 俺は氷の上へ立ったまま待った。

 岩喰い山羊が近づく。

 直前で、足元の氷を滑るように横へ移動した。

 自分から滑れば、足を取られない。

 黒い角が空を切る。

 岩喰い山羊の横へ回り、首を斬った。

 八体目。

 次の一体は、俺ではなく足元へ角を振った。

 氷が砕ける。

 罠を壊したのか。

 その陰から、別の一体が突進してくる。

 避けきれない。

 俺は剣を横へ構え、角を受け流した。

 身体を回し、力を横へ逃がす。

 それでも剣が手から離れそうになる。

 指へ力を込めた。

 岩喰い山羊の首が横を向いた。

 剣を返し、喉へ突き刺す。

 九体目。

 あと一体倒せば、十体討伐に届く。

 残る二体が同時に頭を下げた。

 左右から挟むつもりだ。

 俺は動かなかった。

 二体が走り出す。

 蹄が岩を叩く。

 黒い角が左右から迫る。

 俺は直前で後ろへ跳んだ。

 二体の岩喰い山羊は、互いに止まれない。

 角同士が正面から激突した。

 鈍い音が響く。

 一体の角に亀裂が入った。

 もう一体は衝撃でよろめいている。

 俺は角が無傷の方へ走った。

 首の後ろへ剣を振り下ろす。

 十体目。

《岩喰い山羊を十体討伐しました》

《ガチャ券を一枚獲得しました》

《所持ガチャ券:二枚》

 残る一体は、角に亀裂が入っていた。

 素材としての価値は落ちただろう。

 だが、戦う力は残っている。

 岩喰い山羊は首を振り、俺へ向き直った。

 俺は剣を構える。

 魔力は、もうほとんど残っていない。

 氷魔法は使わない。

 最後は剣だけで倒す。

 岩喰い山羊が突進する。

 俺は正面から走った。

 距離が縮まる。

 黒い角が胸へ届く直前、身体を沈めて内側へ入る。

 角の根元を左手で押し上げた。

 右手の剣を、顎の下へ突き込む。

 刃が喉を貫いた。

 岩喰い山羊の勢いに押され、俺も地面へ倒れる。

 巨体が横へ崩れた。

 しばらく脚を動かしたあと、静かになる。

 十一体目。

 俺は仰向けになり、荒い呼吸を繰り返した。

 身体中が痛い。

 腕も上がりにくい。

 氷魔法を得たからといって、急に強者になったわけではない。

 小さな氷。

 薄い冷気。

 剣を覆う程度の氷膜。

 それでも、今日の俺はこの力がなければ十一体を倒せなかった。

「育てればいい」

 今は小さくても構わない。

 ヴァルドの炎へ届くまで、何度でも使う。

《ローデン地下迷宮討伐記録:6/7》

《所持ガチャ券:二枚》

《復讐達成率:9%》

 残る魔物は、《黒鉱蠍》だけだ。

 呼吸が落ち着いてから、解体を始めた。

 十一個の魔石を回収する。

 魔石は《魔法のテント》のために《収納》へ入れた。

 次に《解体》を使う。

 岩喰い山羊の角の根元に、淡い線が浮かぶ。

 小刀を線へ沿わせる。

 太い筋を切り、頭蓋骨との接続部分を外す。

 最初から自分で探すより、遥かに速い。

 無傷の角を十本。

 亀裂の入った二本も、安くはなるだろうが持ち帰る。

 毛皮は大きく、場所を取る。

 状態の良い二体分だけを剥いだ。

 肉は回収しない。

 石角兎の肉と買ってきた食料が残っている。

 これ以上《収納》を圧迫する必要はない。

 最後の毛皮を畳み、《収納》へ入れた。

 そのとき、《危険察知》が弱く反応した。

 魔物が近づいている反応ではない。

 足元。

 俺は立ち上がり、周囲を見る。

 白い岩粉の上に、細い跡が残っていた。

 何本もの脚が地面を擦った跡。

 岩喰い山羊の蹄ではない。

 跡は、通路の奥へ続いている。

 その近くに、小さな黒い欠片が落ちていた。

 拾い上げる。

 鎧甲虫の甲殻とは形が違う。

 薄く湾曲し、先端が針のように尖っていた。

 資料で見た覚えがある。

 《黒鉱蠍》の外殻だ。

 残る最後の一種類。

 俺は黒い欠片を地面へ戻した。

 今すぐ追うべきではない。

 身体は疲れている。

 魔力もほとんど残っていない。

 復讐を急いで、ここで死ねばすべてが終わる。

 人目のない野営場所を探し、《魔法のテント》で休む。

 黒鉱蠍を追うのは、そのあとだ。

 通路から離れた岩の窪みを見つけた。

 奥行きがあり、入口は一人が通れるほど狭い。

 魔物や冒険者の新しい足跡もない。

 入口へ細い紐と鈴を張り、《魔法のテント》を出した。

 回収した魔石を補充する。

《魔法のテントへ魔石を補充しました》

《障壁出力が回復しました》

 さらに、別の表示が続いた。

《魔石の累積投入量が一定値に到達しました》

《新しい設備が解放されます》

 テントの奥で、淡い光が集まる。

 何もなかった壁際に、小さな台が現れた。

 平らな天板。

 その下には、魔石の力で熱を生み出す仕組みが組み込まれている。

《簡易調理台が追加されました》

《魔石の力を消費し、加熱調理を行えます》

 これまで、生活魔法で小さな火を作り、携帯調理器具を使っていた。

 簡易調理台があれば、火を維持するために魔力を使わずに済む。

「悪くない」

 氷魔法で魔力を使い切った今だからこそ、その価値が分かる。

 俺は簡易調理台へ鍋を置いた。

 乾燥豆。

 干し肉。

 少量の塩。

 《魔法のケトル》から湯を注ぐ。

 台へ触れると、天板がゆっくりと熱を持ち始めた。

 鍋から湯気が立つ。

 その間に、傷を洗った。

 肩と胸に大きな痣ができている。

 角で突かれた場所は、耐久の革鎧が守ってくれた。

 以前の革鎧なら、骨まで傷めていたかもしれない。

 下級回復薬を少しだけ飲む。

 痛みが弱まり、身体の内側へ温かさが広がった。

 鍋の中では、豆が柔らかくなり始めている。

 独房にいた頃は、冷えた粥を与えられていた。

 今は、魔物を倒して得た魔石で火を起こし、自分で選んだ食材を煮ている。

 当たり前だった生活を、少しずつ作り直している。

 俺は完成した豆と干し肉の煮込みを食べた。

 腹を満たし、剣を手の届く場所へ置く。

 外には結界がある。

 弱い魔物なら、俺へ届かない。

 鈴も仕掛けた。

 今日は十分に戦った。

 目を閉じる。

 次に起きたとき、最後の一種類を探す。

 どれほど眠ったのか。

 《危険察知》の反応で目を開けた。

 鈴は鳴っていない。

 入口から何かが入ったわけではない。

 反応は、テントの下から伝わってくる。

 硬いものが、岩を削る音。

 真下だ。

 俺は剣へ手を伸ばした。

 次の瞬間、テントの外で地面が盛り上がった。

 黒い尾が、岩の隙間から突き出す。

 先端には、鋭い毒針。

 さらに一つ。

 二つ。

 五つ。

 地中から現れた黒い尾が、結界の周囲を取り囲んだ。

 弱い魔物は、結界を越えられない。

 だが、俺はその姿を見て、剣を握り直した。

 最後の一種類が、自分から現れた。

《黒鉱蠍》

 黒い外殻を持つ蠍たちが、地面を割って這い出してきた。


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