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【Amazonで発売中!】妻殺しの冤罪で七年間独房に閉じ込められた俺、脱獄後にダンジョンガチャで復讐を果たす  作者: 月瀬 リュカ


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17/41

第17話 最後の一枚と氷魔法

 鎧甲虫の群れが、一斉に飛び立った。

 狭い通路を、無数の翅音が埋め尽くす。

 天井や岩壁に張りついていた黒い塊が、次々と背中の甲殻を開いていく。

 先ほど倒した一体を含めれば、十四体。

 残っているのは十三体だ。

 鎧甲虫をあと九体倒せば、十体討伐に届く。

 そして、十一連ガチャを引くための最後の一枚が手に入る。

 正面から二体が飛んできた。

 鎧甲虫の背中は、鋼鉄の剣でも簡単には斬れない。

 狙うのは、飛ぶために甲殻を開いた瞬間だ。

 一体目を直前まで引きつける。

 黒い甲殻が左右へ開き、内側から薄い翅が現れた。

 俺は身体を沈める。

 鎧甲虫が頭上を通過した。

 すれ違いざまに、開いた甲殻の隙間へ剣を振り上げる。

 刃が翅の付け根を切り裂いた。

 飛ぶ力を失った鎧甲虫が、岩壁へ激突する。

 地面へ落ちた個体へ駆け寄り、腹部へ剣を突き刺した。

 二体目。

 胸の奥へ、神の祝福が流れ込む。

 だが、すでに次が来ていた。

 左から一体。

 右から二体。

 さらに頭上にも、甲殻を開いた影がある。

 俺は剣を引き抜き、その場から走った。

 直後、背後で硬い音が重なる。

 二体の鎧甲虫が、俺のいた場所で衝突していた。

 空中へ浮かんでからの速度は速い。

 だが、一度飛び始めると急には止まれない。

 進路を変えることも苦手らしい。

 一体が地面すれすれを飛んでくる。

 俺は岩壁を背にして待った。

 鎧甲虫が胸元へ迫る。

 直前で横へ跳ぶ。

 黒い身体が岩壁へ激突した。

 衝撃で甲殻が開く。

 その隙間へ剣先を差し込み、体重をかけて押し込んだ。

 三体目。

 振り向いた瞬間、《危険察知》が強く反応した。

 俺は地面へ伏せる。

 頭上を鎧甲虫が通過した。

 しかし、別の一体が正面から迫っている。

 立ち上がって避ける時間はない。

 剣を岩の床へ突き立て、それを支えに身体を横へ転がした。

 鎧甲虫の甲殻が、左肩をかすめる。

 革鎧が裂けた。

 強い衝撃で、身体が地面を滑る。

 痛みを無視して起き上がる。

 俺をかすめた個体は、地面へ着地し、再び飛ぼうとしていた。

 背中の甲殻が開く。

 そこへ踏み込んだ。

 剣を翅の付け根へ突き刺す。

 鎧甲虫が激しく暴れた。

 振り落とされる前に剣を抜き、今度は腹部を斬り裂く。

 四体目。

 剣を握り直す。

 先ほど上がったレベルの影響は、確かに身体へ残っていた。

 甲殻が開く瞬間。

 翅が震え始めるまでの時間。

 飛び出す方向。

 以前なら見逃していた小さな動きが、よく見える。

 三体が同時に甲殻を開いた。

 俺は通路の中央から、岩壁の近くへ移動する。

 一体目の突進を避ける。

 鎧甲虫は壁へぶつかる直前、無理に身体を傾けた。

 その進路へ、後ろから来た二体目が入る。

 黒い甲殻同士が激突した。

 二体が絡まり、地面へ落ちる。

 近い方を蹴り、腹部を上へ向けた。

 剣を突き下ろす。

 五体目。

 もう一体が六本の脚を動かし、起き上がろうとする。

 甲殻を閉じる前に、隙間へ剣を滑り込ませた。

 六体目。

 残り八体。

 鎧甲虫たちは一度距離を取り、天井と左右の壁へ張りついた。

 同じ方法で近づけば倒されると理解したのかもしれない。

 すぐには飛んでこない。

 俺も呼吸を整える。

 左肩が痛む。

 革鎧も裂けている。

 それでも、剣を振るう腕に問題はない。

 天井にいた一体が、甲殻を開いた。

 同時に、左右の壁にいる個体も翅を動かし始める。

 三方向から来る。

 俺は剣を構えたまま、前へ走った。

 天井から落ちてくる一体の真下へ入る。

 身体を半歩ずらす。

 鎧甲虫が岩の床へ激突した。

 砕けた石が周囲へ飛び散る。

 俺は鎧甲虫の身体を蹴り、仰向けにする。

 柔らかい腹部へ剣を突き立てた。

 七体目。

 左右から来た二体が迫る。

 一体目は避けた。

 もう一体は間に合わない。

 俺は剣の腹を前へ出す。

 鎧甲虫が刃へ衝突した。

 両腕へ強い衝撃が伝わる。

 足が地面を滑った。

 だが、剣は離さない。

 鎧甲虫も地面へ落ちた。

 閉じようとする甲殻の間へ剣を入れる。

 八体目。

 これで、最初に倒した一体を含めて八体。

 十体討伐まで、あと二体だ。

 残った鎧甲虫が、岩壁を這いながら俺を囲む。

 正面に二体。

 右に三体。

 左に二体。

 奥に一体。

 すべてを避ける必要はない。

 あと二体倒せば、最後のガチャ券が手に入る。

 俺は正面の二体へ走った。

 鎧甲虫たちが一斉に甲殻を開く。

 左右にいた個体まで、同時に飛び立った。

 通路全体へ翅音が響く。

 黒い塊が、四方から迫る。

 正面の一体へ向け、剣先を上げた。

 衝突する直前、地面へ滑り込む。

 鎧甲虫の下を抜けた。

 頭上では、背中の甲殻が開いている。

 起き上がりながら、翅の付け根を斬った。

 九体目。

 あと一体。

 右から飛んできた鎧甲虫を、剣で受け流す。

 刃が硬い甲殻へ当たり、火花が散った。

 押し負ける。

 身体が、左から迫る別の鎧甲虫の進路へ流された。

 このままでは挟まれる。

 俺は無理に踏ん張らなかった。

 右の鎧甲虫に身体を預け、押される力を利用して前へ跳ぶ。

 直後、背後で二体が衝突した。

 一体が地面へ落ち、腹部を上へ向ける。

 俺は振り返り、鋼鉄の剣を両手で握った。

 腹部へ刃を突き下ろす。

 十体目。

《鎧甲虫を十体討伐しました》

《ガチャ券を一枚獲得しました》

《所持ガチャ券:十枚》

 最後の一枚を手に入れた。

 これで十一連ガチャを引ける。

 だが、まだ四体残っている。

 鎧甲虫たちは仲間の死骸を避けながら、通路を飛び回っていた。

 俺は剣を抜き、残った敵へ向き直る。

「先に片づける」

 ガチャを引いている途中で襲われれば、意味がない。

 十一体目は、岩壁へ衝突させた。

 十二体目は、飛び立つ瞬間に翅を斬った。

 十三体目には、正面から胸へ体当たりされた。

 新しい傷は革鎧が受け止めたが、衝撃までは消えない。

 地面へ倒れながらも、顎の下へ剣を突き入れた。

 最後の一体は、通路の奥へ逃げようとした。

 天井近くまで上昇し、こちらへ背を向ける。

 俺は足元の石を拾った。

 全力で投げる。

 石は片方の翅へ当たった。

 鎧甲虫の身体が傾く。

 岩壁へぶつかり、地面へ落ちた。

 追いつき、開いた甲殻の隙間へ剣を突き刺す。

 十四体目。

 耳障りな翅音が消えた。

 通路に残ったのは、俺の荒い呼吸だけだった。

《ローデン地下迷宮討伐記録:5/7》

《所持ガチャ券:十枚》

《復讐達成率:9%》

 残る魔物は二種類。

 だが、その前に十一連ガチャだ。

 俺は周囲を見回した。

 《危険察知》に反応はない。

 それでも、大量の死骸が並ぶ通路で引く気にはなれなかった。

 まず、十四個の魔石を回収する。

 すべて《収納》へ入れた。

 魔石は売らない。

 《魔法のテント》の障壁と設備のために使う。

 素材の解体はあとだ。

 通路の先を調べる。

 岩壁の裂け目の奥に、小さな空間を見つけた。

 入口は狭く、外から内部を覗きにくい。

 魔物の気配もない。

 俺は中へ入り、入口へ背を向けない位置へ座った。

 剣を手の届く場所へ置く。

「十一連ガチャ」

 意思を向けると、目の前に黒い球体が浮かんだ。

《ガチャ券を十枚消費します》

《十一連ガチャを開始します》

《十一枠目はR以上が確定します》

 十枚のガチャ券が光へ変わり、黒い球体へ吸い込まれていく。

 球体が回転を始めた。

 一つ目の光が飛び出す。

 白。

 二つ目も白。

 三つ目。

 四つ目。

 次々と白い光が小さな空間へ広がる。

 九つ目まで白。

 十個目は青。

 そして最後。

 十一個目の光は、鮮やかな紫色だった。

《十一連ガチャの結果を表示します》

《N 保存食三食分》

《N 清潔な水》

《N 下級回復薬二本》

《N 解毒薬》

《N 防具補修材》

《N 油布五枚》

《N 投げナイフ三本》

《N 丈夫な鋼糸》

《N 解体》

《R 耐久の革鎧》

《SR 氷魔法》

 白、青、紫の光が、それぞれ形を変えていく。

 最初に、白い光の一つが胸へ入った。

《スキル《解体》を獲得しました》

《効果》

《討伐済みの魔物から採取可能な部位を確認できます》

《素材を傷つけにくい切断位置を把握できます》

《解体作業の精度がわずかに向上します》

《生きている魔物の弱点を看破する効果はありません》

 戦闘には使えない。

 それでも、素材を売って活動資金を得る俺には役立つ。

 続いて、青い光が茶色い革鎧へ変わった。

《R 耐久の革鎧》

《一般的な革鎧より防御力と耐久性に優れます》

《打撃および衝突による衝撃を軽減します》

 今の初心者用革鎧は、何度も攻撃を受けている。

 石角兎の角。

 鉄牙百足の牙。

 洞窟蜥蜴の尾。

 そして、鎧甲虫の突進。

 裂けた部分も増えていた。

 ちょうどいい装備だ。

 最後に、紫色の光が俺の胸へ飛び込んだ。

 冷たい。

 身体の内側へ、氷水を流し込まれたような感覚。

 だが、不快ではない。

 熱を持っていた筋肉が、一瞬で冷やされていく。

《スキル《氷魔法》を獲得しました》

《現在使用可能な魔法》

《氷塊》

《冷気》

《氷膜》

 使い方が、頭の中へ流れ込んでくる。

 氷の塊を作り出す《氷塊》。

 対象や周囲の温度を下げる《冷気》。

 武器や物体の表面へ、薄い氷をまとわせる《氷膜》。

 いずれも、まだ基礎的な魔法だ。

 大きな氷柱を生み出すことも、広い範囲を凍らせることもできない。

 それでも、これは戦うための力だ。

 俺は鋼鉄の剣を手に取った。

「《氷膜》」

 魔力を剣へ流す。

 刃の表面に白い霜が生まれた。

 霜は少しずつ広がり、剣身全体を薄い氷が覆っていく。

 周囲の空気まで冷たくなった。

 刃から流れ落ちた水滴が、地面へ着く前に凍る。

 俺の脳裏に、赤い炎が浮かんだ。

 町の中央を進んでいたヴァルド。

 奴が腰に下げていた魔法剣。

 《炎剣卿》。

 炎をまとった剣で、あらゆる防御を焼き切る男。

 今の小さな氷魔法で、奴の炎を防げるとは思わない。

 近づく前に蒸発させられるだろう。

 だが、育てればいい。

 魔物を倒し、レベルを上げる。

 魔法を何度も使う。

 ガチャで同じスキルを得れば、《氷魔法》そのものが強化される可能性もある。

「炎に対抗するための力か」

 偶然かもしれない。

 ガチャは、今の俺に必要な物を出しやすい。

 ヴァルドへ復讐するため、氷の力が選ばれたのかもしれない。

 どちらでも構わない。

「この力は育てる」

 いつか、ヴァルドの炎を凍らせるほどに。

 裂けた革鎧を脱ぎ、《収納》へ入れた。

 新しく得た《耐久の革鎧》を身につける。

 以前の物より革が厚い。

 胸と肩には補強が入っている。

 それでも、動きを邪魔するほど重くはなかった。

 下級回復薬も一本取り出す。

 左肩と脇腹。

 身体には、小さな傷がいくつも残っている。

 残り二種類を探す前に、ある程度は治しておくべきだ。

 薬を半分だけ飲む。

 温かい力が全身へ広がり、傷の痛みが弱くなった。

 残りは栓をして、《収納》へ戻す。

 俺は鎧甲虫の死骸が並ぶ通路へ戻った。

 一体へ意識を向ける。

 《解体》が働いた。

 視界の中で、背中の甲殻と腹部の境目が淡く浮かぶ。

 刃を入れる位置が、以前より分かりやすい。

 小刀を線に沿って動かす。

 無理に力を入れなくても、甲殻をきれいに外すことができた。

「Nでも十分だな」

 作業をすべて自動で行ってくれるわけではない。

 手を動かすのは俺だ。

 だが、切る場所が分かるだけでも、失敗は大きく減る。

 状態の良い甲殻を四枚回収した。

 それ以上は場所を取る。

 素材を油布へ包み、《収納》へ入れる。

《ローデン地下迷宮討伐記録:5/7》

《所持ガチャ券:零枚》

《復讐達成率:9%》

 ガチャ券は、また一枚目からだ。

 だが、装備は良くなった。

 《解体》も手に入れた。

 そして何より、《氷魔法》がある。

 残る魔物は二種類。

 《岩喰い山羊》。

 《黒鉱蠍》。

 両方を倒せば、ローデン地下迷宮をコンプリートできる。

 俺は素材を片づけ、さらに迷宮の奥へ進んだ。

 通路の壁に、白い粉が増え始める。

 床にも、細かく砕かれた岩が積もっていた。

 壁の一部には、大きく削り取られたような窪みがある。

 奥から、硬い物を噛み砕く音が聞こえた。

 岩陰の向こうで、何かが壁を食べている。

 俺は《耐久の革鎧》の感触を確かめた。

 鋼鉄の剣を抜き、《氷膜》を発動する。

 刃を白い霜が覆った。

 六種類目。

 《岩喰い山羊》が、ゆっくりとこちらを振り返った。


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