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【Amazonで発売中!】妻殺しの冤罪で七年間独房に閉じ込められた俺、脱獄後にダンジョンガチャで復讐を果たす  作者: 月瀬 リュカ


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14/41

第14話 石角兎と迷宮の夜

 岩陰から飛び出した《石角兎》が、額の角を俺の胸へ向けて突進してくる。

 犬ほどの大きさしかない。

 だが、地面を蹴る力は強く、石の角は短槍の穂先のように鋭い。

 まともに受ければ、初心者用の革鎧など簡単に貫かれるだろう。

 俺は剣を横へ構えた。

 そのまま角を打ち払おうとして、直前で思い直す。

《石角兎》

《売却対象:額の角、毛皮、後脚》

《角の根元を砕くと価値が大きく低下する》

 あの角は売れる。

 剣で叩き折る必要はない。

 俺は右足を引き、突進をぎりぎりまで引きつけた。

 石角兎の角が、革鎧の胸元へ迫る。

 身体を半歩ずらす。

 石角兎が俺の脇を通り抜けた。

 すれ違いざまに、剣を横へ振る。

 鋼鉄の刃が首を断ち切った。

 勢いを失わないまま、頭と身体が別々に地面を転がっていく。

 胸の奥に熱が生まれた。

 初めて倒す魔物から与えられる、神の祝福だ。

《石角兎を初めて討伐しました》

《ガチャ券を一枚獲得しました》

《ローデン地下迷宮討伐記録:2/7》

 これで二種類目。

 残りは五種類。

 剣についた血を振り落とした直後、通路の奥から音が聞こえた。

 軽い足音。

 一つではない。

 地面だけではなく、左右の岩壁からも音がする。

 俺は石角兎の死骸から離れ、剣を構え直した。

 暗闇の中に、いくつもの目が浮かぶ。

 一体。

 二体。

 五体。

 次々と石角兎が岩陰から現れた。

 最後尾まで数える。

「十一体か」

 倒した一体を含めれば、十二体の群れだ。

 鉱殻蟻より身体は小さい。

 だが、こちらの方が遥かに速い。

 一体が地面を蹴った。

 正面からではない。

 左側の岩壁へ飛びつき、さらに壁を蹴って俺の頭上から襲いかかる。

 俺は身を沈めた。

 角が頭上を通り過ぎる。

 そのまま剣を振り上げ、石角兎の腹を斬った。

 地面へ落ちた個体が、苦しみながら足を動かす。

 素材を傷つけずに倒すつもりだったが、命を守る方が先だ。

 首へ刃を入れ、とどめを刺す。

 二体目。

 正面から二体が同時に突進してきた。

 さらに右の壁を、別の一体が駆けている。

 この場所では囲まれる。

 俺は後ろへ下がった。

 先ほど通ってきた分かれ道まで戻り、横へ延びる細い通路へ入る。

 通路の天井は低い。

 石角兎が壁を利用して高く跳ぶことはできない。

 正面から来るしかなくなった。

 最初の一体が、細い通路へ飛び込んでくる。

 俺は剣を突き出さず、身体をわずかに横へずらした。

 石角兎は止まれない。

 俺の横を通り過ぎ、正面の岩壁へ角を突き立てた。

 硬い音が響く。

 石角兎が首を振るが、角が岩から抜けない。

 背後から首を斬った。

 三体目。

 次の一体が死骸を跳び越える。

 正面へ剣を振れば、角を傷つける。

 俺は剣の腹を使い、石角兎の前脚を横から払った。

 体勢を崩した個体が、地面へ転がる。

 起き上がる前に首を落とした。

 四体目。

 二体が続けて飛び込んでくる。

 一本目の角を避ける。

 だが、二体目との距離が近い。

 完全には避けられなかった。

 石の角が脇腹をかすめる。

 革鎧が裂け、その下の皮膚に熱い痛みが走った。

「くっ……」

 血が流れる。

 深くはない。

 俺は痛みを無視して振り返った。

 通路の奥で、石角兎が方向を変えている。

 再びこちらへ向かってきた。

 今度は避けない。

 突進してくる個体へ踏み込み、剣先を低く構える。

 石角兎が跳んだ瞬間、剣を下から振り上げた。

 刃が前脚の付け根へ食い込む。

 空中で体勢を崩した石角兎が、背中から地面へ落ちた。

 首へ剣を突き刺す。

 五体目。

 もう一体が脇を抜けようとする。

 後脚へ剣を当て、走る力を奪う。

 倒れたところを仕留めた。

 六体目。

 呼吸が少し荒くなっている。

 脇腹からも血が流れていた。

 それでも、最初の野良ダンジョンへ入った頃とは違う。

 足は動く。

 剣を握る力も残っている。

 次の個体が跳んでくる。

 角の先端ではなく、石角兎の身体を見る。

 地面を蹴る瞬間。

 首の向き。

 前脚の動き。

 攻撃へ移る前のわずかな変化が、以前よりもよく見えた。

 俺は一歩踏み込み、石角兎の横を取った。

 首を断つ。

 七体目。

 続けて二体。

 一体目の突進を避け、後ろにいた個体と衝突させる。

 倒れた二体を、立ち上がる前に仕留めた。

 八体。

 九体。

 残り三体。

 石角兎たちは通路の前で足を止めた。

 仲間が次々と倒されたことで、警戒しているらしい。

 耳を立て、大きな後脚で地面を掻いている。

 俺は剣先を下げた。

 逃げるなら追わない。

 討伐数を増やしたいとはいえ、無理に走って罠へ誘い込まれる必要はない。

 だが、石角兎は逃げなかった。

 三体が同時に地面を蹴る。

 一体が中央。

 残り二体が、狭い通路の壁際を走る。

 正面の一体を避ければ、左右から角を突き込まれる。

 俺は後退しなかった。

 中央の個体へ向かって走る。

 相手が予想していなかった動きなのか、石角兎の耳が揺れた。

 角が届く直前に身体を沈め、右肩を石角兎の胸へぶつける。

 小さな身体が持ち上がった。

 そのまま後ろへ投げる。

 中央の一体が、左から来た個体へ衝突した。

 二体が絡まり、地面へ転がる。

 右から迫る石角兎の角を、剣の鍔で受け流した。

 完全には防げず、腕に衝撃が伝わる。

 だが、剣は手放さない。

 すれ違った石角兎の首へ剣を振る。

 十体目。

《石角兎を十体討伐しました》

《ガチャ券を一枚獲得しました》

 表示が視界へ浮かぶ。

 だが、戦いはまだ終わっていない。

 倒れた二体が起き上がろうとしている。

 一体の首を斬る。

 十一体目。

 最後の一体が後脚で地面を蹴った。

 俺へ向かってくるのではない。

 通路の奥へ逃げようとしている。

 追いかける。

 石角兎の方が速い。

 だが、先ほど衝突したときに後脚を傷めたらしい。

 走り方が不自然だった。

 距離を詰め、剣を振り下ろす。

 後脚を斬られた石角兎が地面へ倒れた。

 俺は近づき、首へ刃を入れた。

 十二体目。

 通路に静けさが戻る。

 剣を地面へ突き、呼吸を整えた。

 胸の奥で、先ほどまでとは違う熱が生まれた。

 十二体から受け取った祝福が、身体の中で一つに重なっていく。

 筋肉が内側から引き締まる。

 視界が一瞬だけ明るくなり、耳へ入る音が鮮明になった。

《一定量の祝福が蓄積しました》

《レベルが上昇しました》

《身体能力が上昇しました》

 数字は表示されない。

 それでも、自分が強くなったことは分かる。

 剣が、先ほどより軽い。

 乱れていた呼吸も、急速に落ち着いていく。

 続けて、新しい表示が浮かんだ。

《復讐を遂行する能力が向上しました》

《復讐達成率が上昇しました》

《復讐達成率:8%》

「……強くなることでも上がるのか」

 マリエルへ送られた手紙を見つけたとき、復讐達成率は七パーセントになった。

 そして今。

 魔物を倒し、俺自身が強くなったことで、一パーセント上昇した。

 証拠を集めるだけでは、復讐は果たせない。

 ヴァルドの罪をすべて暴いたとしても、最後に奴を倒す力がなければ意味がない。

 《炎剣卿》ヴァルド・クロイツ。

 その実力は、Sランク冒険者にも匹敵する。

 町へ入ったとき、俺は遠くから奴を見ただけで剣へ手を伸ばしかけた。

 あの場で襲いかかっていれば、何もできずに焼き殺されていただろう。

 復讐達成率は、俺がどれだけ真相へ近づいたかだけを表す数字ではない。

 実際に復讐を果たせるだけの力があるか。

 それも含めている。

「もっと強くならなければならない」

 証拠を集める。

 ヴァルドが隠してきた罪を暴く。

 奴の名誉も、権力も、協力者も奪う。

 そして最後は、俺自身の手で倒す。

 どれか一つでも欠ければ、復讐は完成しない。

《所持ガチャ券:四枚》

《ローデン地下迷宮討伐記録:2/7》

《復讐達成率:8%》

 残り五種類。

 十一連ガチャまで、あと六枚。

 俺は剣を抜き、石角兎の解体を始めた。

 まず、十二個の魔石を回収する。

 魔石は売らない。

 すべて《魔法のテント》を維持し、成長させるために使う。

 次に額の角を外す。

 解体用の小刀を角の根元へ入れ、周囲の肉を切り離す。

 最初の一つは時間がかかった。

 二つ目からは、刃を入れる位置が分かる。

 角そのものを傷つけないよう、慎重に外していく。

 毛皮は、戦闘で傷の少なかった個体だけにした。

 すべて剥ぎ取れば高く売れるかもしれない。

 だが、《収納》の容量は無限ではない。

 約二立方メートル。

 大きな毛皮や肉を入れ続ければ、すぐに埋まる。

 これから、さらに五種類の魔物を倒すつもりだ。

 高値で売れ、場所を取らない物を優先する。

 角。

 牙。

 毒腺。

 爪。

 必要になれば、毛皮や肉を選ぶ。

 十二本の角。

 状態の良い毛皮を四枚。

 それから、今夜食べるために後脚の肉を二本だけ切り取った。

 素材を油布へ包み、人の気配がないことを確認して《収納》へ入れる。

 死骸は、その場へ残した。

 時間が経てば、迷宮が吸収するだろう。

 脇腹の傷を布で押さえ、先へ進む。

 魔物の討伐と解体に時間を使った。

 地上では、すでに日が傾き始めているはずだ。

 今日は、これ以上深く進まない方がいい。

 人の通らない野営場所を探す。

 しばらく迷宮内を歩き、細い脇道を見つけた。

 奥へ進むと、岩の裂け目で入口が隠された小部屋がある。

 内部に魔物はいない。

 新しい足跡も、焚き火の跡もなかった。

 《危険察知》にも反応はない。

 ここなら、ほかの冒険者からテントを隠せる。

 入口へ細い紐を張り、小さな鈴を取りつけた。

 魔物や人間が入れば、音で分かる。

 さらに奥へ進み、《魔法のテント》を取り出した。

 折り畳まれていた布が広がり、瞬く間にテントの形になる。

 入口を開け、中へ入った。

 外から見える大きさより、内部は広い。

 灯り。

 ベッド。

 《魔法のケトル》。

 独房とは違う。

 ここでは、眠る場所も、明かりを消す時間も、自分で決められる。

 回収した魔石の一部を、テントへ補充した。

《魔法のテントへ魔石を補充しました》

《障壁出力が回復しました》

 残りの魔石も売るつもりはない。

 必要になれば、順番にテントへ入れていく。

 革鎧を脱ぎ、脇腹の傷を確認した。

 皮膚が浅く裂けている。

 骨や内臓には届いていない。

 《生活魔法》で水を出し、血を洗い流す。

 消毒になるかは分からないが、汚れたままよりはいい。

 傷へ薬を塗り、清潔な布を巻いた。

 残っている下級回復薬は使わない。

 動けないほどの傷ではない。

 薬は、もっと危険なときのために残す。

 携帯調理器具を取り出した。

 石角兎の後脚肉を小さく切る。

 乾燥豆と一緒に鍋へ入れ、《魔法のケトル》から湯を注いだ。

 生活魔法で小さな火を起こす。

 味つけは塩だけ。

 しばらく煮ると、肉と豆の匂いがテント内へ広がった。

 独房で嗅いでいた、冷えた粥の臭いとは違う。

 自分で倒した。

 自分で切った。

 自分で火へかけた。

 俺は木の匙で、肉と豆のスープを口へ運んだ。

 少し硬い。

 塩も足りない。

 それでも、温かかった。

 身体の内側へ熱が広がる。

「悪くない」

 誰に聞かせるでもなく呟いた。

 マリエルなら、もっと上手に作っただろう。

 硬い肉も、食べやすく煮込んだはずだ。

 そんなことを考えると、胸の奥が痛んだ。

 だが、匙を置かなかった。

 生きる。

 強くなる。

 復讐を果たす。

 そのためには、食べなければならない。

 鍋を空にし、後片づけをする。

 剣を手の届く位置へ置き、灯りを弱くした。

 外には結界が張られている。

 魔石が尽きない限り、弱い魔物はテントへ入れない。

 それでも、完全に気を抜くつもりはなかった。

 ほかの冒険者には、結界が効くとは限らない。

 俺は毛布へ入り、目を閉じた。

 鈴の音で目を覚ました。

 すぐに上体を起こし、剣へ手を伸ばす。

 暗い。

 どれほど眠ったのかは分からない。

 入口へ仕掛けた鈴が、続けて鳴る。

 同時に、《危険察知》が反応した。

 俺は音を立てずに立ち上がり、テントの入口へ近づく。

 外から、硬い脚が岩を擦る音が聞こえていた。

 数が多い。

 隙間から外を確認する。

 細長い身体。

 無数の脚。

 頭部から伸びた、鉄のような二本の牙。

《鉄牙百足》

 三種類目の魔物だ。

 一体ではない。

 小部屋の入口からテントの周囲まで、何体もの鉄牙百足が入り込んでいる。

 一体がテントへ近づいた。

 牙を開き、布へ噛みつこうとする。

 その直前。

 淡い光の膜が現れた。

 鉄牙百足の身体が弾き飛ばされ、岩壁へ叩きつけられる。

 別の一体が近づく。

 同じように、結界へ触れた瞬間に弾かれた。

 弱い魔物では、このテントへ入れない。

 このまま朝まで眠っていても、俺は襲われないだろう。

 だが、鉄牙百足が結界へ触れるたび、魔石の力は消費される。

 何より、目の前に未討伐の魔物がいる。

 初討伐でガチャ券が一枚。

 十体倒せば、さらに一枚。

 魔石はテントへ使える。

 牙と外殻は売れる。

 俺は剣を腰へ差した。

 外套を羽織り、傷の状態を確かめる。

 動くことに問題はない。

 結界の外では、鉄牙百足の群れが牙を鳴らしていた。

 テントの中にいる限り、俺へは届かない。

 安全に朝を待つこともできる。

 だが、俺は休むためだけに、この迷宮へ来たのではない。

「復讐達成率を上げに来たんだ」

 強くなるために、魔物を倒す。

 俺は剣を抜き、テントの入口へ手をかけた。

「寝て見逃す理由はない」

 扉を開く。

 鉄牙百足たちが、一斉に俺へ顔を向けた。


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