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【Amazonで発売中!】妻殺しの冤罪で七年間独房に閉じ込められた俺、脱獄後にダンジョンガチャで復讐を果たす  作者: 月瀬 リュカ


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第13話 ローデン地下迷宮

 翌朝、俺は旧店舗を離れ、冒険者ギルドへ向かった。

 マリエルへ送られた手紙は、金属箱ごと《収納》へ入れてある。

 ヴァルドが妻へ執着し、拒絶された末に俺たちを脅していた証拠。

 殺害当日に店へ向かうと書かれた手紙まで残っている。

 だが、これだけでは足りない。

 ヴァルドがマリエルを殺した瞬間を証明するものではない。

 奴に協力した人間も、俺を犯人に仕立て上げた方法も分かっていない。

 証拠を探すにも、ヴァルドを倒すにも、今の俺には力が必要だ。

 その力を得るためには、再びダンジョンへ入らなければならない。

 冒険者ギルドは、七年前と同じ場所に建っていた。

 石造りの大きな建物。

 入口の上には、剣と盾を重ねた紋章が掲げられている。

 扉を開けると、酒と汗、革を手入れする油の匂いが鼻へ入った。

 依頼票が貼られた壁。

 素材を運ぶ職員。

 武器を腰に下げ、仲間と話している冒険者たち。

 俺は投獄される前、冒険者ではなかった。

 マリエルと小さな店を営んでいた、ただの町人だ。

 剣を握ることはあっても、それは護身のためだった。

 今では、その剣を使って魔物を殺している。

 俺は受付の列へ並んだ。

 順番が来ると、茶色い髪を後ろでまとめた女性が顔を上げた。

「本日は、どのようなご用件でしょうか?」

「冒険者として登録したい」

「新規登録ですね。身分証明書はお持ちですか?」

 盗賊から奪った身分証を取り出す。

 受付の女性は、記された内容と俺の顔を交互に確認した。

「シュナイダーさんですね」

「ああ」

 呼ばれても、もう反応に遅れることはない。

 この町へ入ってから、何度も使った名だ。

 本当の俺の名前は、妻を殺して脱獄した罪人として手配書に書かれている。

 ヴァルドを追い詰めるまでは、シュナイダーとして生きる。

「ほかの町で冒険者登録をしたことはありますか?」

「ない」

「では、最下位のFランクからとなります。登録料は銀貨一枚です」

 ガチャで手に入れた銀貨を一枚置く。

 女性から渡された書類へ、身分証と同じ名前と年齢を書いた。

 使用武器の欄には、剣。

「戦闘経験はありますか?」

「旅の途中で、魔物に何度か襲われた」

「討伐できましたか?」

「ああ」

 嘘ではない。

 討伐した数と場所を話していないだけだ。

「分かりました。こちらが基本規則になります」

 依頼を達成すれば実績が記録される。

 実績と実力が認められれば、Eランク以上へ昇格できる。

 階級によって受けられる依頼や、ギルドが推奨するダンジョンの範囲も変わる。

 冒険者同士の窃盗や暴力は禁止。

 ダンジョン内での負傷や死亡は、原則として自己責任。

 一通りの説明が終わると、小さな金属板が差し出された。

《氏名:シュナイダー》

《冒険者ランク:F》

「こちらが冒険者証です。身分証明書としても使用できますので、紛失しないようにしてください」

「分かった」

 俺は冒険者証を懐へ入れた。

 これで、ダンジョンへ入るための身分は手に入った。

「ローデン地下迷宮について知りたい」

「これから向かわれるのですか?」

「ああ。二泊か三泊するつもりだ」

「Fランクの方でしたら、最初は第一層での活動を推奨します。下層へ進むほど、魔物も強くなりますから」

「迷宮に出る魔物と、売れる素材を調べたい」

 受付の女性が壁際の棚を指した。

「ローデン地下迷宮の資料は、あちらにあります。解体方法も載っていますよ」

 俺は礼を言い、資料棚へ向かった。

 目的は、これから倒す魔物の素材を無駄にしないためだ。

 魔石は売らない。

 すべて《魔法のテント》へ使う。

 代わりに、牙や甲殻などを持ち帰り、活動資金へ変える。

 棚から《ローデン地下迷宮・魔物素材一覧》と書かれた冊子を取り出した。

 最初のページには、迷宮に生息する七種類の魔物が描かれている。

《鉱殻蟻》

《石角兎》

《洞窟蜥蜴》

《鉄牙百足》

《鎧甲虫》

《岩喰い山羊》

《黒鉱蠍》

 ボスと呼ばれる特別な魔物は存在しない。

 七種類の魔物が、階層や場所によって生息しているらしい。

 俺の視界にも、表示が浮かんだ。

《ローデン地下迷宮討伐記録:0/7》

 ここでも、すべての種類を倒せば報酬を得られる。

 まずは第一層に多く出現する魔物を調べる。

《鉱殻蟻》

《売却対象:大顎、背部甲殻》

《腹部から噴き出す体液は強い臭いを持つ》

《素材を回収する場合は腹部を傷つけず、頭部または脚の関節を狙うこと》

 大顎と背中の甲殻。

 狙う場所は、頭部と脚の付け根。

 腹部へ剣を入れれば倒しやすいが、素材の価値は落ちる。

 次に、《石角兎》の項目を読む。

《売却対象:額の角、毛皮、後脚》

《角の根元を砕くと価値が大きく低下する》

《高い跳躍力を持つため、正面からの突進に注意》

 《洞窟蜥蜴》は皮と尾。

 《鉄牙百足》は牙と外殻。

 《鎧甲虫》は傷の少ない甲殻が高値になる。

 《岩喰い山羊》は角と毛皮。

 《黒鉱蠍》は毒針、鋏、甲殻が売却対象だった。

 必要な情報を頭へ入れ、冊子を棚へ戻す。

 すべてを完璧に解体する必要はない。

 最初は、分かりやすい部位だけでいい。

 時間をかけすぎて別の魔物に襲われれば、素材どころではなくなる。

 ギルドを出た俺は、冒険者向けの道具を扱う店へ向かった。

 解体用の小刀。

 厚い革手袋。

 素材を包む油布。

 大顎や爪を入れるための革袋。

 細い紐と、小さな鈴も二つ買った。

 ダンジョン内で《魔法のテント》を使うなら、人が近づいてきたことを知る仕掛けが必要だ。

 《危険察知》は危険へ反応する。

 だが、通りかかった冒険者が必ずしも危険とは限らない。

 テントを見られれば面倒なことになる。

 次は食料品店へ向かった。

 二泊三日を想定し、硬焼きパン、干し肉、固いチーズ、乾燥豆、塩を買う。

 水も革袋へ入れてもらった。

 《生活魔法》で飲み水は作れる。

 だが、使わずに済む魔力まで消費する必要はない。

 水を失ったときの予備として使えばいい。

「三日分なら、この量で足りるか?」

「一人なら十分だ。迷宮へ行くなら、パンを二つほど余分に持っておいた方がいい」

「そうしよう」

 独房では、出された物を食べるしかなかった。

 量も味も、食べる時間すら選べない。

 今は、三日間に何を食べるかを自分で決めている。

 それだけのことに、わずかな戸惑いがあった。

 追加のパンを受け取り、代金を払う。

 道具と食料の一部は背負い袋へ入れた。

 残りは、人目のない場所で《収納》へ移す。

 何も持たずにダンジョンへ入れば、不自然に見える。

 シュナイダーは、収納能力を持たない普通のFランク冒険者でなければならない。

 翌朝、俺は北門から町を出た。

 ローデン地下迷宮は、町から歩いて半日ほどの岩山にある。

 街道には、同じ方向へ向かう冒険者が何組もいた。

 三人から五人ほどの集団が多い。

 剣士。

 盾を持った戦士。

 弓を背負った者。

 杖を持つ魔法使い。

 一人で向かう者は少ない。

 俺は歩く速度を調整し、誰とも一緒にならないよう距離を取った。

 昼を過ぎた頃、岩山の麓へ到着する。

 大きく開いた岩穴の前には、簡素な詰め所と露店が並んでいた。

 素材を運ぶ荷車も停まっている。

 入口を管理する職員へ冒険者証を渡した。

「シュナイダー、Fランク。初めてか?」

「ああ」

「第一層から下へ続く道には標識がある。Fランクなら、深くまで行かない方がいい」

「分かった」

「一人なら、ほかの冒険者が戦っている場所へ割り込むな。素材や魔石を巡る揉め事が一番多い」

「手は出さない」

 冒険者証を返される。

 俺は鋼鉄の剣を抜き、暗い入口へ足を踏み入れた。

 最初の野良ダンジョンとは違い、壁には一定の間隔で灯りが置かれている。

 地面にも大勢の足跡が残っていた。

 入口付近には、魔物の姿がない。

 多くの冒険者が通るため、出現してもすぐに狩られるのだろう。

 俺は人の声が聞こえなくなるまで進んだ。

 分かれ道では、通路の広さと足跡を確認する。

 人が少ない道を選ぶ。

 しばらく進んだところで、《危険察知》が反応した。

 足を止める。

 前方の地面から、硬い物が擦れ合う音が聞こえた。

 何か一体ではない。

 音が重なっている。

 俺は壁際へ寄り、剣を構えた。

 暗い通路の奥から、黒い影が現れる。

 大型犬ほどの蟻だった。

 黒褐色の甲殻。

 岩を砕けそうな大顎。

 その後ろから、さらに一体。

 三体。

 五体。

 次々と姿を現す。

 最後尾まで数える。

「十三体か」

 最初から、大群だった。

 鉱殻蟻が大顎を鳴らす。

 一体が走り出すと、残りも一斉にこちらへ向かってきた。

 通路の幅では、同時に襲いかかれるのは三体ほど。

 包囲される前に、数を減らす。

 先頭の一体が大顎を開いた。

 俺は身体を半歩ずらし、正面から振り下ろした。

 鋼鉄の剣が、頭部と胴体の間へ食い込む。

 甲殻の継ぎ目を断ち切った。

 鉱殻蟻が地面へ倒れる。

 胸の奥に、熱が生まれた。

 初めて倒す魔物から得られる、大きな祝福。

 身体の中へ力が広がっていく。

《鉱殻蟻を初めて討伐しました》

《ガチャ券を一枚獲得しました》

《ローデン地下迷宮討伐記録:1/7》

 表示を最後まで読む時間はない。

 二体目が、倒れた仲間を乗り越えてくる。

 大顎が剣へ噛みついた。

 強い力で刃を挟み込まれる。

 俺は無理に引かなかった。

 逆に、一歩踏み込む。

 鉱殻蟻の頭を剣ごと地面へ押し下げ、足で前脚の関節を踏みつけた。

 硬い音とともに脚が折れる。

 剣を捻って大顎から抜き、首の継ぎ目へ突き刺した。

 二体目。

 三体目が横から迫る。

 腹部を狙えば簡単に刃が通りそうだった。

 だが、腹を破れば素材へ臭いが移る。

 俺は突進を避け、横を通り抜けざまに脚を一本切断した。

 体勢を崩したところへ、首を斬る。

 三体。

 後ろの蟻が、倒れた仲間の身体につまずいた。

 その一瞬を逃さない。

 頭部の下へ剣を滑り込ませ、続けて二体を倒す。

 五体。

 最初の野良ダンジョンへ入った頃なら、すでに息が切れていただろう。

 今は違う。

 大爪熊を倒し、六種類の魔物を討伐した。

 コンプリート報酬によって、身体は投獄前の状態まで戻っている。

 さらに、魔物を倒すたび神の祝福が積み重なっていく。

 剣を振るう速度。

 足の運び。

 敵の攻撃を見てから反応するまでの時間。

 わずかずつだが、確実に良くなっている。

 六体目の大顎を受け流す。

 背中の甲殻を傷つけないよう、脚の付け根へ刃を入れた。

 七体。

 八体。

 九体。

 残る四体が、倒れた仲間を避けて左右へ広がった。

 狭い通路の中で、こちらを囲もうとしている。

 ただ突進するだけではない。

 群れで獲物を追い詰める知恵があるらしい。

 俺は後退し、壁から少し離れた。

 右の一体が先に動く。

 その突進を直前まで引きつけ、横へ避けた。

 鉱殻蟻は止まりきれず、頭部を岩壁へ叩きつける。

 背後から首へ剣を振り下ろした。

 十体目。

《鉱殻蟻を十体討伐しました》

《ガチャ券を一枚獲得しました》

 残り三体。

 最初の一体が倒れたときより、動きが軽くなっている。

 祝福を得た身体が、戦いの中で剣の使い方を覚えていく。

 一体の前脚を斬り、倒れた身体を盾にする。

 大顎が仲間の甲殻へ食い込んだ。

 動きを止めた二体の首を、続けて断つ。

 最後の一体が背を向けた。

 逃げるつもりなのか、仲間を呼ぶつもりなのかは分からない。

 俺は追いつき、後脚の関節を斬った。

 地面へ崩れた鉱殻蟻の首へ剣を入れる。

 十三体目。

 通路に静けさが戻った。

 呼吸を整えながら、周囲を見回す。

 《危険察知》に反応はない。

《所持ガチャ券:二枚》

《ローデン地下迷宮討伐記録:1/7》

 十三体を倒して、ガチャ券は二枚。

 残り六種類。

 俺は剣についた体液を拭き取り、解体用の小刀を取り出した。

 まず魔石を回収する。

 小さな魔石が十三個。

 これは売らない。

 《魔法のテント》を維持し、成長させるために使う。

 次に、大顎を根元から切り取る。

 冊子で読んだ通り、頭部の内側へ小刀を入れ、筋を切る。

 最初の一つは、余計な傷をつけてしまった。

 二つ目は少しきれいに外せた。

 三つ目になると、刃を入れる位置が分かってくる。

 背部甲殻も、傷の少ないものだけを切り取った。

 十三体すべてを完璧に解体する必要はない。

 時間をかけすぎれば、別の魔物が寄ってくる。

 状態の良い大顎と甲殻を選び、油布で包んだ。

 人が来る可能性を考え、一度は背負い袋へ入れる。

 その後、足音が聞こえないことを確認してから《収納》へ移した。

「魔石は力に。素材は金に」

 どちらも、今の俺には必要だ。

 解体を終える頃には、手袋が体液で汚れていた。

 《生活魔法》の水で軽く洗い、臭いを落とす。

 俺は立ち上がり、再び剣を握った。

 十三体を倒しても、まだ一種類目だ。

 この迷宮には、あと六種類の魔物がいる。

 ローデン地下迷宮の奥へ続く通路を進む。

 しばらくすると、前方の岩陰から何かが飛び出した。

 小さな影。

 だが、その速度は鉱殻蟻よりも速い。

 額から伸びた石の角が、まっすぐ俺の胸を狙っていた。

 《危険察知》が強く反応する。

 俺は剣を構え、突進を迎え撃った。

 次の獲物は、《石角兎》だった。


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