アマチュアは教師になる。
いきなり就職先が決まった事について、まだ頭の中で整理が追いついていないのにもかかわらず、話を続けようとする二人に俺は……。
「待ってくれ……! 教師になるってどういう事なんだ!?」
「それはね亡……私は亡をプロにするにはどうしたらいいか考えたの……そこで! 教師になってもらうことにしたの!」
「いや……何がそこでなのか分からないんだが……?」
「ふふっ! 夜桜! 説明してあげて!」
「はい! 亡、いいですか? 教師とは人に教えを説くもの……つまり! 出来た人間でないとなれない職業なんです!」
「……つまり……俺は出来た人間ってことか……」
なるほど、なら俺は教師に向いてるのかもな……。
まさか、心廻と夜桜の評価がそんなに高かったとは……。
つまり俺ってもしかして凄いのか……?
「いや、違う」
「え? あ、やっぱり俺……出来てない人間なんだ……」
心廻に直ぐに否定されて、凹みつつも、流石に自惚れだったと反省する。
「それも違うよ! 亡が教師になる理由は今言った通りだよ!」
「どういう事だ……? 俺は出来てない人間なんだろ?」
「はぁ……心廻、私達は亡の自己評価を見誤っているのかもしれません……」
「確かにね……私がアマチュア扱いしすぎたのかな……」
心配そうに二人に見られ、流石の俺も少し自分が何か異常だと察しはした。
「いい! 亡! 確かに亡はまだアマだよ? でも、経験豊富ではある、なら出来た人間のふりをする事も出来るんだよ?」
「なるほど……? つまり俺の経験を活かしてプロのふりをするってことか?」
確かに色々な経験自体はある、だけどそんなフリをしてまで教師になる必要は……?
「そうだよ! で、なんでフリをする必要があるかって言うと、一つ目は亡が人に教える事を通じて本物のプロになる為、二つ目は七理の教師になる事で王国内部に入りやすくする為だよ!」
「待ってくれ、言いたい事は分かったが、七理の教師って……もう居るだろ? 俺以外に」
正直、俺は教師になると言われた時点で、可能性としては七理の教師になるというのは考慮していた、だからそこまで驚きはないが……。
しかしそうなると元七理の教師との関係が悪くなりそうで怖いな……。
「大丈夫です、何故なら私が七理の担任でしたから……だから私が退くだけで問題ありません!」
「……そうか……大分お膳立てされてるな……だけど俺は教師なんてやった事ないぞ? できるのか?」
そう幾ら経験豊富とは言え俺はアマチュア、そんな人間に教師が務まるのかとても不安だ。
「そこは心廻にもサポートしてもらいますし、副担任もつけますよ」
「副担任?」
「入ってきてください」
「失礼します」
「あ、先生……!」
「草羽君、まさか貴方が……? 新しい七理の教師なの……!?」
入ってきたのは俺のクラスの担任、水流海月先生だった。
「学園長、これはどういう事なんでしょうか……?」
「そこら辺は、まあ亡とのやり取りで解決してください、私はもう疲れました……亡を教師にする為の根回しをこれからしなきゃいけないので……」
「……分かりました、草羽君、改めて私が貴方のクラスの担任であり、これからは七理の副担任も務める、水流です」
「よろしくお願いします、水流先生」
「そちらの方は……?」
「あ、我音だよ! よろしく!」
なるほど、改変の影響で自分のクラスに心廻がいた事はなかった事になってるっぽいな……。
「さて、亡、何故、水流先生を招集したかというと唯一行方が分かってる、元七理だからです」
「……」
それを言われた瞬間、水流先生が顔を伏せる。
「唯一行方が分かってるって……? どういう事ですか?」
「それは……この学園の七理は卒業後、皆、消息不明になっているんです」
俺も初めて知った情報だった、確かに思い返せば七理の卒業生の情報はこの国に広まっていなかった。
「水流先生も知らないんですか? 他の七理について」
「はい、私は卒業前に王宮の仕事ではなく、教師になると言って、七理の座を手放しましたから」
「なるほど……じゃあ何故、先生は七理の副担任をする事になったんですか?」
「それは、心配なんです……七理にいる妹がこのまま卒業したら行方不明になるんじゃないかと……だから私が近くで見てようと……」
「そんな複雑な事情があるんですね……」
それを聞いて、俺も姉さんと藍、そして幼馴染のアイツらと龍波の事が心配になった。
「なら、俺も協力しますよ、妹さんを行方不明になんてさせません、それに俺の家族や幼馴染も七理なんで知らないフリはできないんでね」
「正直、まだ貴方の事は、信用していませんが、その気持ちだけは貰っておきます」
「じゃあ亡、私は貴方を教師にする手続きに入ります、心廻に七理の名簿は渡してあるので読んでいてください、最後に……水流先生よろしくお願いします、亡を」
「分かりました、お任せください」
「さ、亡! 最後に私達のお部屋にお別れしに行くよ!」
「どういう事だよ……」
心廻に手を引っ張られ自室まで戻る事になった。
□ □ □
自室まで戻り心廻に言われるがまま荷物を纏める。
「どうして荷物を纏める必要があるんだ?」
「決まってるでしょ? 七理の教師なんだから、七理の寮の管理人もやるんだよ! あ、もちろん私と同室だから!」
「……そうか……ふふっ」
正直、この自室にはそこまで未練がないし、心廻とまた一緒な事に内心笑みが止まらなかった。
「じゃあ行こっか」
「ああ!」
□ □ □
――翌日。
七理の教室の前まで来た。
今日からいよいよ新しい生活が始まる。
扉を開ける。
「皆さん、初めまして、貴方達の新しい教師になりました、色十目生我です」
俺は心廻と水流先生と話し合って、名前を変え仮面で正体を隠すことになった。
こうして、俺の教師としての新生活が始まった。




