「15」
お久しぶりです!
という事で、目の前には自らを主人公と名乗った人物と、その従者……いや友達らしき人物が座っている。
もちろん俺の隣には俊哉。
ご飯を奢るという名目で開かれたそれに着いて行くのは申し訳ない気持ちもあったが、どうしても色々と確かめたい為に諦めた。
「なんで安藤類がいるのかしら」
「なんで俺の名前知ってるんですかね」
「当たり前でしょう!貴方は……」
「姫さま!!!」
「コホン、それは、高林俊哉様のお友達だからですわ」
来た瞬間から観察を始めた。まず気になるのは、やはりその話し方だと思う。隠しきれていないお嬢様口調。というか日常で『かしら』とか『ですわ』とか使わない。ていうか、高林俊哉様って、俊哉は何様なんだよ。
しかも何か気品のあるドリンクの飲み方をしている。まぁ、ここ、ファミレスなんだけどね。
周りは若者からお年寄りまで様々な年齢層が来ており、なかなか混んでいるので、より一層その違和感を感じた。
それにしても、俺、この方達と接点なんかなかったはずだ。なるべく関わらないように避けながら情報収集もやっていた(まだ隠しカメラはチェック出来てないけど)。
なのに『当たり前』ときた。
これはもしや、そっちの“世界”の登場人物だったのか?
「ところで俊哉様」
「あの、その様って気持ち悪いからやめてもらえないすか?」
「な、なぜですの。俊哉様は俊哉様以外に何を」
「いや、他にもありますよね」
「……高林様」
「だから……」
「む、無理ですわ!神様に様なしでお呼びするなんてそんなおこがましい」
「は?神様?」
「そうですわ、俊哉様は最早神と変わらない存在なのでございますわ」
「………………へぇ、そうですか」
俊哉が思いっきり引いている。
そりゃそうだろう、この間出会ったばかりの人物に神様と同じ様な人物とか言われて引かない人は居ないんではないか。
あと、隣に座っている主人公とやらの友達も両手をグーにして胸の前で握りしめ応援しているからこそ、俊哉の気持ちを引かせる事に拍車をかけているのだろう。
カオス。その言葉につきる。
「あー……俺、なんか用事思い出した気がしてきた」
「しゅんや?」
「……ルイ、悪い、後は任せた」
「しゅんや!?」
俺の肩に手を置いてそそくさと退散しようとする俊哉に
おい待てよ、この状態で置いていく気か!!
ついそんな気持ちが働き、俊哉の腕を掴んで引っ張った。
「この!」
「な!!」
ドサァ!!!と音を立てて俺の上に倒れこんできた俊哉は、倒れた時にぶつけた腕が痛いからなのかすぐに俺の上から退かなかった。
側から見たら俊哉が俺の首筋に顔を埋めたいるように見えるはずなので、慌てて肩に手を置いて彼の体を起こす。
なんだか2人で倒れてた時に周りから歓喜の叫びが聞こえてきた気がしたけど気のせいだろう……。
やめてくれ、俺は俊哉とこんな体勢を望んだから引っ張った訳ではないんだ。
ふと、主人公系の人物に目を向けると、真っ赤な顔をしてこちらを見てきていた。わなわなと体を震わせている。
「ぐぅ……だから、だから!」
「だから??」
「貴方が一番のライバルですよの!安藤類!!!」
「は?!」
「今日の所は失礼いたしますわ!!」
「ちょっと!!?」
待ってくれよ……気になるのセリフを残していくんじゃないよ。
俺と俊哉のあの体勢を見た時に一番のライバルってセリフを残していくんじゃないよ……。
「なんだあれ」
「しゅんやのせいでしょ」
「ルイが引っ張ったせいだろ」
「あの状態で残されたら誰でも引っ張るだろ!」
「あー俺、対象男じゃないからさ……ごめん」
「は!?俺だって違うわばか!ばかしゅんや!」
お前だけ被害者ヅラしてんじゃない!
こうして、あの主人公と名乗る人物との初対面は終了してしまった。名前を聞くことができなかったが、割と重要そうな情報はゲットできたような気がする。
いや、重要な情報であってほしくはないのだけど……。
あの言い方だとかなり重要なのだろう。
結果こうなってしまったのだから、大学で本人に直接聞くしかない。
「あいつら、会計してないんだけど」
「あはは、ドリンクバーだけしか頼んでなくて良かったね」
「なんか、無駄な体力だけを消費した気がするな」
全くの同意見です、俊哉くん。
「無駄足にならないようにどっか寄り道して帰る?」
「俺、あの新しい店行きたい」
「ん?ああ!あのマフィンの店?」
「そう」
「はは!しゅんやマフィン好きだねぇ」
「うるさい、早く出るぞ」
その新しいマフィンの有名なお店はちょうどこのファミレスから駅へと向かう道にある。
寄り道としては素晴らしい場所だろう。
そういえば、そこには名物店員が居るという話を聞いた。すごい美女か、イケメンがいるんだろうか。
少しだけ心が弾む。きっと目の保養になるはず。
そういえば最近、楽しみを感じる心が欠落していたのかもしれない。
この世界のクリア以外もやはり楽しまないとだよね。
「ふふ……」
「おい、気持ち悪い顔してるぞ」
「うるさいよ、イケメン」
こうして俺たちは問題のマフィン屋に足を向けたのだった。
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