5『復讐者』
飛鷹肇改め無銘は、兵士の装備から教会を襲ったのはオルファ王国の部隊だと見当をつけていた。オルファ王国は魔族の主要都市は狙わず、辺境の都市を攻略してじわじわと勢力を伸ばしていた。
無銘はその戦略を見越して、辺境の都市ラマに逗留していた。
果たして、無銘の勘は当たった。オルファ王国の軍隊がラマに攻め入ってきたのだ。慌ただしく駆け回る群衆の隙間を縫って物見櫓を駆け上がって銀髪の男を探した。
「ちょっとアンタ! ここは関係者──」
「義勇兵だ」
ラマの兵士の言葉を遮って、無銘は軍隊を睥睨する。
「!」
無銘の心臓が跳ねる。銀髪の男が最前列の中央に居た。御者の操る戦闘用の馬車──戦車に乗っている。
「門を閉じろ! 弓兵は櫓へ急げ!」
隊長の指揮でラマの兵士達が集まる。数にしておよそ千人。対するオルファ軍は五千人超。数的不利を如何に補うかが鍵だが、無銘には戦の勝敗は関係ない。復讐を果たす。それだけが無銘の行動原理なのだ。
「おーし、この辺でいいぜ」
御者に命じて戦車を止めると、全軍の行進が止まる。
「聞こえるかー? お前らには勝ち目が無いからさっさと門を開けて降伏しろー」
銀髪の男が叫ぶも、ラマ陣営は微動だにしない。
「まぁそうだよなー。しかたねぇや、全軍突撃!」
銀髪の男が剣を振るう。すると、空間が裂けてラマ市内へ繋がった。男とオルファの兵士達はその裂け目から市内に雪崩込み、混乱するラマの兵士達を次々と斬り伏せ、内側から門を開けた。
喊声と悲鳴が同居する中、無銘はただ銀髪の男だけを注視して、男が背を向けた瞬間に攻撃を仕掛けた。
「おっと! 危ねー!」
無銘の打拳を躱すと、銀髪の男が向き直る。すかさず、男に連撃を叩き込む。男は堪らず後退して体勢を立て直すと、無銘に声をかけた。
「俺アンリ・ベルナールっていうんだけど、何処かで会った? アンタからは半端じゃない憎しみの気配を感じるんだけど」
「……」
「だんまりか。まぁ何人も殺してきたからしかたないかー。こっちも名乗ったんだ。アンタの名前も聞かせてよ」
「……名前は捨てた」
言い終わらぬ内に無銘が中段突きを放つ。銀髪の男──アンリは剣で弾くも、鍛え抜かれた上に魔術で強化した拳には傷一つ付いていなかった。
「外側は硬いけど内側はどうかな?」
アンリが刃圏の外から刺突を繰り出す。無銘は咄嗟に距離を詰めた。先程まで無銘が居た場所から剣先が突き出ている。無防備になったアンリの胴に、無銘が脚を打ち込んだ。
「がっ! テメェ……俺と戦った事があるだろ」
吐血して、アンリは無銘を睨め付ける。アンリは無銘と同じ異世界人だった。能力は『次元自在』。次元の壁を突破して空間を繋げる能力である。
「糞が!」
アンリが剣を横薙するも、無銘は肘と膝で刃を挟み、そのまま剣を砕いた。そうして、無銘は男の首を掴み、片手で持ち上げると、力を込めた。
「十万億土でお前が殺したヒトに詫びろ」
無銘がアンリの頚椎を砕いた瞬間、十一次元の彼方へ消えな、とアンリは笑った。
途端、眩い光が周囲を包んだ。無銘の視界が真白の闇に飲み込まれる。
手にしたアンリの感触が消え、視界が晴れると、無銘は見覚えの無い場所に居た。ラマでは無い。先程までは昼間だったが、夜になっている。
「此処は……」
懐かしい匂いがした。匂いだけではない。遮断機の音、車の走る音。
「帰ってきたのか……?」
その時、三匹のドーベルマンが吠えかかってきたが、無銘の一睨みで引き返していった。
「我が家の番犬を追い返すとは中々やるな」
一人の少女が近づいてくる。
「お前に与えられた選択肢は二つ。不法侵入で警察に捕まるか、私の執事になるか、だ」
そう言って、少女は笑った。




