#89 テンビンサマ
「今日も放送していこうか。内容は――」
「これとかどうですかね…」
渡されるのは、一枚の台本。
クロードが紙をめくる。
「これは…中々いいじゃないか」
テンビンサマ、か…
「よし、オンエアしていこう。マイクの用意して!」
テキパキと準備が進む。
「フヘヘッ…私の自信作ですからね~」
"苦手でも楽しい放送"をモットーにしている。
ここは学園。好きな人も、もちろん苦手な人もいる。
そのため、あまり怖くなりすぎないような明るいトーンで話すのだ。
『今日も、心霊放送の時間がやって参りました。本日の話題は…ゼルティア学園七不思議について』
ユリアが作った連作。ゼルティア学園七不思議。
『"テンビンサマ"ってご存知ですか?』
ちなみに即効読みで、練習なし。
『黒い紙に選択肢を書いて…あ、鉛筆じゃないと駄目ですよ。すると当然、書いた文字は見えませんよね。でも、「テンビンサマ、テンビンサマ。我らを導きたまえ」と言うと、"片方の文字が浮かび上がる" らしいですよ。勿論、現実になることも…』
ここまでなら、そこまで怖くはなさそうだ。
そう、ここまでなら。
『しかし、絶対に人の名前を書いてはいけません。選ばれた方が、消えてしまいますからね』
今回のはギミックホラー。
『ちゃんと守って、選択肢を委ねて下さいね。今日の話はこれで終わりです。また次回…』
「終了。今日の部活も終わりだよ」
すると、部員が一人話しかけてきた。
「あの…あんな話流していいんでしょうか。流石に現実味が…」
ま、"人が消える"なんてのはやりすぎだよな。
「勿論、分かってるよ。試したら簡単に分かるからね」
「なら余計に何故…」
「そういう事を考えてる時が一番楽しいんじゃないか。"本当だったらどうしよう…"ってね。だって、怖さから夢を与えるのが放送部の仕事だから」
部員は、感銘を受けたような顔をしていた。
「…確かにそうですね」
納得してくれたようだ。
「ほら、早くしないと遅れるよ。君たしか…次体育じゃなかったっけ?」
「ああ、そうでした。お先に失礼します!」
慌ただしく出ていく。
「次もよろしく頼むよ。ユリア君」
ユリアは、部屋の隅に立っていた。
「勿論、お任せを…」
少し、笑みを浮かべていた。
「これも実在するのかな?」
ゼルティアのご飯を食べながらルナが言う。
「実在したら怖いけど…あるんじゃない?」
「もしあったら何処から情報得てるのか気になるぐらいだよ」
「そうだよな。二度も当てれたら流石に」
「…探してみる?」
先輩が言った。
「あれ、先輩ホラー苦手じゃ――」
「小説家たるもの、苦手じゃ駄目だからね。"克服のための挑戦"って感じかな?」
先輩も成長しようとしてるんだな…
「やってみる?」
――空き教室。
もともと、学校の英雄として銅像を作る予定があったらしい。
もちろん、全力で拒否した。
その代わり――永久待遇を頂いたのだ。
内容は、校内の設備使い放題。
空き教室の確保はお手の物だ。
「たしか…黒紙を用意して、鉛筆で選択肢を…なんて書く?」
「"会いたい"って書けばいいじゃん。選ばれたら現実になるんでしょ」
「"会えない"を選択されたらどうするのさ」
「会えるまでやる!」
脳筋戦法か…
「え…と、テンビンサマ、テンビンサマ。我らを導きたまえ…」
――何も起きない。
そりゃそうか…
「あれ、もう一度――」
やはり起きない。
「やっぱり、ただの都市伝説でしょ。てか、ガーディアンに直接聞いたほうが早いんじゃ…」
「…そうかもね」
諦めて撤退しようとした、その時――
紙が光る。
文字が、ゆっくりと浮かび上がる。
紙に"会いたい"が写った。
「会える?会えるの!?」
先輩が興奮気味で話す。
すると、突如視界が黒に染まった。
まるで、紙がそのまま大きくなったみたいだ。
「何!?なんなの?」
「先輩、落ち着いて下さい…」
この予兆…本当に…
視界が戻る。
…前と全然違う。
いや、当然か?
先輩…
「なんだ、この程度かハハハ…」
完全に動揺している。
「テンビンサマはどこにいるんだろうね…」
会いたいって言ってたからすぐそばに…
まさか後ろ!?
勢いよく振り返るが、誰もいなかった。
「ま、ありきたりな…」
視界を戻すと…いたぁ!
「どうも、小生が七不思議一番の――」
落ち着いた振る舞い。
幽霊みんなこうなのか…
すると、ルナが口を開いた。
「君って、まさか…ファント?」
え、ルナの知り合い?




