#88 守護者の所蔵庫
そこに、人がいた。
――まるで、当たり前のように。
「…誰?」
恐る恐る、質問を投げかけた。
しかし、返事が帰ってくるより先に全体像が明らかになる。
思わず、言葉を失う。
理由は見た目。
紺色のドレスには、目のような模様が所狭しと描かれている。
しかも――その幾つかは動いているようにも見えた。
顔が無表情な所も恐怖の要因になった。
「…君、何者…?」
問いかけた瞬間、少しだけ顔に微笑みを浮かべた――そんな気がした。
「白石湊。異世界からの訪問者にしてゼルティアの監視役。二之宮と言う偽名を持つ。経歴は――」
…は?
再び、言葉を失う。
「なんで僕の事を…」
個人情報垂れ流しにされてるし、コイツ一体…?
「スキル無し。いかがわしい点無し。つまらない男ね」
"つまらない男"がルナのトリガーとなった。
「コイツ…よくも侮辱して…」
怒りを抑えている分、まだ偉い。
前なら問答無用で…
「ミリア=ルナ。三番目の神格者で憶奏王。ヒトの心を認知できる…中々いいじゃない」
神格者に対してなんて上から目線な…
「リゼリア=アークライト。元ゼルティア序列2位にして十番目の神格者。二つ名はまだ無し、ね――あら、私と似たような存在を連れているわね」
"リゼリアが連れている、私と似たような存在"
答えを導くには十分なヒントだった。
「キミは誰なの!?いきなり現れて侮辱して…」
即座に反論する。
「いきなり?私はずっと、あなた達を見ていましたよ。この学園に入った時から、ずっと」
背筋に悪寒が走る。
そして、答えの裏付けにもなってしまった。
「やっぱり――君は恐らく…」
口を開きかけた、その瞬間――
「ええ、見ての通りに幽霊ですよ」
さも当然のように言う。
「俗世では、"七不思議"と言われてました」
「七不思議ですって!?」
リゼリアが反応した。
「聞いたことあるの?」
「昼食の時間にアルク様が流している心霊放送の内容です。まさか本当に存在したとは…驚きですわ」
似たような存在が何言ってんだか…なんてのは口に出さない。
「7番、守護者の所蔵庫。以後ガーディアンとでも読んで下さいね」
ガーディアン…
仰々しい名前だ。
「確か…学園内で起きた全ての事を所蔵しているのでしたっけ?」
「勿論です。ちょっとした事件から誰かの失恋まで、全ての事象を把握していますよ」
つまるところ…ルナの役割と同じ?
「いいえ、そうではありません。ルナ様のスキルは、目の前で起きた事限定。私のは学園内で起きた事限定です」
当然のように心を読んでくるのにはもう慣れた。
「それに…私はスキルではなく、そういう役割ですから」
何その意味深な言い方。
「つまり、ゼルティア戦争の事も知ってるってことだよね。なら早く教えて――」
すると、ガーディアンは首を横に振った。
「残念ですが、それはできません。私から教えることは禁止されているのです」
ならしょうがないか…
「それに、私の監視者を大量に傷つけたことは忘れていませんからね」
え、いつ傷つけたの?
「リゼリア様とルナ様がそれぞれ攻撃をした時に、見えていなかったから仕方がないとは言え――大量に巻き込んでいました」
そして、手のひらを出す。
「これが、私の眷属…監視者です」
出てきたのは、真っ黒な蝶。
「見たことないよ。こんなの…」
よく見ると、周りにも…
「滅びる事がないとはいえ…万力統一は乱暴ですね。注視する必要がありそうです」
本を取り出し、書き記す素振りをする。
ペンを持ってはいないから、スキルなんだろうな。
「にしても、悪趣味な服着てるね」
瞬きまでする服とか厨二病心全開の…
「これは服ではないですよ。自分の身体の一部です」
ってことはハダ――
ガツン!
「痛そ…」
ほ、本?
いきなり飛んできて…
「それ以上思考を進めないでくださいね?」
その笑顔の裏に、恐ろしさを感じた。
――ちゃんとしたホラーだと分かった。




