#8 行動
痕跡を追いかけ、街道を走る。
「間に合ってくれ…」
目の前の空間が歪む。
来る!
咄嗟に剣を抜く。
現れたのは――一つ目の人型。
「あいつか……!」
敵は無造作に手をかざす。
(来る!)
地面が歪む。
穴が開く。
横に跳ぶ。
「……っ!」
ギリギリで回避。
間髪入れず、踏み込む。
剣を振る。
――空を切る。
いない。
「やっぱり……!」
再び振る。
消える。
もう一度。
「――そこだ!」
ガキィン!!
硬い手応え。
腕に衝撃が走る。
(そうか……!)
行き先に、魔力が発生している。
「なら――!」
踏み込む。
現れる“位置”を読む。
剣を振る。
当たる。
連撃。
「ヤァッ!!」
ついに、深く斬り込んだ。
敵が後退する。
「逃がすか!」
全力で踏み込む。
渾身の一撃。
地面ごと叩き割る。
土煙が舞う。
視界が塞がれる。
――やったか?
煙が晴れる。
そこに、敵の姿はなかった。
「……くそ」
逃げられた。
――――――――――――――――――――――――
「……さて、と」
小さな窓から差し込むオレンジ色の光を見上げる。
「魔法は……やっぱり封じられてるね」
手首の枷を見る。
重く冷たい。
魔力の流れが、完全に止められている。
「鉄柵も……無理そう」
軽く叩く。
びくともしない。
「普通なら、ね」
小さく笑う。
「抑えるなら――超えればいい」
深く息を吸う。
魔力を、内側から押し出す。
じわじわと、溢れさせる。
白石君を待つ間、街にいた魔法使いに魔力の使い方を教わっていたのだ。
枷が軋む。
「……もう少し」
さらに流す。
制御なんて気にしない。
押し切る。
――パキン。
小さな音。
次の瞬間。
枷が砕けた。
「よし」
手首を軽く回す。
「これで、動ける」
視線を扉へ向ける。
「白石君も、きっと来てる」
少しだけ笑う。
「じゃあ、迎えに行こうかな」
――――――――――――――――――――――――
「ここか……?」
辿り着いたのは、ひび割れた石でできた古い塔だった。
蔦が絡みつき、半分は朽ちかけている。
どう見ても、まともな場所じゃない。
「……異世界っぽいな」
小さく呟く。
こんな状況じゃなければ、少しは楽しめたかもしれない。
扉に手をかける。
――ギィ……
重たい音を立てて、ゆっくりと開いた。
中は、暗い。
ひんやりとした空気が流れ出てくる。
「……階段かよ」
目の前には、上へと続く螺旋階段。
他に道はない。
覚悟を決めて、足を踏み入れる。
コツ、コツ、と足音が響く。
やけに大きく聞こえる。
静かすぎるせいか。
いや――
(……誰か、いる?)
気配。
上から、何かに見られているような感覚。
立ち止まる。
耳を澄ます。
何も聞こえない。
「……気のせいか」
再び歩き出す。
同じ景色が続く。
石壁。
細い窓。
螺旋。
どれくらい登ったのか、分からない。
(……おかしい)
体は、疲れていない。
それはいい。
でも――
(こんなに長いか?)
塔の外観から考えて、あり得ない高さ。
まるで、終わりがない。
嫌な予感がする。
そのとき。
視界の端に、何かが映った。
「……?」
振り向く。
そこには――
誰もいない。
だが、確かに“何か”がいた気がした。
「……幻覚か?」
いや、違う。
この場所そのものが、何かおかしい。
「なら――」
剣を抜く。
警戒を強める。
「来いよ」
低く呟く。
次の瞬間。
上の階から、足音がした。
コツ。
コツ。
誰かが、ゆっくりと降りてくる。
「……来たな」
構える。
闇の中から、影が現れる。
それは――
「……お前は」
見覚えのある、一つ目の人型だった。
だが。
その数は、一つではない。
三つ。
「まとめて来るってか」
剣を握り直す。
「上等だ」




