#84 ゼルティアの日常
「逃げたぞ!追えー!」
まだ暗闇が包むローラスに、突如として逃亡者が現れる。
「どこに行った…」
まともな街灯も少ない町だが、問題はそれだけではない。
「新編成のごたつきを狙うなんて…あいつも中々の策士でしたね」
レイズと言ったな。
白石に対して恨みつらみを重ねていたため、重要指定人物に入れていたが…
壁を叩く。
「警備が、甘かったのか…?」
その時、ポチャンと水音がなる。
「まさか…水路か!?」
即座に行動。
他人に扮装されたら見つけようがなくなる。
『水路の出入口の封鎖を要請!』
即座に、町内十カ所の水道を封鎖。
しかし、いつまで経てど人らしき影は現れなかった。
「…くそ!逃げられた!」
ローラスは朝を迎えようとしていた。
「白石湊…貴様だけは…」
明るい朝日とは対象に、レイズの目には怨念が籠もっていた。
『――このように、誰から恨まれているか分からない。その感情が、幽霊を作ることになるのです』
そんな放送を聞き、椅子に座って資料整理をする人がいた。
「…なんだこの放送は」
いつも通りの昼休憩で、何やら不思議なアナウンスが来たから聞いてはみたものの…
机の前に立つ人が、トントンと書類の角を揃え言う。
「最近有名な放送らしいですよ。放送部と心霊部が協力して怪談話を流してるとか…」
「季節を間違えているだろう。今は秋だ」
ここは、ゼルティア学園の"元"センターベース。
もちろん、不機嫌そうに整理しているのはヴェルナだ。
「はい、これ…追加の請求書です」
おずおずと提出する。
「何だこの請求金額は!?こんなの経費で落ちるわけないじゃないか!」
想像はついていた。
「あちこち壊したツケが回ってきたんでしょうね…」
まったく、白石は厄介なものを…
「そもそも、あの原因は情報部のはずだ。なんで対応したこっちが…」
愚痴は絶えない。
この頃、ずっとこんな感じだ。
『暗い感情も、霊を生み出すようですよ。明るく過ごしていきましょう』
付けたてのスピーカーから、ヴェルナを刺激するような放送ばかり流れる。
「…クロード先生。なんでこんなのばっかり…」
ガルドの口から、ため息が漏れたのだった。
「オンエア終了。お疲れさまでした」
放送部の面々に告げる顧問、クロード。
「今日の部月は終了。帰っていいよ」
皆、それぞれの教室へ戻っていく。
「…君のおかげだよ。ここまで人気を博したのは」
後ろにいるのは、心霊部部長のユリア。
アルクに神格化を教えた当人だ。
「そんな事ないですよ〜部活紹介も兼ねてますので…」
どこか癖のある話し方。
「君のそのリアルな情報が、信憑性を上げているんだ。感謝してもしきれないよ」
「へへへっ…」
変な笑い方をしていた。
「もしかして…本当に見たことあるとか?」
「そうですね。見てたら…どうします?」
一瞬だけ、無音。
「そんなわけないよね!流石に…」
二人で笑う。
「見てみたいものですね~」
真上にあったスピーカーに音が宿る。
《キーンコーンカーンコーン――》
「おっと、あと少しで授業開始のようだ。早く帰った方がいいよ」
「はい〜」
放送部の重い扉を閉める。
「…さてと、授業授業」
「重力がこのようになっている時、物体の重さはどうなるのかな?」
ホワイトボードに公式を描く。
教室では皆が俯いている。
中には寝ている人も。
分かるよ。物理って退屈だもんね。
「じゃあーリゼリア。実際にやってみてくれ」
実際にやるのが一番理解しやすい。
「またワタクシですか?物理でこき使うのは辞めていただきたいもので…」
だって最適解なんだもの。
いや、言い過ぎだ。
"最適"ではないかもな…
「このように、計量器に3kgと書かれている物体にかかる重力を減らすと…このように、値も変化する。逆もまた然りだ」
言い終わったタイミングで、ドン――と音がなった。
「あら、計量器が壊れてしまいました。申し訳ないですわ」
教室から歓声が上がる。
「またか…一体何個スクラップ送りにすれば気が済むのやら…」
これが、最適ではない原因。
「ワタクシを授業で当てなければいいだけのことですわ」
すぐに大切な道具を壊すのだ。
多分…本人には悪気がないのだろう。
「必要経費で落ちるかな、これ…」
「リゼリアー!」
「放課後にワタクシを呼ぶとは…一体何用で?ああ、貴女ですか」
「ねえねえ聞いてよ!体育で凄い記録取ったんだよ、ほら!」
一枚のプリントを出される。
[100m走、結果:10.65]
「中々素晴らしい結果ですね。ワタクシはもっと早いですが…」
「何秒だったの?」
「0.01」
「スキル使ったな!」
「"どんな道具を使うのも自由"がゼルティアの体育理念でしょう」
「そうだけどさ…」
「それに、授業中に銃声が響くとは思ってもいませんでしたよ」
「バレてた!?」
「窓から見えていますよ。真後ろに撃って反動で進む。素晴らしい作戦ですわ」
「そうかな…?」
褒められて照れたような笑みを浮かべている。
「速そうなライバルを麻酔銃で次々に撃って、消去法で1位になった所も」
イリスは、銃で撃たれたわけでもないのに胸が苦しい感覚を覚えた。
「あ〜あ。葵ちゃんならもっと優しいのにな…」
完全に不貞腐れている。
「そうそう。その白石さん達がまたやって来るのを聞きましたわよ」
「そうなの!?」
「あのレイズの情報を取りに来るとか…色々忙しい人達ですわね」
「久しぶりだな…楽しみだな」
これが、白石達が守った、ゼルティアの日常だった。




