#74 序
スパイ任務、一日目――
と言っておきながら、スパイらしい事なんて何も知らない。
見様見真似でやっているのだ。
ゼルティアでやった時は、向こうから動いてくれて助かったが…
今回の相手は大の大人。
そう簡単には行かないだろう――
そして、もちろん監視人…いや、もう違った。ガイドのカノンがいる。
彼女、本当に何も知らないんだよな。
どっちの方が幸せなんだろう。
法皇さんとも約束したし、僕からは教えないけど…
その時、前から凄い服装の人が歩いてきた。
宗教関連の人――そう思っていたが、気配に覚えがあった。
すれ違った気配に、覚えがあった。
気配だけ。他は何もない。
「カノン、あの人誰?」
「大司教様の事?とっても長く信仰した一般人がなれる最高位の役職だよ。私もいつかは…」
まだ、そのもっと上に行ける事を知らない。
「確か…ユレール様かな?」
なら、他人か。
似たような人は、どこにでもいる。
「…そう言えばさ、全然この教団がなんなのか知らないんだよね。教えてくれない?」
こういう話は、聞くと案外面白い――ってのを友人に言ったら、変な目で見られたのは記憶に新しい。
"何にでも興味を持つのは大切"と言って誤魔化したが…
ローラス教の歴史は、約400年前…地獄の氷河の発災に遡る。
この厄災は、ほとんどの国の文明を滅亡に陥れた。
もちろん、ここも例外ではない。
人口の半分以上が文字通り"消えた"
その時に、この辺りの地域で元々信仰されていた神を我らの救世主として奉ったのが始まりとされる。
それ以来、この地域では厄災を起こした攻撃魔法と生活魔法を禁忌として、回復魔法を聖なるモノとして扱ったのだ。
そんなローラス教の教えは3つ。
・人を欺かない。
・人を殺さない。
・神を信じる事。
これさえ守っていれば、終末にはきっと救って下さるとのこと。
「これって、"信者にあらずんば人にあらず"みたいな事言わないよね?」
どこの平かと思うが、確かにそれだと困る。
「もちろんですよ。信奉していなくても人は人です」
なら良かった…
胸を少しなで下ろすが、また別の不安がある。
"攻撃魔法と生活魔法が禁忌"…
非常に困ったことになった。
使ってる所を誰かに見られたら大変だ。
「私は、ローラス教を信仰しましょうとは言いませんが、それでも…できればここのルールに従ってほしいです」
それは…そうかもな。
禁忌を目の前で使われたら、そりゃ嫌に決まってる。
郷に入れば――なんとやら。
「いいよ」
二つ返事で了承。
2人も、それには納得してくれているようだ。
スパイって…心見たら余裕だったんじゃね。
今更気付いても、時すでに遅し。
ルナの星巡記憶は使えない。
やらかした!
もういいや、真面目にやろう。
――2日目。
長期滞在する事になっているので、普通を装う事になる。
一体何をしているかと言うと――
掃除だ。
粛清とかではなく、普通の方。
こっちの秋も大差はないようで…
よく参道に落ち葉が落ちる。
しかも、とんでもない量。
集めているうちに身体の半分はありそうなほどの、落ち葉の山ができた。
流石に日本でも、この量は…
ちなみに…この後どうするかと言うと、放置である。
そのまま土に還らせるらしい。
――風でも吹いたら、一瞬で元に戻りそうだが。
それでも、宗教のルールを守って行こう。
僕は言うまでもなく無宗教者だが、配慮はする。
ルナ――もとい神格者は、どんなふうに思っているのか気になるが…
というか、神格者と神って別物なのか?
「ルナ、神格者と神って一緒じゃないの?」
素朴な疑問をぶつける。
「神格者って名前つけたの、法則王のあいつだし…私にも分かんない」
あ…そうなんだ。




