#73 老いたマエストロ
遠くで見ても高いかったが、近くで見るともっと凄い。
プロパガンダ用か…?
「この中に、法皇がいるんだよね」
「さっそく進もう!」
ろくでもない宗教の法皇は、これまたとんでもない人かと思っていたが…
「どうも、遠路はるばるご苦労。私はローラス法皇国の法皇、クレシアス=フォーマルト6世だ」
暴君や覇王とは程遠い、とても年を取った人だった。
柔らかい目に、落ち着いた声。
誰かのお祖父さんにいそうである。
「話は聞いている。この教団を調査しに来たのだろう」
僕たちはまだ誰にも言ってないから…
"社長"が言ったのか?
「実を言うと私自身、腐敗にうんざりしていた所なので、掃除してくれると助かるのだ」
意味深な、"掃除"
「もちろん、私以外は誰も知らない。ただの訪問だと思っている。そのほうがやりやすいだろう」
それはいいが…
「仮に法皇様が裏切ったら、どうするんです?」
国賊認定されたらたまったものではない。
「その点は信頼してくれ、人を裏切らないのが、我が宗教の教えだからな」
流石に、法皇が破るとは思えないか…
「わかりました。くれぐれも内密にお願いします」
振り返ろうとした、その時…
「あと、君にもう一つ、お願いがある」
まだあるの…?
「カノンは知っているよな」
カノンって…あの子?
「案内人になってくれていた、あの子の事ですよね」
「ああ、信仰心の高い良い子だ。その事で、今から少し暗い話をするが…聞いてくれるか?」
「もちろんです。なんでも話して下さい」
「あの子の親は二人共、死んでしまった。いや、…殺された。犯人が誰かは、いまだに分かっていない」
おいおい、またエライ話に巻き込まれた。
どこが"少し〜"だ。
「どうしてそんな事になったんですか?」
「あの子は、王家の血を継ぐもので…次の法皇の候補者だ。それ故、争いに巻き込まれたのだろうな。事件以来、再び暗殺される事を防ぐため、私の遠い親戚に預けた。きっと、彼女はその事を知らない。今でも…本当の親だと思っているのだろう」
あの子…
「しかし、…私ももう年を取った。後継の事を考えなければならない。そこで、あの子を呼び戻したわけだ」
「そんなの、危険ですよ!」
先輩の猛反発。
「そこで、本題だが…彼女を娶ってくれないか?」
うん?
「"流星を斬った"と名高い君なら、彼女の事を任せられる」
「あの…娶るって何ですか?」
先輩に尋ねてみると、驚きの返事が帰って来た。
「娶るってのはね…"妻として迎え入れる"の古い言い方で、つまり、結婚してくれってこと…」
その言葉に真っ先に反応したのはルナ。
「駄目だよ!夫は私だけのモノなんだからね!」
モノって言い方が少し引っかかるが…
流石に、ルナに賛同する。
「法皇様。その提案はありがたいですが…断らせて頂きます。見ての通り、私には既にいますので…」
「…そうか、なら仕方がないな」
意外と、あっさり引き下がった事に内心、ホッとしていた。
もし、「要求が飲めないなら、コレは命令だ。さもなくば…」なんて言い出したらどうしようかと思っていた所だ。
でも、こうやって振ったままだと良心?が痛むので…
「その代わりと言ってはなんですが、彼女を魔の手から護って差し上げます」
法皇は満足そうに頷くと、「そうか、ならありがたい。彼女には秘密にな」と言った。
面会は終わった。
「今日はもう…休もう」




