#71 新たな旅
ガミガミ、ガミガミ…
その言葉がよく似合うほど、怒られている。
もちろん、僕ではない。
僕の隣に居る…ルナだ。
神格者ですら敵わない、これぞ大人の圧。
「無事に帰ってこれてこそ良かったが、もし向こうで何かあったら取り返しがつかなかったぞ。第一…」
「そろそろ許してあげたらどうですか?」
同じく呼び出されているシフリスが言い、フェイタルがそれに賛同している。
招集がかかったのは5人。
いつものメンバーと、あのカップルだ。
「…僕がよびだされた理由は?」
そこで、話が一度区切れる。
「ああ、それなんだが…新しい仕事だ。今回は――」
ちょっと待て!
「僕もう帰れるから、仕事する必要ありますか?」
「もちろんあるとも。まだまだ働いてもらうぞ」
やっぱりブラックだったのか。
「しょうがないだろ。こっちも人手不足なんだ」
「せめてこう…対価を支払ってほしいというか…」
「別に払える。しかしだ。お前達の貨幣には交換出来ないはずだが」
嗚呼、そうだった…
「ほら、諦めたら早く行け」
今日もまた、門が閉じるのだった。
「結局、あの二人は来ないんだね」
「イチャイチャしたいんじゃないの?」
「あの二人がするかな…?」
「黒幕の方はともかく、シフリスは全然すると思うけど…」
「そうなの!?」
「あの感じ、大体分かる――」
なんて話をしてるんだ。
「いやー青春を謳歌してますね」
今回の案内人は、あの時のヘリのナイスガイ。
流石に遠いとのことで、"社長"がチャーターしてくれたのだ。
「フィアナさんは元気にしてますか?」
向こうに入れそうもないので、こっちに話してみる。
「時折顔を見るけど、前より明るくなった気がするよ。君たちのお陰かもね」
「いやいや、そんな事ないですよ。きっとカルナさんの――」
教育実習生のあの人。
ゼルティアでの期間が終わって、今はフィアナさんの家に居候してるらしい。
「もっと自信持っていいと思うよ。あの2人は、君達じゃないと救えなかった気がする」
…相変わらず、いい人だな。
後ろの2人とは、大違いだ。
「神格者って生殖能力なくなるんだよね。子孫残す必要がないから」
それはちょっと残――
途中まで考えて、頭を振る。
何を想像してるんだ…
「そろそろ着くよ。近くにしか下ろせなくてすまんね」
「そんな事ないですよ。全然、ありがたかったです」
不法入国は駄目だからな。
「一度やったのに?」
アレは非常時だ。
そう割り切っておこう。
今回の仕事は、ローラス法皇国への訪問…もとい、捜査だ。
名前の通り、法皇の力で統治されている国。
でも、法皇が全てではない。普通に議会も存在する、まさに日本のような国家体制だ。
違う点は、宗教国家であることだが…
内部で汚職や弾圧、更には洗脳など、ろくでもない事をしているらしい。
どこの世界でも、似たようなモノはあるのだ。
しかし、ゲルゼズのように無法地帯ではなく、普通の国家のため、正規の手続きが必要。
だからわざわざ降りて、関所に来たんだが…
通過するのは簡単に行った。
問題はその後。
――何もない。
一面の畑が広がっているだけ。
目印になりそうな建物も、なんなら公共交通機関らしきものすらない。
この道まっすぐって、関所の監視人は言っていたが…
地平線までずーーーっと、道と畑である。
コレは困るぞ…
その時、地上を影が覆った。
雲?いや違う。
その姿に、見覚えがあった。
――ドラゴン。
来て最初に見た、アレと同じ種だろうか。
アレよりも全然強そうだが…
幸い、こっちには気が付かなかったようで、真上を通り過ぎていった。
「こっちに危害加えなくて、よかった…」
先輩が安堵の声を漏らす。
「もし加えてたら、今ごろはあのドラゴン息してなかっただろうね」
怖いこと言わないでください。
ルナなら本当にやりかねないからな…
その時、視界の隅にいたドラゴンが、急降下を開始した。
そして、遠くから聞こえた――悲鳴。
誰かが襲われている!
その答えにたどり着くまで、ほんの0.1秒。
次の瞬間には、走り出していた。
「今の聞こえた!?」
「もちろん。すぐに向かおう!」
「キャー!」
喉からは、情けない悲鳴が出るだけ。
何アレ!?
今は杖も持ってないのに…
ど、どうしよう。
あたふたしても、もうどうにもならない。
ドラゴンの大きな爪が迫る。
もう無理!
神様…助けて下さい。
心から願った。
すると…奇跡は起きた。
何者かによって、攻撃が止められる。
もちろん、我らが白石湊だ。
もう戦い方は知ってる。あの時を再現して――
思い出せ…
"社長"が戦っていたあの姿を。
剣で攻撃を受け止め…
その時、ドラゴンが力を溜めるような動きをする。
まさか…火!?
盾は持ち合わせていないため、自力で避ける事になる。
しかし、斬るために飛ぼうとしたため、回避は不能。
火を斬る…?
「炎華爆発!」
力を貯めきったタイミングで、爆発。
その時、思い知らされた。
僕には仲間がいる。
あの時の再現じゃなくたって…勝てる!
その瞬間から、役割は援護に変わる。
この巨体を相手するなら、爆発攻撃の方が相性がいい。
足下を小刻みに斬る。
切ろうとする――が、絶望的に硬い!
まったく歯が立たない。
それでも、集中を向ける分には十分な威力だった。
ルナも同じように、打撃による陽動をしてくれている。
全ての集中が向いた、その瞬間――
全力の、炎華爆発。
ドラゴンが咆哮を放つ。
それは攻撃ではなく、最後の断末魔だった。




