#70 旅の終わり
「もしかして…玲なの?」
スーパーの袋をぶら下げていた、凄く見たことのある――
シフリスが少し屈んで聞いてくる。
「…玲って、誰ですか?」
そうか、そこからか。
「玲は私のこの世界の名前だ。夜月 玲が元の名」
気付くと、動悸が少し収まっていた。
いや、それより…
「夜月さんですか…?」
一応、本人確認。
「はい…そうですけど」
本当に…そうなのか?
「お母さん…?」
声が、自然に震える。
「やっぱり…玲なのね!」
その声、9年間待ち続けた――
――なんとか耐える。
今じゃない。
「とりやえず入って…」
母さんも困惑気味で言う。
そうして、9年ぶりの"ただいま"を言ったのだ。
チーン…
鉄を叩く冷たい音が響く。
「まさか親父が――」
元気に居ると思ってたのに…
「アナタが消えて、精神的にも追い詰められてたんですって」
私の事なんか、気にしなくても良かったのに…
「帰って来た事、きっと喜んでると思うわ」
確かに、そうだといい。
「ところで――この人は…?」
疑問がシフリスに向く。
「ああ、この人は…」
言葉が止まる。
…なんて説明すれば良いんだ?
出身地が異世界なんて言えない。
「フェイ…ではなく、玲さんの彼女をさせて頂いています。シフリスと申します」
言い出した!
「あら、外人の方?日本語お上手ですね…って、彼女!?」
上手く解釈してくれたようだ。
「アナタ彼女いたの!?いつの間に!?」
質問攻めにされる。
でも、そうだよな…
親に隠し事するのも、良くない気がする。
「全て話すよ。こんな身体なのも全部」
「それって…本当なの…?」
ま、そんな反応になるよな。普通。
「ちょっと信じにくいけど…玲が言うなら、本当なんでしょう」
「これで信じるの…?」
飲み込みがいいってレベルじゃないぞ。
「当たり前じゃない。親が子供の事信じなくてどうするのよ」
その顔は、明るく、母親の心そのもの。
「本当に良かったわ。無事に帰って来てくれて」
嗚呼、神よ。
普段呪った運命を、今だけは祝福しよう。
涙が溢れる。
本当ならもう――なのに、我慢が出来ない。
「泣いていいのよ。今はもう」
その声が、皮切りになる。
その後はもう、泣いてばかりだった。
シフリスにはみっともない姿を――
「みっともなくないですよ。そういう所も全部、フェイタルさんじゃないですか」
当然のように言ってくる。
そこが良いんだよな…
そして、たどり着くはあの公園。
「この辺にゲートを残しといて…って、一般人に見られたら駄目だな」
向こうがバレたら大変なことに――
「なら、"契約の絆"を使いましょう」
契約の絆――スキルの相互使用が可能。
その事をフェイタルは知らなかった。
「貴方にも、ゲートを生成できるようにしました。本当なら誰にも能力を渡したくなかったのですが…貴方ならいいですよ」
「…ありがとう」
もしかしたら今、初めて感謝を――
「帰りましょう。あの世界へ――」




