#68 もう一つの物語
「無事に会えて、良かったですね」
ああ、想定よりも金を使ったが――
元々この世界で過ごす予定も使う予定もないから、こういうので経済を回した方が結果的には良かったのかもしれない。
まあ、あっても使わないのに無いと不安になるのが日本人。
私もまだまだ、向こうに染まりきってないんだな…
ちなみに、今は白石の家に邪魔になっている。
彼曰く、親は帰省しているとの事。
彼は自ら残りたいと言ったようで、親は北海道の端、稚内に行っているとか。
面倒臭いのは分かるが、行ってやれ。
なんて親不孝な――
って、これは自分もか。
勝手に失踪して、親を悲しませて…
9年、だよな。
もう諦めていてもおかしくないぐらいの時間が経った。
それでも、きっと――諦めていないだろうけど。
親の意思――家族にとっては、どんな形になっても帰ってきてほしい。
そうに決まってる。
――行ってみようかな…
もう、あんなに金を消費しなくても、シフリスの時空跳躍で…
駄目だな。私物化してるようだと――
魔力切れと言うのは、一日過ごしたらある程度は回復する。
シフリスも、明日にはきっと大丈夫だろう。
――まさか、この私が人の心配をするようになるとは。
前までは自分のことばかりだったのにな。
変われたな…
「シフリス。この後どうするんだ?」
「私はこのまま帰れますけど…白石さんが来る方法を考えなくてはなりません」
そうだよな。
あそこに住むならまだしも、白石は家族がいる。
「時空跳躍の付与とかはできないのか?」
「全て与えるとなると、なかなかの魔力を消費する上に、異世界に渡る能力が消えます」
そうだ、持ち主を離れると、弱くなるんだった。
「これは既に実証済みです。貴方のせいで」
…
「だったら、"特定の場所に異世界に渡るゲートを生成する"能力を付与したらどうだろう。限定的で消費も最低限に抑えられる」
「…そうですね。それなら行けるかと思います」
「明日にでもやってみよう」
…どうしてこう、二人の会話は難しい物に変わるのだろうか?
もう少し、普通の会話をしてもいいのでは…?
あの潤滑剤が、少しだけ――意外と役に立っていた事に気が付く。
いや、きっと私は…嫌われているだろうから、そもそもそんな話など出来ないか。
事実はどう示そうが変わらない。
仕方の無いことだ。
あと、この場にルナはいない。
もちろん、彼奴と一緒に寝ている。
別に何をしようと勝手だが、羽目を外さないようにだけ気をつけていてくれ。
…寝るか。
特にすることもない上に、このまま起きるのも暇だ。
それに、寝る前ぐらい考え事は減らしたい。
明日のことは、また明日考え――
「今日まで、ありがとうございました」
急に改まってどうしたんだ?
「貴方の手を煩わせただけでなくアフターフォローまで…」
普段しっかりしているシフリスにはちょっと考えられない――
ちょっと変な言葉使い。
「結局、助けられてばっかりでしたね」
そんな事ないと思うけどな…
「結構助かったよ。あいつのこととか色々」
「それなら、よかったですけど…」
…変な時間が過ぎる。
「いいですよ」
――何の返事だ?
「貴方の彼女になっても」
あ、アレ!?
「いや、アレは冗談で…」
「関係ありません。今回凄く尽くして下さったのでそのお礼としてもです」
手を差し出される。
「私と一緒に――歩んでいきませんか?」
残念だが…
「いや、その手を取ることは出来な――」
せっかく話してたのに、言葉を遮られる。
「一番の被害者である私が"良い"と言っているのに、私の被害を更に大きくするつもりですか?」
早口でまくし立てる。
ここで一つ思った。
あれ、コイツ想像より――
「なら、少しでも罪滅ぼしを…いや、貴方がしっかり償うかどうか、私が見ておく必要性すらありそうです」
嗚呼、どんどん話が進んでいく。
「貴方、面倒な事は行わないでしょうし」
図星!
「っていうのもあるんですけど…」
手が離される。
「貴方のその優しさが、全て語ってくれましたよ。ほら」
再び、手が差し出される。
少しためらった後…
手を取る。
「ありがとうございます。これから――
その時、突如として身体が光る。
――神格化を確認。
条件の履行を確認。
リアエンド=フェイタルの、"神格化"を解放します。
…は?
なぜ今。
履行も何も、生贄の話はどこへ――
神格化に付き、能力の神化を実施――
スキル:伝操統術に神化しました。
なぜ!?
私のスキルは消えていたはず…
そうだ、シフリスは!?
不安になる事はなく、変わらずそこにいる。
いや、私と同じように、光っている。
続いて、イシス=シフリスの神格化を確認。
条件の履行を確認。
"神格化"を解放します。
続いて、能力の神化を実施――
スキル:世界超越に神化しました。
…?
疑問ばかり。
ただ、こうして11番目と12番目が生まれた。
新たな神格化は、こうして――
最後に、個体名リアエンド=フェイタルと、リアエンド=シフリスの、共通進化を実行…
まだあったのか、って…あれ?
リアエンド=シフリス?
「そういうことです。これからもお願いしますね」
「お、おう…」
過去を乗り越え新たな物語を作る、とても眩しい目をしていた。




