#65 精霊王
「な、なんですか?人の家に勝手に…」
何も言わずに突き進む。
――殴る。
鈍い音が家に響いた。
「貴様の勝手でどれだけ苦労したか知ってるのか?わざわざここに来てやったのに簡単に――」
記憶がないんだからしょうがない?
ふざけるな。
「そんな事で、アレの気持ちを――」
言葉は、すぐに遮られた。
「入ってきていきなり殴るなんて、暴行罪や住居侵入…」
コイツこんなに面倒臭いヤツだったのか。
言っても聞かないようなので、もう一度殴る。
再び、鈍い音がなった。
殴った場所は胴。
いくら小さい打撃でも、二度も殴られてはたまらない。
今回は響いたようだ。
――気絶してないか?
さすがに死んではないようだが…
「黒幕君?どう落とし前つけてくれるの?」
「黒幕じゃない。フェイタルだ。それに、こいつの自業自得だろう」
「もうちょっと平和的にね…」
あいにく、そんな時間はない。
後2時間ちょっとで、どうにか記憶を…
その時、何かを感知した。
振り返ると、ゲートが閉じてきている。
なぜ!?
想像がついたのは、術者の魔力切れ。
この世界は、外からの魔力供給がない。
なので、魔力は本人に依存したモノになるんだが…
今、閉じようとしている。
考える時間もない。とにかく…
「此花。後は任せた!」
そのすぐに、フェイタルはその場から消えた。
危なかった…
ってシフリスは!?
見ると、そこに倒れている。
息はあるから、抱えて…
って、この身体じゃ無理だな。
下手に動かすと何が起きるか分からないし、寝かしておこう。
離れれないけど…しょうがない。
――――――――――――――――――――――――
「"気絶した人の起こし方"検索っと」
スマホをポチポチ。
頭を心臓より低くして寝かせ、足を少し高くする。
これが良いらしい。
水を飲ませたり、無理に動かしたりするのはNGだとか。
とは言え、黒幕は厄介なものを残して行ったね…
時間もないってのに。
起きるまでどうしようもないから、待つしかないんだけど。
「一分ぐらいで起きるらしいし、待っとこうか」
――――――――――――――――――――――――
「あれ、ここは…?」
真っ白な空間に、気が付くと立っていた。
どこか懐かしい空間。
来たこと…あったっけ?
周囲を見渡しても、何も見つからない。
もしかして…死んだ!?
あんな通り魔にやられて死んだとか、嫌なんだけど。
いや、転生モノのパターンか?
「通り魔に殺された高校生、あの世で再起を図ります〜」
……目新しさゼロだが、やってみたい。
その時、後ろに気配を感じた。
ついに迎えが!
そこには、少し神秘的な美しさの女性が立っていた。
勇者系か?それとも最強系?
さあ来い!
「…私はずっと、君を見ていた」
慈悲をくれるパターンってことか。
「その上で、答えはこうよ」
キィーン――
高い音と共に、物体が現れる。
見た目は黒く細長い。
剣…?
初めて見た。
それをくれるってことか。
すると、剣を向けられた。
まとまった長い髪が揺れる。
あら?
いきなり、切りかかって――
「いきなり何するんですか!」
今日は厄日どころじゃないかもしれない。
いや、そんな悠長な事も言ってられないな。
あの人はきっと――本気だ。
…死んでたまるか!
攻撃を避ける。
「まだ思い出さないのね?なら…」
同時に、四つの魔法陣?が展開。
それぞれが繋がり、一つの円へ…
「原初の力で全てを滅せよ!淵源彗霊!」
剣を高々と掲げる。
あ、マズくね?
本能が、すぐに走れと言う。
足の震えを抑え、動く。
瞬間、"空が光った"
――光線が静かに、そして凶暴なまでに振り注ぐ。
「おい!どうしてこんな事するんだ!」
しかも、何も話さないのだ。
その代わりと言わんばかりに、手を下げる――
「こんなの…どうすれば」
空に、火球が現れた。
それはじわじわと、確実に落ちて来て…
いよいよ、死ぬのか?
その言葉が、現実味を帯びてくる。
「これでもなの?」
また言う。
「さっきから何なんだ!まるで何か忘れたみたいに言って!」
「本当に気がついていないのね。これが最後よ」
もう一つ、剣が生み出される。
白くて、地味な…
「これで頑張りなさい」
そう言って、消えた。
これでどうしろと…?
疑いながら手に持つ。
その瞬間、対処法が思い浮かんだ。
いや、実際に現れる。
"剣を振る"
それしかない。
やっぱり、僕はコレを見たことある。
同じような状況を…
ブンッ!
火球を、空気ごと切り裂く。
まるで…星を割るように。
「うおおおおおおお―――っ!」
剣が光る。
そして、火球は――消えた。
「やっと、思い出したようね」
何処からか声がする。
「後は、好きにするといいわ」
最後に「ルナの事、任せたよ」と言って、声は消えた。
視界が光る。




