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#60 人と和解せよ

暗い描写があります。トラウマのある方は要注意。

はぁ…

あの二人を起こさなければ――

「ほら、起きろ」

声をかけるが、瞼は閉じられたまま。

「置いてくぞ…」

身体を揺さぶるが、まだ起きない。

――コイツら放置してもいいかな?

その途端、ルナが目覚めたのだ。

「…今置いていこうとした?」

鋭い眼光。

「そんなの後だ。降りるぞ」

「もう着いたの?」

「乗り換えだ」

14時37分静岡駅着。

『14時57分発、東京行です。各駅に止まります』

「あと少しですよ〜」

先導者の声。

「この人は誰ですか?」

そうか、シフリスは知らないんだったな。

「白石の事を知っている――というか、同じ学校らしい」

そして、席は空いていないのだった。


15時31分熱海駅着。

来たのは初めてだが、なかなか――

「綺麗な海!最高!」

…このムード破壊メーカーめ。

「先に、チェックイン済ませちゃいましょう」

「熱海って、高級旅館多い気が…」

「そこは、ここですよ」

そう言って、懐をドンと叩く。

つまり、大金を詰めと。

なんて図々しいヤツだ。

まあいい。金ならある。

「行くぞ…」



「なんて美しい部屋…」

料金を提示させられた時は驚いたが、シフリスを唸らせる程の部屋なら、普通か…?

いつものスピーカーはほっといて、もう一つの声――

「流石に綺麗な客室ですね。自分にもお金があればな…」

何故こいつまでここに…?

「自分の部屋は取ってますんで、安心してください」

「なら早く帰れ」

「そんな事言わずに、ちょっと来て下さいよ…」

背中を押され、部屋の外へ。


「いや…話がしたかったんですよ」

「話すことなど、何もない」

「いや、18歳と言う若さで何故そんなに金を持ってるのか、それにその小ささも…」

わざわざ説明することか?

「出会ったのも少しの縁です。お願いしますよ〜」

………

「…分かった。話そう」

「いいんですか!?」

貴様から言ってきたんだろうが。

「まず金を持ってる理由。簡単。バイトしまくった」

「二つ目、小さい理由、分からん。以上」

呆気にとられた顔をしている。

「…それじゃ分かりません」

「そんな事言うな。教えてやったんだから――」

「もっと詳しく言ってくださいよ」

面倒臭いなコイツ…


――――――――――――――――――――――――

「フェイタルさんはどこへ行ったんでしょうか…?」

「気にしなくていいと思うよ。あのバカすぐにいなくなるから」

そんな事を言われても、不安は消えない。

「ちょっと探してきますね」

「何かあったらここ来て」と教えられた部屋番号303。

そこにいればいいんですけど…



ここ?

質素な感じのドア越しに、声が聞こえる。

「ちゃんと教えて下さい」

「面倒臭いんだが…」

フェイタルさんの声と…あの人だ。

「高校生でバイトに時間を費やせるのが不思議なんですよね…」

(なんの話…?)

「重い話だが、それでもいいのか?」

「もちろんです」


――――――――――――――――――――――――

事の始まりは――十年前

高校二年生の頃だった。

「やってやって!」

「マジで似てるって!」

教室が笑い声で埋まる。

そこで、私は言った。

「……本人がいない所でそういうのするの、よくないと思うけど」

数秒、空気が止まった。

「……え?」

「いや、冗談じゃん」

誰かが笑い飛ばす。

きっとその瞬間から、私に対する“面倒なやつ”という認識が生まれたのだろう。

今思い返せば、相当な集まりだった。

――口を開けば他人の影口。

悪ノリ、と言うやつだろう。


「お前また赤点?」

「それ、逆に才能だな」

笑いが起きる。

そんな中、私は小さく眉をひそめた。

「……そんな言い方しなくてもよくない?」

「は?」

「いやだから、普通に嫌だろうし…」

空気が冷えた。

思い出せば、からかわれていた本人ですら苦笑いしていたのだ。

「そんな事ないよ。ただの勉強不足だもの」

「いや、お前はどれだけやっても欠点だろ?」

この空気が、苦手だった。


特に、家庭状況が悪いわけではなかった。

しかし、相談できない自分がいる。

きっと親や周りに迷惑をかけたくなかったのだろう。

何を聞かれても、「なんでもないよ」と答えた。


私には一人、中学校以来の友人がいた。

どんな状況でも、そばにいてくれる――

そう思っていた。

道を歩いていると偶然、そいつに会った。

「何してるの?」

声をかけた。

すると、いつもの雰囲気とは違う。

こちらを拒絶するような目。

「なにか――」

顔に、痣があった。

「ごめん…もう、話しかけないでくれない?」

何をされたか、すぐに理解できた。

その後、走り去ってしまった。


ヒトというのは孤独を恐れ、孤独を作り出す。

矛先が、自分に向かわないように…

その結末は、集団が変われば何処にでも――


気がつけば「周りと合わない」「空気が読めない」だけで孤立していた。

丁度そのタイミングで、高校三年生に進級した。

小さな高校だったから、クラス替えなんてない。

いつも通りの、暗い毎日。

大学受験のプレッシャーなのか、それとも…


いつの間にか、教室に入る前に深呼吸するようになっていた。


――席がない。

典型的だが、心を抉られる。

もう、慣れているつもりだった。

「お前の居場所はない」

誰も言っていないのに、そう聞こえた。


この空間から早く逃げ出したかった。

そのためにバイトをした。

学校での付き合いから逃げていた。

相談すらしていないのに、頼りにならないと決めつけた。

勝手に絶望した。

その事に気がつくのが、遅すぎた。


不登校と言うのは、休んだ側の心だけが苦しめられるモノだ。

言う側は、休んでいることをネタにして話を盛り上げる。

悪気よりノリが全て。


足下には、小さな影が見えた。

左手首の傷跡はもう治らない。

自分の姿がとても小さかった。

もうどうでもいいと思えた。

引き出しには、常にナイフと縄が入っていた。


気がつけば、頼れるのは風だけだった。

躊躇している自分を押してくれる、唯一の――


――――――――――――――――――――――――


息を呑み、無言で立ち去る。

理解できているつもりだった。

あの人の心を。

過去を

しかし、それは私が見たもの以上に遠く、冷たい――

私は、最低だ。

勝手に盗み聞いて、また人の心を…

「シフリス、どうしたの?」

ルナが言う。

「なんでも――ないです」

返事を返す。

あの時のと同じ…

そっか、そうだね。

私と同じだったんじゃない。

私が同じだったんだ。

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