#59 日本旅行、二日目
目が覚めると、そこに――
静寂直後「うわぁ!」
突然の音に、隣で寝ていたシフリスが目を覚ます。
「朝から…なんですか?」
「いや、何でもない…」
"隣で寝ていたから"なんて言えない。
――近かった。
「ふわぁ~もう朝?」
窓から朝日が垂れ込めていた。
時計は、6時4分を指している。
「ホテルを出るぞ。白石の大体の位置が分かった」
「どこなの!?」
身を乗り出して聞いてきた。
図々しいヤツ――
「東京、ここから遠い場所だ」
「えー まだかかるの?」
「贅沢言うな。早く準備しろ」
「ありがとうございました」
深々と礼をし、鍵を返す。
「またのご宿泊をお待ちしております。行ってらっしゃいませ」
――――――――――博多駅――――――――――
プァーン!
軽い豪快な音が響く。
『まもなく、12番線に7時4分発、新大阪行きが到着します。黄色い線(黄色のブロック)の内側まで、お下がりください。この新幹線は、全車両自由席車です』
素晴らしい。
いつ見ても、洗練されたフォルムだ…
見た者全てを惚れさせる先頭車両こそ、日本の叡智の結晶――
「早く乗りますよ」
「お、おう…」
"幸いにも、席が空いている"なんて奇跡は起きない。
しょうがない。地獄を見るか。
7時21分 小倉駅
↓
8時39分 広島駅
そろそろ疲れが――
9時18分 新尾道駅で、遂に限界が来た。
「流石にもう無理――」
その時、衝撃的な光景が目に入っだ。
神格者が、普通に立っているのだ。
(私がアレに負ける――?)
その時、アイツがこっちをみて…
「へっ」
カチン
何かが頭でなった気がした。
起き上がる謎の感情。
湧き出る、負けたくないと言う意思と体力。
まだ行ける。
11時25分、新大阪まで――
ルナが体調管理を使っていて、疲労がほとんど来ない事をフェイタルは知らないのだった――
『本日もご利用下さり、誠にありがとうございました。次は終点、新大阪ー新大阪です。お忘れ物をなさいませんよう、ご注意ください。お出口は――』
やっと、やっとだ…
もう足が…
「降りますよ」
「ねぇねぇ、ご飯どこで食べるの?」
電光掲示板には、12時48分発東京行――
23分だったら弁当だな。
「ちょっとついて来い」
改札を出て向かうは売店。
そう。旅の醍醐味、駅弁だ。
様々な種類があって目移りするが――
王道系の牛弁当とか、海苔とか…
「私は…これだね」
疫病神が選んだのは"高級"と言われる弁当。
値段もバカにならない。
「もっと安いの――」
一つ4000円とか、アホみたいな価格の――
「ここで買わしておけば、好感度も少しは上がるかも知れませんよ」
シフリスが余計な口を挟んでくるが、そもそもアレからの好感度なんか…
いや、せっかくの旅だ。そんなに質素じゃなくても――
葛藤。
「ほら、買ったらどうです?」
シフリスに押され、決心がついた。
「…分かった。買っていいぞ」
「消費税込みで、お会計は10800円になります」
は?
私のは2160円、ってことは――
積まれている駅弁には、高級そうな箱が二つある。
シフリス!?
当人は何かを勝ち取ったような顔。
やりやがったな…
「落ち着いてください」
言われるが…お前のせいだろうが!
声に出す間もなく、メロディが鳴る。
『まもなく、23番線に、東京行が到着します――』
「もう来てる!急ぐぞ」
弁当を持って、走り出す。
最後に聞こえた店員の、「行ってらっしゃい」が、騒がしいホームの中で鮮明に聞こえた。
そう言えば、さっきも…
ああ、きっと――
「席空いててよかったね」
「そうですね。さっきみたいにならなくてよかったです」
「見て!めっちゃ早いよ!」
そんな声が、通路の反対に聞こえる。
やっとあの音響装置から解放されたんだ。
それに、一人旅もいいんだよな…
この至福の時間を味わいつつ、この弁当を食べよう――
「すみませーん。隣いいですか?」
見上げると、そこには高校生と思わしき好青年が立っていた。
「別にいいが、この前の席も空いているだろう。なぜここなんだ?」
わざわざここを狙う理由とは――
「珍しかったからですよ。子供と大学生ニ人の旅の絵面が」
言われてみれば、確かにそうかもしれない。
「今の話し方だと、子供と呼ぶのは似つかわしくないかもしれませんが…」
「それを見抜くとは、高校生の割にはやるな」
「お、厨二病ですか?自分もそうですよ」
この人とは、話が合いそうだ。
「今日はどちらへ?」
「私はアイツらと東京方面へ行くんですけど…」
正直な話、品川でもいいんだが――
「自分もですよ。奇遇ですね」
『次は、京都ー京都です』
アナウンスが響く。
気がつくと、あの二人は寝ていた。
今日も朝早かったからな――
ここで、自分が丸くなっていくことに気が付く。
窓から見える景色なのか、旅の高揚感のお陰なのか分からないが、な。
シフリスのお陰――は、認めたくないな。
まあ、悪くはないだろう。
「青春ですね~窓で黄昏るなんて」
「うるさい…」
「ネタにしていいですか?」
「なんのだ?」
「小説、ですよ。福岡に行ってきたんですが、帰りの話が余っちゃって…」
「…好きにしろ」
小説――
そう言えば"白石は小説家"と言ってたような――
「君のところに"白石 湊"って奴はいるか?」
少し気になった。
「個人情報にも当たる可能性がありますが、いますよ」
ビンゴ!
「高校一年生の?」
「たしかそうですよ」
思わぬ収穫。
「どんな奴だった?」
「特に目立った特徴はなく、新入生らしい人ですよ」
これじゃ分からん。
他に手がかりは…
「此花 葵ってやつは?」
「いますよ。もしかして…部長の知り合いですか?」
アイツ部長なのか?
「いや、そんなものじゃ――」
それに、知り合いじゃない。敵だ。
「自分でよければ、案内しましょうか?」
渡りに船だが、感情を見せずに「任せた」の一言で済ます。
「なら、浜松で乗り換えてもらいますよ」
唐突な言葉に思考が止まる。
「…?」
「スケジュールに合わせていただきたいのです。宿泊代は自分が――」
「違う。どこに泊まるのだ」
即答で、「熱海ですよ」
熱海は知っている。
あの温泉地だが――
「旅の楽しみは旅館でしょう?自分、ずっと楽しみにしてたんですよ」
嗚呼、何故…
当初の予定と大きくずれ、長くなりそうだ。




