#58 日本旅行、一日目
「もうすぐ行きますよ。ほら、準備してください」
「ほらよっ」
シフリスの魔力と、フェイタルの魔力が同調する。
それらは混ざり合い、一つの色へ――
「時空跳躍!」
言うやいなや、ゲートが生成される。
「このゲートであっちに行けるの?」
「もちろんです」
シフリスが胸を張って言う。
「予想通り…ならな」
フェイタルの不安は、興奮しているルナには届かなかった。
「早く行こうよ!」
「はいはい…」
子供に振り回される親のような、小さな声が出た。
一歩、踏み出す。
「この先に――待ってなよ。私の夫」
「うわっ、眩しっ!」
出た瞬間に、陽光が指す。
目を開くと、そこは…
「うわぁ~」
感嘆の声。
街のビル群に、海を越えて鎮座する大きな山。
煙が立っている。
「ここは…?」
シフリスの質問。
「鹿児島だ――っても、分からないよな。簡単に言うと、白石達のところまで程遠い場所だ」
その声を聞いた途端、ルナが吠える。
「なんでこんなとこ出したのさ!」
「ここ以外適当な場所がなかった。ここは私の故郷だ」
「じゃあどうやって行くの?」
「日本は交通網が発達してるから、電車…新幹線を使えば三日で行ける」
「その前に…お金降ろすか。行くぞ」
「どこに?」
「コンビニ」
コンビニは、いつも通りの音に包まれていた。
「休暇預金は十年だったっけ?最後に来たのは…」
ATMに手を伸ばすが…届かない。
そうだ、小さくなってたんだ…
後ろを振り返る。
「誰か、持ち上げてくれない?」
「なら私が」
シフリスがフェイタルを持ち上げる姿は親子そのものに見えた。
「手続きの方法が変わってるとかはやめてくれよ…」
財布からキャッシュカードを取り出す。
幸いにも、そこまで大きく変わってないようだ。
「引き出し金額は…十万円あったら足りるか」
十万円が入金される。
「どこに行くか知ってるの?」
「神格者は知らないのか?」
「だってさっき知ってるって…」
「あれは勘…てことは、どこにいるか誰も知らないのか…?」
――静寂。
これはきっと、そういうことだ。
「分かった。コッチで調べとこう。とりやえず…」
電車だな。
「駅まで行くぞ」
「遠い?」
どうしてこの神格者はこんな事聞くんだ?
「近い」
適当な返事でいいだろう。
「え、満席?」
「予約なしだと、もう今日の便は満席ですよ」
奥にあるカレンダーは、八月十三日を指していた。
「お盆ですか?」
「そうですね。私にはそんなものありませんがね」
駅員から苦笑いが溢れる。
大変だな――
「そうですか…ありがとうございます」
仕方がない。ゆっくり行くか…」
『まもなく4番のりばに9時30分発、普通川内行きが到着します。危険ですから、黄色い点字ブロックの内側までお下がり下さい』
「これに乗るのも、久しぶりだな…」
昔はよく旅行に言ったな…
博多に行くなら、いつもこれに乗る――
「行くよ」
少しは過去に浸らせてくれよ――
思いつつ、変わったなと知った。
景色も、自分も…
―――――――――薩摩川内市―――――――――
今は、10時19分。
13時26分の新八代行まで時間があるな…
その事を話すと、「もっとしっかり考えてよ!」だ。
誰が連れて行ってると思ってるんだ。
「ご飯にしませんか?そろそろ――」
忘れてた。
でも、この辺り飲食店って…
観光案内所が目に入る。
「すみませーん。この辺りに美味しい飲食店ありますか?」
「飲食店ですか。なら…」
ゴソゴソ。
出てきたのは地図だ。
「この辺りとか、どうでしょうか?駅から近い上に和食なので、外国人の方にも…」
そうか、この2人は外国人にも見えるな。
まあ、あながち間違いでもないだろう。
「ありがとうございます」
深く礼をし、向かう。
不安は一つ。
安くあってくれよ…
天ぷらって、和食だっけ?
蕎麦が和食だからいいのか?
蕎麦屋に連れて行かれるとは思わなかったが…
「美味しい!」
感激しているアレの姿があるからいいだろう。
シフリスは落ち着いているな…
でも、気に入ったようだ。
13時26分、川内駅 新八代行普通。
↓
16時14分、新八代駅着。
銀水行普通乗り換え。
↓
18時7分、銀水駅着。
鳥栖行普通乗り換え。
↓
19時13分、鳥栖駅着。
門司港行き快速乗り換え。
「そろそろ休もうよー」
「あともう少しだ、我慢しろ」
座れただけでも幸運だと思え。
って言っても、知らないだろうな…
帰宅ラッシュの恐ろしさを。
みんな目が死んでるんだよ。
しかも今日は木曜日ときた。
『次は、博多です』
「降りるぞ」
19時49分、博多駅到着。
―――――――――福岡市博多区―――――――――
いつ見ても凄い…
流石は国際都市だ。
「どこに泊まるの?」
いい感じの――
安いホテル。
「え、一部屋しか空いてない?」
「この時期はどこも満室で…」
しょうがない、予約してなかった私が…
違う。アイツらが悪い。
その事を伝えると――
「えー まあいいけど…」
「私は全然、構いませんよ」
反応はそれぞれだな。
結局、こうなったと。
夕飯は途中でかったコンビニ飯。
めっちゃ高くなってる…
今200円もするの?
味まで変わってなくてよかった。
「で、こっからどうするのさ」
モグモグしながら聞いてくる。
「まず飯中にしゃべるな。そして自分で思い出せ」
突き放しでもしないと、めんどくさい仕事が――
「それが無理だから聞いてるの!」
「やっぱりその程度だったか…」
少し殺気を感じたので、言い添えておく。
「もしここで私を殺したら、どうやって帰るんだろうねー」
それに気がついたようで、苦渋の表情を浮かべている。
「やっぱりコイツ、腹立つ…」
そんなの気にせず、「はよ寝ろ」の一言。
しぶしぶ布団に入ったらしい。
すると、「ふかふかー!」なんて言い出した。
それにはもう閉口した。
「ここで魔力の反応があったってことは…」
なんでこんな事を私が…
三角図法の要領で位置を特定する。
大体この辺りか。
まさか東京とは…
まぁいい、今日はもう寝よう。




