#57 旅行者
白石達が元の世界に戻って一週間後――
「だ・か・ら!私を向こうに連れて行かしてって言ってるの!」
今日も、ギルドの建物に声が響いていた。
発生元はもちろん、ルナ。
「あそこで美しく別れて終わりの方がいいと思うぞ」
対して"社長"は、冷静に、冷酷ともとれる発言を繰り出していた。
「第一、別の存在が他の世界に渡るのにどれだけ苦労するか知ってるのか?術者に迷惑もかかるし、自分の身体のダメージも無視出来ない上に――」
その時には、もうルナはいなかった。
「はぁ…あの野郎」
"社長"は今日も、一人でため息をつくのだった。
「やっほー!遊びに来たよ~!」
「ドアをこじ開けないで下さい」
ドアは、見るも無残な姿に変貌していた。
流石の怪力に、耐えられなかったのだろう。
「それよりも、私をあっちの世界に送ってよ」
唐突に言われたが、シフリスにはこの神格者が何をしたいか見当がついていた。
その上で、返事は――
「私じゃ無理です」
「えー。なんで無理なの?」
「それは、私の技量不足です」
簡潔に返す。
普通なら、ここで諦めてくれるだろう。
だが、相手はルナだ。
「お願い!そこをなんとか!」
まだまだ食い下がる。
シフリスは、少し考えてから――
「少しだけ、心当たりがあります」
「心当たりって、誰なの?」
歩きながら言う。
「今向かっています。あの黒幕――リアエンド=フェイタルですよ」
「え〜 なんであんな奴を頼るのさ」
いくらファルトが決めてたとは言っても…
「ほかに方法がない上に、結構いい人だったからです」
この一週間の間、シフリスは尋問とも呼べるような質問を繰り返していたのだ。
それで分かったのは、"自分と似ている"と言う事。
不思議と、そこに同族嫌悪は生まれなかった。
「あの世界に行く?やめとけやめとけ。第一、行っても何もないだろ。それに、行ったってたどり着けずに帰ってくるだけだ」
フェイタルの諦めきってるような態度に、ルナは少しだけ苛立っている。
「このクソガキ…」
「一度言いましたが、この人は十八歳です。とてもガキとは――」
「私からみたら十八もガキ!」
即座に言い返す。
フェイタルは、それにも臆せず言葉を続ける。
「出会ったところで、"気まずくなって話しかけれない"が関のや――」
ドンッ
拳は、フェイタルの真横を通って壁にぶつかる。
神格化まで解除していた。
「あなたは、私達を向こう側に連れて行くだけでいいの。解答権も拒否権もない」
どっちが黒幕か分からないような発言を出している。
そんな姿を見て、フェイタルは――
「…分かった。連れて行く」
ルナの顔が明るくなる。
「ただし、私が一緒に行く」
すぐに曇った。
「それはなぜでしょうか?」
「簡単。向こうは金がなければ動くことすらままならないからだ」
「魔法使えばいいじゃん」
「下手に使ったら捕まって研究室送りにされるけど、それでもいいんだな」
少しの威圧と、大多数の事実が混じっていた。
「それに、向こうは法律社会だ。普段みたいに暴れ回ったら――きっと、刑務所行だ」
「そんなの、気をつければいいだけのことじゃん」
「あと、帰りどうするんだ?」
「あ…」
ルナ、遂に陥落。
「…分かったよ。ついてきていい。だけど、私やシフリスにまた変な事しようとしたら――」
声音が変わる。
「その場で潰す」
「分かった。それは保証する」
こうして、日本に行くメンバーが決まったのだった。




