#56 帰宅
チュン、チュン――
窓の外で、小さくスズメが鳴く。
少し、枕元が湿っていた。
自分が、泣いていた事に気がつく
でも、なんで――
「早く着替えて学校行っちゃいなさい」
下の階から声がした。
「今日なんか凄い夢見たんだよね」
「口にご飯入れたまま話さないでよ」
母の注意。
「あ、ごめん」
なぜか、他愛もないこんな会話も懐かしく感じる。
いつも通りなのになんで…?
「で、どんな話だったの?」
「転生?したら世界の危機を救う…?なんか違うな…まあそんな感じの」
「まだ厨二病拗らせてるのね。早く治しちゃいなさい。もう高校生でしょ」
高校生になっていきなり人が変わる訳じゃないんだけどな…
「ところで、遅刻じゃないの?」
スマホを立ち上げると時刻:七時三十二分が目に映る。
遅刻だ!
慌てて荷物をまとめ、家を出る。
「言ってきます!」
最寄りの西葛西駅まで走れば5分。
まだ間に合う!
七時四十一分発の電車へ――
《ポーン》
音とともに改札が閉じる。
『もう一度かざしてください』
ああ!急いでるのに…
『まもなく、二番線に各駅停車三鷹行きが参ります。黄色いブロックの内側でお待ちください』
七時五十三分、門前仲町着。
八時一分発各駅停車両国・春日方面行に乗り換えだ。
――駅校内を走っていたら、角から誰か出てくる気がした。
身構えるが…誰もいない。
「何だったんだ…?」
八時七分、両国に到着。
十九分発の西船橋行に乗り換えだ。
この時点で、遅刻確定演出が視界に映る。
「終わった…」
二十九分、新小岩に到着。
学校についたのは、四十分の手前だった。
重い教室の扉を開ける。
「おはようございます…」
「二十分の遅刻。理由は?」
「寝坊です」
教室が笑いに包まれた。
「減点な」
仕方ない。
席に座って、後ろのやつに話しかける。
「今日すっごい夢を見たんだよね~」
「それで遅刻したと」
「黙れい!とにかくすごかったの!」
「どんなの?」
「えっと――」
あれ?どんなんだっけ?
「…忘れた」
「忘れたんかい!」
まぁ、夢だもんね。
「それより、夏休み何かする?」
あ、もうすぐ夏休みだ。
七月の放課後、遠くの蝉の音が心地よい。
「今日は進捗度を報告してもらおう。とはいえ、夏休みはまだだから、出来てなくてもいい」
なんかいい話あるかな…
ラノベ?恋愛?
先輩達は、みんな話が決まってるようだ。
『福岡に行ってきます!』
なんて言う人もいる。
何にしようかな。
「遠出をする人は気を付けて行くように」
それで、部活が終わった。
「白石君は残ってね」
またか…
いつもの下校ルート。
新小岩までの少しの距離。
「書きたいことは決まった?」
「いや、全然です」
「ふ~ん。まあゆっくり決めればいいよ」
路地に入る。
前回も通った道。
何も変わらない――はずなのに何故か、心を悲しみが襲った。
なんだったんだ…?
「あ、そうだ。そのために今日は家までついていくよ」
「電車だと結構遠いですよ。歩いたほうが近いまであります」
「別にいいよ。お金ならあるし」
お札で顔を仰いでいる。
――全部1000円札だけど。
「なるほど…ここね。結構いい場所じゃないの」
そうなのか?
「達成したからもう帰るね」
あ、もう帰るの。
嵐のように過ぎていった。
「ただいまー」
家のドアを開ける。
返事は無い。
親が仕事だからだ。
机に向かい、ため息をつく。
「…何にしようかな」
「ただいまー」
制服姿のまま、ベッドに直行。
(これが一番気持ちいいんだよね…)
親に止められてるけどね。
寝そべっていたら、メモ帳が目に入る。
こんなのあったっけ?
中を開くと――




