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幕間 収穫祭

柔らかな陽光。

風に揺れる旗。

屋台から漂う甘い匂い。

「……平和だなぁ」

白石が、ぽつりと呟く。

「それ、さっきから三回目」

先輩が、苦笑する。

「いやだってさ……ここ、本当にあの騒動の後か?」

ゼルティアでの戦いが、嘘のよう。

「場所が違えば、こんなもんでしょ」

軽く言う先輩。

「あ、もしかして…戦ってないと落ち着かないタイプ?」

「それはそれで嫌だな……」

苦笑。

その時――

「おーい!」

手を振りながら走ってくる少女がいた。

ルナだ。

「遅いよ二人とも!」

「いや、そっちが早いんだよ……」

「だって気になるじゃん!お祭りみたいなのやってるし!」

確かに、広場は賑わっている。

「ユラリアは今日、収穫祭らしいですよ」

後ろから、落ち着いた声。

振り向くと――

「シフリス!」

「お久しぶりです」

軽く頭を下げる。

相変わらず、整った所作。

「なんか……安心するな」

白石が呟く。

「どういう意味ですか、それ」

少しだけ、眉をひそめるシフリス。

「いや、まともな人がいるっていうか……」

「私たちがまともじゃないみたいな言い方やめてくれる?」

即座に先輩がツッコむ。

「え、違うの?」

「違うよ!?」

ルナも混ざって、軽く騒がしくなる。

でもよかった。最近はシフリスも感情が出てきたようだ。

――その空気を割るように。

「全員揃っているな」

低く、通る声。

振り向く。

そこにいたのは――

社長。

「急に現れるな……」

白石が小さく呟く。

「無駄な移動を省いただけだ」

淡々と返す。

「で、今日は何の用?」

先輩が腕を組む。

「用、というほどのものではない」

社長は、周囲を一瞥する。

賑わう人々。

笑い声。

穏やかな空気。

「……確認だ」

「確認?」

「お前たちが“守ったもの”が、ちゃんと残っているかどうか」

少しだけ、間。

ルナが、ふっと笑う。

「残ってるじゃん」

くるりと、その場で回る。

「ほら、こんなに」

子供が走り回り、屋台の人が笑い、誰かが誰かを呼ぶ声。

「……ああ」

社長は、短く頷いた。

「ならいい」

それだけ言って――

「帰るぞ」

「は!?早くない!?」

ルナが即ツッコミ。

「仕事がある」

「絶対今来る必要なかったでしょ!」

「必要だった」

即答。

「確認は済んだ」

「合理主義すぎるでしょ……」

呆れた。

そのやり取りを見て――

シフリスが、少しだけ微笑む。

「変わりませんね、皆さん」

「そっちはどうなの」

白石が聞く。

「ユラリアは」

「ええ」

静かに頷く。

「平和です」

その言葉は、軽くない。

ちゃんと“守られた側”の言葉だった。

少しだけ、沈黙。

でも――

重くはならない。

「じゃ、せっかくだし回ろうよ!」

ルナが手を叩く。

「食べ歩き!」

「お前それ目的だろ……」

「当然!」

「清々しいな……」

先輩が笑う。

「付き合ってあげるよ」

「やった!」

ルナが白石の腕を引く。

「ほら行こ!」

「引っ張るなって……!」

騒がしく、歩き出す。

その後ろで――

シフリスが、小さく呟く。

「……本当に、守ったんですね」

誰にも聞こえない声。

けれど。

その目は、確かにそれを認めていた。

――そして。

遠く、広場の端。

一瞬だけ。

“誰か”が、こちらを見ていた気がした。

気のせいかもしれない。

でも――

白石は、ほんの少しだけ立ち止まる。

「……どうしたの?」

先輩が振り返る。

「いや……なんでもない」

首を振る。

「ほら、行くぞ」

「じゃあまずは美味しいとこで!」

ルナが食い気全開。

「予想通りだね」

先輩が笑う。

「こちらです」

シフリスが先導する。

慣れた足取り。

「……なんかガイドさんみたいだな」

「職務の延長のようなものですので」

少しだけ微笑む。

――最初に立ち寄ったのは、焼き菓子の屋台。

「わぁ……!」

ルナの目が輝く。

「全部美味しそう……」

「全部は無理だからな?」

「え〜」

「一つずつね」

先輩が財布を出す。

「はい、これ」

「え、いいの!?」

「いいよ、その代わり感想ちゃんと言ってね」

「任せて!」

一口。

「……ん〜〜〜!!」

大げさに感動するルナ。

「おいしい!!」

「それは良かった」

先輩が笑う。

「ほら、白石君も」

差し出される。

「え、俺も?」

「いいから食べて」

半ば強制。

「……うま」

素直な感想。

「でしょ!」

なぜかルナがドヤ顔。

「お前が作ったわけじゃないだろ」

「気分だよ気分!」

そのやり取りに、シフリスが小さく笑う。

「賑やかですね」

「いつもこんな感じだよ」

先輩が肩をすくめる。

「退屈しなさそうで、いいですね」

少しだけ、羨ましそうに。

その後も――

射的。

輪投げ。

小さな出店を回っていく。

「それっ!」

「お、入った!」

「やったー!」

ルナが無邪気にはしゃぐ。

「完全に子供だな……」

白石が呟く。

「いいじゃん、それで」

先輩が言う。

「こういう時くらい」

少しだけ、優しく。

その言葉に――

先輩が、少しだけ目を細める。

シフリスも、静かに見つめる。

「……ええ」

小さく、頷く。

夕暮れ。

空が、橙色に染まる。

一日が、終わっていく。

「楽しかった〜!」

ルナが大きく伸びをする。

「満足したか?」

「うん!」

即答。

「じゃあ来てよかったね」

先輩が笑う。

白石も、少しだけ空を見上げる。

「……ああ」

静かに。

「こういうの、悪くないな」

誰も傷つかない時間。

ただ、笑っていられる時間。

それを――

ちゃんと、大事にしたいと思えた。

「また来ようよ」

ルナが言う。

「今度はもっとゆっくり」

「いいね」

先輩が頷く。

シフリスも、微笑む。

風が、優しく吹く。

――その日。

彼らは、ただ普通に過ごした。

戦いも、使命も、全部忘れて。

それが、守りたかったものだった。

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