#35 ゼルティア戦争 激戦区域
―――――――中央館一階・応接室前―――――――
ラセルフ
静まり返った廊下。
その中心に――一人の男が立っていた。
「遅かったな」
振り返りもせず、言う。
「待っていた」
足音。
二つ。
ルナと、リゼリア。
「……貴方が、ラセルフ=ケーセね」
リゼリアが言う。
「そうだ」
ようやく、振り返る。
その目に、迷いはない。
「そして――この都市を“正しく導く者”だ」
「正しく、ね」
ルナが、冷たく返す。
「人を操って?」
「必要な犠牲だ」
即答。
一切の躊躇がない。
「この都市は、歪んでいる」
一歩、前へ。
「才能ある者に依存し、偶然に守られる世界」
「だから私は――」
手を広げる。
「“確実な支配”へと変える」
空気が、重くなる。
「全てを管理し、全てを制御する」
「それが――真の平和だ」
沈黙。
数秒。
「……バカじゃないの?」
ルナが、吐き捨てる。
「感情を捨てた時点で、それはもう“人間”じゃない」
「感情こそが、争いの火種だ」
「違うね」
即座に否定。
「感情があるから、守るって選べるんだよ」
ルナの声が、わずかに強くなる。
「貴方のそれは――」
一歩、踏み出す。
「“逃げ”だ」
ピタッ
空気が止まる。
ラセルフの目が、細くなる。
「……面白いことを言う」
「事実でしょ」
横から、リゼリア。
「制御できないから、全部縛る…?」
「それで平和?冗談もほどほどにしてほしいですわ」
「では問おう」
ラセルフの声が、低くなる。
「お前たちは、守りきれるのか?」
「この一万人を」
「この都市を」
「この世界を」
言葉が、突き刺さる。
「感情などという不確定要素で」
「……」
一瞬の沈黙。
だが――
「守るよ」
ルナが、言う。
迷いなく。
「全部は無理かもしれない」
「でも――」
力が、溢れる。
白い光が、強まる。
「目の前にいる人ぐらいは、絶対に守る」
リゼリアも、続く。
「それが出来るから、ここにいるのよ」
静かに。
だが、確信を持って。
「……なるほど」
ラセルフが、剣を抜く。
「ならば――証明してみせろ」
一瞬。
気配が消える。
次の瞬間――
「っ!!」
ガキィン!!
リゼリアの機械が、斬撃を受け止める。
速い。
見えなかった。
「空間転移……?」
「違う」
ラセルフが、背後に現れる。
「“最適化”だ」
再び斬撃。
ルナが、空間ごと押し潰す。
ドォン!!
床が砕ける。
だが――
「効かないか」
ラセルフは、無傷。
「力は強い…だが、粗い!」
次の瞬間。
ルナの視界から、消える。
「ルナ!」
リゼリアの声。
直後――
バンッ!!
ルナが、吹き飛ばされる。
壁に激突。
「くっ……!」
初めての、被弾。
「“神格化”か」
ラセルフが、淡々と分析する。
「空想の産物だと思っていたが、確かに脅威だ」
「だが――」
剣を構える。
「制御が甘いな」
ルナが、ゆっくりと立ち上がる。
目が、完全に光る。
「ここからが――本気」
空気が、歪む。
重力が、暴れる。
リゼリアが、小さく笑う。
「ようやくね」
十二対の機械が、再び展開。
「共闘は好きじゃないけど――」
ルナの隣に立つ。
「今回だけは特別よ」
「奇遇だね」
ルナも、構える。
「私も」
ラセルフが、静かに構える。
「いいだろう」
空気が、張り詰める。
三つの“頂点”。
ぶつかる直前――
「来い」
その一言で。
戦いは、最終局面へ突入する。
―――――――――西部第二区画―――――――――
パァン
「これで17人目♪~(´ε`)」
よかった。
いつものイリスだ。
「あんまり調子に乗らないでね。それと、倒したらダメだよ」
「分かってるって〜」
そう、イリスは刻印だけを撃ち抜いている。
スキルで補正しているとはいえ、さすがの神業だ。
「まさか私の情報収集にこんな使い方があるなんてね。私って最強かも?₍₍ (ง* ॑꒳ ॑*)ว ⁾⁾」
やっぱり、調子に乗っている。
「ほら、また来てるよ」
「分かってるって」
振り返らずに撃つ。
外さないと分かっていても…
ヒヤヒヤする撃ち方だ。
「おっと?アレは君の担当じゃない?」
武装兵と呼ぶのだろう。
大量にいる。
もちろん、銃は通らない。
「OK!ちょっと離れてて…」
カルナから学んだ技――
「炎華爆発!」
叫ぶ。
武装兵一師団が壊滅した。
――一撃で。
こんな難しい魔法を――
カルナは凄いな…
煙が、ゆっくりと晴れていく。
砕けた地面。
崩れた外壁。
そして、倒れ伏す武装兵たち。
「これは…やっちゃった」
イリスが、珍しく気まずそうに笑う。
「死んではいないけど……やりすぎだよね、これ」
「……そうだね」
葵は、少しだけ苦笑する。
でも――責める気にはなれなかった。
(この人は……ちゃんと“守ろう”としてる)
それが、分かるから。
イリスが、ぽつりと呟く。
「さっきの……ありがと」
「え?」
少し意外で、間の抜けた声が出る。
「ほら、教室でさ」
ああ――
「……止めてくれたでしょ」
視線が、ほんの少しだけ逸れる。
「正直……あのままだったら、私……」
言葉が、途切れる。
「……戻れなかった気がする」
珍しく、弱い声。
いつもの軽さが、消えていた。
「そんなこと――」
「あるよ」
遮る。
でも、優しい声で。
「分かるの。今なら」
少しだけ笑う。
今度は、無理してない笑顔だった。
「だから……助けてくれて、ありがと」
沈黙。
少しだけ、風が吹く。
瓦礫の間を抜けていく。
「……お礼なんて、いいよ」
葵は、軽く肩をすくめる。
「仲間なんだから」
その一言。
イリスの目が、少しだけ見開かれる。
「……仲間」
小さく、繰り返す。
そして――
「そうだね…私の心を救ったのも…そして奪ったのも…」
うん?奪った?
不吉な言葉が聞こえた気がするが…
「親愛なる人♡」
「な、なんで!?」
「直感で分かったんだ。この人が運命の人だってこと」
二人の間に、百合の花が咲いたのだった。
―――――――――――校庭―――――――――――
「よかった。合流できた。早速だけど――」
「待て待て待て!」
本題に入ろうとすると、止められた。
「こっちは今まで一人でありったけ――」
周囲は、寝ている人だらけだ。
「ああ…それでも、行かなきゃいけないんだ」
真剣。
ガルドもマジの顔になった。
「センターベースの件か?」
理解していた。
これは話が早い。
「そうそう。そこに救援に行かなきゃ」
ガルドは少し考えて
「そうだな。そっちの方が大事だ」
――――――――センターベース――――――――
「人間の侵攻には弱いなんて…」
「そりゃそうでしょう。もともとあの巨人用ですから」
状況は、悪い。
第二層までの侵入を許してしまった。
『ヴェル…センター…に行き…ですが…どうすれば…ますか?』
来ようとしている。
「ダクトを使ってきて。普通に入ると…死ぬわよ」
遠くで「ダクト!?」と聞こえたが、無視だ。
「どうするんです?このままだとまずいですよ」
少しづつ、押されている。
「耐えるしか…ないわね」
耐えてさえいれば、いつかは終わるのだ。
(お願い…早く倒して)
―――――――中央館一階・応接室前―――――――
空気が、裂ける。
最初に動いたのは――ラセルフ。
消える。
いや、視認できない速度で“最適な位置”へ移動した。
「遅い」
背後。
斬撃。
だが――
ガキィン!!
十二対の機械が、寸分の狂いもなく挟み込む。
「……読んでいたか」
「いいえ」
リゼリアは、淡々と答える。
「“全部”止めただけですわ」
ズンッ
空間が沈む。
重力ではない。
“干渉”そのもの。
ラセルフの動きが、一瞬だけ鈍る。
その隙に――
「はぁっ!!」
ルナが、踏み込む。
拳。
だがそれはただの打撃ではない。
“存在そのもの”を押し潰す圧。
ドォン!!
直撃。
床が、半径数十メートルごと沈む。
「……浅いな」
煙の中から、ラセルフの声。
無傷。
「やっぱ硬いね」
ルナが、舌打ちする。
「硬い、ではない」
ラセルフが現れる。
今度は正面。
「“最適化”だ」
剣を構える。
「私のスキル――最適解道」
「攻撃が来る前に、防御は完了している」
一閃。
速い。
だが――
「丁寧な自己紹介ありがと。でも――見えてるよ」
ルナの目が、強く光る。
世界が、遅くなる。
神格化による感覚拡張。
ギリギリで回避。
だが――
「甘い」
二撃目。
見えない角度から。
「っ……!」
血が、舞う。
浅いが、確実に当ててくる。
(完全に……読まれてる)
“最適解”を選び続けている。
「厄介ね」
リゼリアが、小さく呟く。
「なら――」
指を鳴らす。
十二対の機械が、円環状に展開。
「選択肢ごと、潰す」
空間が、歪む。
重力、電磁気、核力――
全てが混ざり合う。
万力統一、発動。
ラセルフの周囲。
“可能性”そのものが押し潰される。
「……なるほど」
初めて。
ラセルフの足が止まる。
「これは……“最適化”の外か」
「そういうこと」
リゼリアが、冷たく言う。
「貴方の理論は、“計算できる範囲”でしか成立しない」
次の瞬間――
二人、同時に動く。
リゼリアが“場”を固定する。
ルナが“一点”を破壊する。
完全な連携。
逃げ場は、ない。
ドォォォォン!!!
直撃。
床、壁、天井。
すべてが崩壊する。
少しの静寂。
「……終わった?」
ルナが、息を吐く。
だが――
「いや」
リゼリアが、目を細める。
「まだよ」
煙の奥。
立っている。
ラセルフ。
だが――
無傷ではない。
服は裂け、肩から血が流れている。
初めての“ダメージ”。
「……素晴らしい」
静かに言う。
「ここまで到達するとはな」
剣を、構え直す。
だがその目は――
少しだけ、変わっていた。
「だが――まだ足りない」
その瞬間。
ドクンッ
空気が、脈打つ。
「なに……?」
ルナが、眉をひそめる。
ラセルフの背後。
黒い“何か”が、滲み出す。
「まさか……」
リゼリアが、呟く。
「貴方も……」
ラセルフが、笑う。
初めて。
「保険は、かけてある」
空間が、歪む。
重く、濁った力。
「人の力で足りないなら――」
ゆっくりと、顔を上げる。
「“それ以外”を使えばいい」
ドクンッ!!
黒い圧が、爆発する。
神格とは違う。
歪んだ、“擬似的な到達”。
「これが……私の答えだ」
ルナが、構える。
リゼリアも、機械を展開。
だが――
二人とも、理解していた。
(ここからが――本番)
――その時。
《ザー……ザー……》
通信に、ノイズ。
『こちら……センター……ベース……』
ヴェルナの声。
『侵入……第三層……もう……』
途切れる。
「……やばいね」
ルナが、小さく言う。
「時間がないわね」
リゼリアも、短く。
ラセルフが、構える。
「選べ」
低い声。
「ここで私を倒すか――」
一歩、踏み出す。
「守るべきものを、失うか」
沈黙。
そして――
ルナが、笑った。
「両方やるに決まってるでしょ」
リゼリアも、肩をすくめる。
「欲張りなのは、嫌いじゃないですわ」
三者、再び激突。
戦いは――
決着”へ。




