#34 ゼルティア戦争 中央戦線
―――――――――――校庭―――――――――――
ガルド
「チッ」
終わりがない。
ゼルティア学園の全校生徒は一万人
それらを"殺さず"無力化するのは――
さすがに、非現実的だ。
早く元凶を倒さないと行けないのに…
たどり着けない。
パァン
銃弾が飛ぶ。
ハンマーで受けるが、手に震えが出てきた。
疲れ、
絶望感。
(勝てるのか――?)
その時、西館に光が現れた。
何かが…変わった。
―――――――西館四階二年一組前―――――――
崩れ落ちた生徒たち。
荒い呼吸。
張り詰めた空気の中で――
先輩は、ゆっくりとイリスへ歩み寄る。
「……もうやめよう」
優しく、声をかける。
「君はこんなことしたいわけじゃないでしょ」
イリスの手が、震える。
銃口は、まだこちらを向いている。
「……うるさい」
小さく、呟く。
「私は……助けるために……」
「分かってる」
即答。
「だから止めに来たんだよ」
一歩、近づく。
「その方法が間違ってるって」
沈黙。
その時――
《ドォン……》
空気が、揺れた。
遅れて――
圧。
窓ガラスが――ミシミシと軋む。
天井の蛍光灯が、割れる。
「この感覚……」
リゼリアが顔を上げる。
知っている。
いや、“同類”のそれだ。
「……来たわね」
――次の瞬間。
バキィン!!
外壁が、内側から弾け飛んだ。
粉塵。
風圧。
そして、その中心に――
一人の少女。
白く、淡く光を纏った存在。
「……見つけた」
ルナだった。
だが、いつもの彼女ではない。
瞳は、淡く発光している。
足は地面に触れていない。
翼らしきものまで…
「ルナ……」
先輩が、息を呑む。
「あーあ。天井壊してるじゃん」
「仕方がないでしょう?最も早くたどり着ける方法よ」
本当はそんな事思っても無いくせに…
「それに貴方も壁、壊したじゃない」
ルナは答えない。
「で、どうするつもり?」
軽く聞くが、どうしょうもないだろう。
"神格化の圧"とも言える力で拘束されているのだ。
手加減していないから、私の重力より重い。
うん?――力?
「万力統一――」
軽く呟く。
イリスの態勢が和らぐ。
「はぁ……っ……!」
呼吸を取り戻す。
ルナは、静かに言った。
「何するのさ…」
「これは…私達の戦いよ」
冷静に言うが、その奥には怒りとも言える感情が互いにあった。
頂上同士の圧。
「はぁ…」
ため息をついたのは、ルナ。
「でも――」
少しだけ、声に感情が戻る。
「私の夫を危険に晒さないでよね。
もしそうなったら――すぐやるから」
物騒。
だけど、それがルナだ。
「うん。それでいい」
先輩は笑う。
そして――
改めて、イリスに向き直る。
「……話そうか」
戦いは終わっていない。
「ねえ、イリス」
一歩、踏み出す。
「それ、本当に“正しい”と思ってやってるの?」
「……っ」
一瞬、引き金にかけた指が止まる。
だが――
「当たり前でしょ!!」
パァンッ!!
銃声。
先輩は体を捻り、ギリギリで回避する。
「私は……“救う”ためにやってるの!!」
連射。
「私が止めるしかないの!!」
手はロケットランチャーへと――
「まずい!」
止めようとするが、間に合わない――
ドォーン
「先輩!」
服は焦げているが、無傷。
「……やっぱ強いね、私」
視線をまっすぐ向ける。
「その“誰かに言われた正義”、もうやめなよ」
「っ!!」
イリスの表情が歪む。
「違う!!これは……私が選んだ――」
「じゃあ質問」
被せるように言う。
「その装置、誰に渡されたの?」
「……」
止まる。
「誰が“私が操られてる”って言ったの?」
「それは……」
言葉が出ない。
「ほらね」
一歩、詰める。
「全部、他人の言葉じゃん」
「それで救えるの?」
「救えるよ!!」
「じゃあなんで――泣いてるの?」
――止まる。
完全に。
「……え?」
イリスが、自分の頬に触れる。
濡れている。
「なんで……私……」
その瞬間――
スキが生まれた。
先輩は、一気に踏み込む。
「ごめん」
バンッ!!
「うわぁ〜」
ルナが引いている。
平手打ち。
「っ!?」
距離ゼロ。
目と目が合う。
「もう終わりにしよ」
優しく言う。
「私たち、敵じゃない」
手を伸ばす。
「だから――」
その時。
ピタッ
空気が、凍る。
「……え?」
先輩の動きが止まる。
見えない“何か”に拘束されたように。
「そのまま動かないでください」
背後から、低い声。
振り返る――
そこにいたのは。
黒い装束。
統一された無機質な動き。
「――黒死無双」
イリスが、震える声で呟く。
「対象確認。戦略部関係者、及び関係疑い者」
数十の銃口が、一斉に向けられる。
「排除を開始します」
「……最悪のタイミングだね」
先輩が苦笑する。
だが、その目はまだ折れていない。
(でも――)
チラッと、イリスを見る。
(止まった)
さっきまでの狂気は、消えている。
迷いが戻っている。
なら――
「イリス」
小さく呼ぶ。
「今度は、自分で選びな」
静かに言う。
「撃つか――守るか」
一瞬の沈黙。
そして。
イリスは、震える手で――
落ちた銃ではなく、
先輩の手を――
掴んだ。
「……守る」
その言葉と同時に――
「総員、撃て!」
銃声が鳴り響いた。
だが――
「甘いわね」
低く、冷たい声。
ズンッ
空間そのものが沈む。
発射された銃弾が、途中で“止まった”。
「これが…万力統一の…本質なのね」
元の世界では"一般相対性理論"と呼ばれている、重力と時間の関係。
重力が重いほど…時間も遅くなる。
なら、重力を限りなく"無限"に近づけたら?
答えは…止まったように見える。
もう一つ、これは、未完成の法則。
"超大統一理論"
これをスキルにより補正、修整し、重力以外の三つ
・電磁気力
・強い力
・弱い力
をも扱えるようになる、文字通りの"混沌"。
それが、リゼリアの、万力統一だった。
黒死無双の隊員たちが、一斉に動揺する。
「私の前で、好き勝手やってくれるじゃない」
リゼリアが、一歩前に出る。
その背後。
十二の機械が、静かに展開されていた。
先ほどとは違う。
無駄がない。
完全に“制御された力”。
「先輩、下がりなさい」
「……任せるよ」
先輩は、イリスを庇うように一歩引く。
「リゼリア」
「なに?」
「生かすわよね?」
一瞬。
沈黙。
そして――
「当然でしょ」
即答。
「私の能力は――」
小さく、呟く。
「命を守るモノよ」
その言葉と同時に。
機械が、一斉に展開。
精密な制御で、黒死無双全員の武装を破壊する。
原子レベルの"崩壊"
「一人だったら…出来なかったわね」
隣にアルクがいるから、出来た技。
完全無力化。
戦闘終了。
――いや。
“第一段階”の終了。
静寂が、戻る。
その中で――
イリスが、ぽつりと呟いた。
「少なくない…?」
その一言で、空気が変わった。
「……確かに」
先輩が周囲を見渡す。
拘束された黒死無双は数十。
だが――
「戦力としては……軽すぎる」
リゼリアが、眉をわずかに寄せる。
あのラセルフが、これだけで終わるはずがない。
「まさか……」
ルナが、小さく呟いた。
その瞬間――
ドォォン!!
重い爆発音。
床が揺れる。
天井から、パラパラと埃が落ちる。
「今のは……中央館!?」
先輩が振り向く。
「一階……応接室の方向ね」
リゼリアの声が低くなる。
理解した。
「……やられたわね」
囮。
ここで戦力を引きつけ――
本命を、別で叩く。
「揺動……!」
ルナの表情が険しくなる。
「でも、何を狙ってるの……?」
イリスが不安げに呟く。
その時――
ピロン
通信。
『センターベースより各員へ』
ヴェルナの声。
だが――
わずかに、ノイズが混じっている。
『中央館一階にて……大規模なエネルギー反応を確認……!』
「エネルギー反応……?」
『これは……巨人じゃない……別種……』
一瞬の間。
そして――
『今回の一連の現象、その発生源よ』
空気が凍る。
「つまり……」
リゼリアが呟く。
「“本体”が、出てきたってことね」
『そういうこと』
短い肯定。
『それと――』
ノイズが強くなる。
『中央館の封鎖システムが起動……内部からロックされてる……!』
「は?」
「誰がそんなこと……」
『恐らく――ラセルフ』
その名前が出た瞬間。
全員の意識が、一点に集まる。
「やっぱり……」
先輩が小さく息を吐く。
「最初から……全部、仕組まれてたんだ」
イリスが、震える声で言う。
「私も……使われてた……」
「違う」
即座に否定。
「でも――」
「でもじゃない」
はっきりと言い切る。
「今、自分で選んだでしょ」
その言葉に、イリスは黙る。
そして――
小さく、頷いた。
「……うん」
その時。
ルナが、前に出る。
「行くよ」
短い一言。
迷いがない。
「中央館」
リゼリアも、続く。
「ええ。本命を叩く」
だが――
先輩が、手を上げて止める。
「全員で行くのは危険だ」
「どういうこと?」
「相手はたぶん、今までで一番強い」
一呼吸。
「ここは――分けよう」
視線を巡らせる。
「ルナとリゼリアで中央館に突入」
「私は?」
「私とイリスで残党の無力化」
イリスが、驚く。
「私……も?」
「当然」
軽く笑う。
「責任、取ってもらうよ」
「……はい」
しっかりとした声。
もう、迷いはない。
「いい判断ね」
リゼリアが頷く。
「時間はかけられないわ」
「うん」
ルナが、静かに浮かび上がる。
「一瞬で終わらせる」
その言葉に――
誰も、否定しなかった。
「じゃあ――」
先輩が、拳を握る。
「行こうか」
戦いは、最終局面へ。




