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#33 ゼルティア戦争 西部戦線

――――――西館四階、高等部二年一組――――――

銃声。

「危ない!」

咄嗟に身体を捻る。

頬をかすめる熱。

「どうにかならない?」

先輩の声。

焦りが滲んでいる。

……正面からは無理だ。

イリスは両手に銃。

さらにポケットに四丁、背中にはライフル――

そして。

ロケットランチャー。

(冗談だろ……)

あれが撃たれれば、教室ごと消し飛ぶ。

カルナとの戦いが脳裏をよぎる。

炎華爆発(エクスプロージョン)並み――いや、それ以上。

撃たせるわけにはいかない。

「外で戦おう。避難は終わってる」

短く言う。

「OK!」

迷いはない。

廊下を駆け抜け、外へ飛び出す。

静寂。

人の気配はない。

(ここなら……)

角に身を潜める。

「これで少しは時間が――」

「ねえ」

先輩が小声で言う。

「どうやって誤解を解くのさ。完全に敵認定されてるよ、アレ」

「……対話しかない」

自分でも無茶だと思う。

「銃構えた相手と?」

返せない。

――その時。

足音。

「シッ……来る」

イリスだ。

ゆっくりと、こちらを探っている。

一瞬、視線が合う。

(バレたか――?)

だが、

逸れた。

(助かった……)

――パァン!

銃声。

「っ!?」

弾丸が、頬のすぐ横を通過する。

「……な」

「バレないとでも思った?」

イリスの声。

冷たい。

「私のスキル――情報収集(サムラング)

一歩、踏み出す。

「視界、気配、魔力。全部“拾える”の。隠れても無駄」

(最悪だ……)

完全に、位置は把握されている。

「これは……隠れる意味はないね」

先輩が苦笑する。

――なら。

やることは一つ。

ゆっくりと、両手を上げる。

武器は持たない。

「……降参?」

イリスが銃口を向けたまま言う。

「違う」

一歩、前へ。

「君と、話がしたい」

沈黙。

引き金にかかった指が、わずかに揺れる。

「……ふざけないで」

低い声。

「私は“あなた達を止める側”なの」

「違う」

即答する。

「操られてるのは――君だ」

空気が凍る。

「――っ!!」

引き金が、わずかに引かれる。

「待って!」

先輩が割って入る。

「撃ったら終わりだよ!本当に!」

「終わらせるために来てるの!」

叫び。

その声は――震えていた。

「……助けるんでしょ?」

ぽつりと。

「私……言われたの……これを使えば……救えるって……」

ロケットランチャーに触れる手が、揺れる。

「でも……」

視線が落ちる。

「なにか違うの……」

銃口が、わずかに下がる。

「助けるって……こんな……壊すことなの……?」

今だ。

「違う」

静かに言う。

「それは“救い”じゃない」

一歩、近づく。

「君は優しいから、利用されてるだけだ」

「……うそ」

「本当だ」

視線を逸らさない。

「その装置も、その武器も。全部“君の意思じゃない”」

沈黙。

「……じゃあ」

震える声。

「どうすればいいの……?」

――その瞬間。

ピリッ、と空気が歪む。

「っ!?」

背筋が粟立つ。

嫌な感覚。

(来る――!)

イリスの持っていた装置が、黒く光る。

「え……?」

制御が外れる。

「や、やめ……これ……勝手に――!」

あの時と同じ――いや、それ以上。

「下がれ!!」

叫ぶ。

「イリス!!その装置を離せ!!」

「離れないの……!!」

吸い付くように、手から離れない。

「助けて……!」

涙。

その瞬間――

ズドンッ!!

遠方からの衝撃。

重力が、一瞬だけ場を押さえつける。

「これは……」

見上げる。

空。

「間に合ったみたいね」

低く、冷たい声。

リゼリア。

「その子は――私が止める」

圧倒的な重圧。

空間が、静止する。

「あなた達は、下がりなさい」

状況が――変わる。


――――――――センターベース――――――――

           ルナ

「ねぇ。私もあそこ行きたいんだけど!」

食い気味に言う。

ほとんど駄々だ。

「……ダメよ」

即答。

「いつ黒死無双(Code:BLACK)が来るか分からないのよ」

その中で――

ルナ一人を外に出す余裕は、本来ない。

(……でも)

ちらり、と見る。

ルナはただの戦力じゃない。

“切り札”に近い何かだ。

だが同時に――

(まだ、制御しきれていない)

「お願い!」

一歩、踏み出す。

「イリスが……呼んでる気がするの」

その一言で、空気が変わる。

「……呼んでる?」

「うん」

迷いのない頷き。

「苦しそうなの。助けてって」

感覚的すぎる。

だが――無視できない。

異常な反応。

(共鳴……?)

「……一人で、行くつもり?」

「うん」

即答。

「だって――」

少しだけ笑う。

「私、そういうの得意だから」

軽い。

あまりにも軽い。

けれど。

その奥にあるものを、ヴェルナは見逃さなかった。

(この子……やっぱり)

人じゃない。

「……分かったわ」

ルナの顔が、一気に明るくなる。

「ただし、条件がある」

指を一本立てる。

「すぐに戦いを終わらせること」

もう一本。

「そして――」

一瞬、間を置く。

()()()()ここに戻ってきなさい」

“みんなで”。

その言葉に、少しだけ重みが乗る。

ルナは、一瞬だけ目を見開いて――

「……うん!」

強く頷いた。

「約束する!」

そのまま、振り返る。

「行ってきます!」

扉へ向かう背中。

「ルナ」

呼び止める。

「なに?」

振り返る笑顔。

ほんの一瞬だけ、言葉を選ぶ。

「――無理はしないで」

らしくない言葉。

ルナは、少しだけ驚いた顔をして――

すぐに、いつもの笑顔に戻った。

「大丈夫!」

そして。

「みんな、連れて帰るから!」

扉が開く。

光。

次の瞬間には――もういない。

静寂。

ヴェルナは、小さく息を吐いた。

「……本当に、無茶する子ね」

モニターに視線を戻す。

そこに映るのは――

歪んだ空間と、崩れかけた戦線。

そして。

新たに加わる、一つの光点。

「さて……」

小さく呟く。

「切り札、切ったわよ」



―――――西館四階、高等部二年一組前―――――

「その子は――私が止める」

着地と同時に、空気が沈む。

ドンッ――

見えない圧が、周囲一帯を押さえつけた。

「くっ……!」

床が軋む。

壁に亀裂が走った。

だが――

「……っ、あぁぁ!!」

イリスの周囲だけは、歪み続けている。

黒い空間。

ねじれ。

崩壊。

「……なるほど」

一目で理解する。

「未完成の“空間干渉”……それも、制御不能」

だが――

粗い。

危険すぎる。

「そのまま暴走すれば、校舎ごと消えるわよ」

「……止まらないの……!」

涙を流しながら叫ぶ。

装置が、さらに強く脈打つ。

ズズッ……

床が、削れるように消えていく。

時間がない!

「下がりなさい」

白石たちに言い放つ。

「ここから先は――」

一歩、踏み込む。

「私の領域よ」

空気が、変わる。

重力が――“支配”に変わる。

神格能力(ディヴァイン)万力統一(カオス)

「――固定」

空間に命令する。

瞬間。

歪んでいた空間が、“止まる”。

「なっ……!?」

白石が息を呑む。

完全停止ではない。

だが、確実に“遅くなった”。

「さすがに……同格未満なら、抑え込めるわね」

冷静に分析する。

しかし――

「まだ……足りない……!」

イリスの魔力が、さらに暴れる。

装置が軋み、悲鳴を上げる。

「やめて……止まってよ……!」

自分自身で抑えきれていない。

(このままじゃ――)

リゼリアは、手をかざす。

「……選択肢は二つ」

静かに言う。

「一つは――今ここで、その装置ごと破壊する」

重力が、収束する。

一点に。

「っ……!」

イリスの身体ごと、潰れる威力。

「や、やだ……」

涙。

「もう一つは――」

重力を緩める。

「あなたを“残したまま”、これを止める」

難易度は、桁違い。

「どっちがいい?」

問いかけ。

「……助けて」

即答だった。

「……そう」

目を細める。

「なら――」

重力の使い方を変える。

“押し潰す”から――

“支える”へ。

「暴れなさい」

低く言う。

「その全部、私が受け止める」

ドォンッ!!

魔力が爆発する。

それを――

押さえ込む。

「ぐっ……!」

初めて、リゼリアの表情が歪む。

(重い……!)

単純な質量じゃない。

空間そのものの歪み。

それを、無理やり“均す”。

「これが……あなたの苦しみ?」

歯を食いしばる。

「ふざけないで」

圧を、さらに強める。

「こんなもので――壊れるんじゃないわよ」

ビシッ――!

空間に、ヒビがはいる。

拮抗。

だが。

「……っ」

魔力が削られていく。

(単独じゃ、押し切れない……)

その時。

ふと、意識の奥に声。

「無理しすぎだよ」

アルク。

「……黙ってなさい」

「いや無理でしょこれ。一人でやる量じゃない」

「分かってるわよ」

短く返す。

だが――

少しだけ、視界が開ける。

(……一人じゃない)

「スミレ!」

叫ぶ。

「その子の“意識”を繋ぎ止めなさい!」

「えっ――」

「できるでしょ!」

迷いはない。

先輩は一瞬戸惑い――

すぐに頷いた。

「……分かった!」

イリスへ走る。

銃口が向く。

「危ない!」

叫ぶ。

だが――

パァンッ!

弾丸は、途中で止まる。

リゼリアの重力場。

「前だけ見なさい!」

背中越しに叫ぶ。

「後ろは――私が全部止める」

その言葉に、嘘はない。

「……任せた!」

先輩が踏み込む。

イリスの目の前へ。

「イリス!!」

名前を呼ぶ。

「戻ってきて!!」

その瞬間――

空間が、大きく脈打つ。

臨界。

(来る……!)

リゼリアは、全力で押さえ込む。

「――ここで、終わらせる!」

そして――

上空。

一筋の光が、差し込んだ。

「……来たわね」

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