#32 ゼルティア戦争 東部戦線
私の能力は、命を守るモノ。
奪うモノじゃない。
「ゼルティア序列第二位――リゼリアだ!」
「ひるむな!一斉に撃て!」
パァン――!
銃声が重なる。
無数の弾丸が、一直線にリゼリアへ――
「……邪魔よ」
その一言。
弾丸は、軌道を歪められ――
床へと、力なく落ちた。
「なっ……」
「動かないで」
静かに、告げる。
「これ以上は――命の保証はしない」
威圧。
だがその奥に、わずかな焦りが混じる。
(撃たせない……誰一人、死なせない……!)
敵は、それに気付かない。
「くそ……!」
―――――ゼルティア学園東館放送部部室―――――
クロード
カルナ
「反逆者の仲間め!おとなしく投降しろ!」
こちらは総勢五人。あっちは…
三十人弱。
このままじゃ持ち堪えれなくなる。
「きっと、戦略部が…」
その時、外が静かになった。
ドアが開く。
『放送部の安全は確保したわ。迎えに来て』
――――――――センターベース――――――――
「放送部員全員の無事を確認。後は技術部だけです」
「西館四階二年一組にて、白石達戦闘開始」
「東館五階技術部部室にリゼリア、現着」
戦況はいい。
それでも、状況は悪い。
次の手は…
《ビー ビー ビー》
警報が鳴る。
「なんなの!?」
「情報部の通信を傍受!情報特殊部隊:黒死無双を動かすつもりです!」
「なんですって!?事実なの?」
「既に師団が向かって来ています」
「マズイわね…」
「結局、センターベースの位地は分からなかったか」
「この為の黒死無双だ」
「いささかの犠牲は出るかも知れぬが、改革に犠牲はつきものだ。それに、ゼルティアの繁栄のためなら、彼らも本望だろう」
―――――――東館五階技術部部室―――――――
アルク
「撃て!」
放たれた銃弾は鉄板に跳ね返される。
「コツコツ集めたジャンク品がまさか役に立つとは」
「そんな呑気な事言ってる場合じゃないですよ部長」
「素人に銃を渡したのは誰!?」
恐らく、情報部だろうな。
しかし、いつまで持つか…
「銃だと埒が明かん。俺が出る」
そう言って出てきたのは、大剣を握った大男。
「おお、ゼルティア序列第五位のモーブさんだ!」
第五位…さすがにキツイ。
「こういうのはこれで一発なんだよ!」
剣を振る。
「避けろ!」
鉄板が、紙のように切れる。
「はっ!俺のスキルは斬撃上昇。斬ろうとしたもの全てが斬れるのだ!」
なるほど…
確かに、スキルは優秀だ。
それでも、もっと強い人を知っているからか、恐怖は無い。
僕が作ったアレと、あの人を信じるだけだ…
「あの世で全校生徒に詫びな!」
振り降ろされた剣は――明後日の方向。
「何!?」
モーブが驚く。
「遅かったじゃないか」
「そうかしら?まずは"ありがとう"ではなくて?」
リゼリア=アークライト、現着。
「リゼリア…」
モーブが恨めしそうに見ている。
「前から気に入らなかったんだよ!いつも上から言いやがって!」
怒りがこもっているが…
対して、リゼリアは冷静だった。
「貴方に"リゼリア"と呼ぶのは許可していないはずよ」
(だって、許した人は二人だけだもの…)
その言葉が、モーブの怒りを加速させた。
「そういう所だ!」
感情に任せて、剣を振る。
「つくづく残念な男ね」
激情で勝てる訳が無い。
重力をかける。
手加減はしない。
一撃で、勝負は決した。
「二度と私の前に現れないで」
勝負はついた…ように思えた。
油断していた。
一人の生徒が、リゼリアに向かって弾を撃つ。
サイレンサーが付いていた。
誰にも気付かれず、凶弾は放たれる。
――ただ一人を除いて。
「危ない!」
弾丸は、一直線にリゼリアへ――
「――っ!」
ドンッ
鈍い衝撃。
視界が、揺れる。
「ぐっ……!」
崩れ落ちた影。
「アルク……?」
血。
胸から、滲み出ている。
「なんで……」
声が、震える。
「無事で……よかった……」
かすれた声。
「無事じゃないのは貴方よ!!」
叫び。
今まで見せたことのない感情。
「どうして……庇ったの……!」
アルクは、ゆっくりと笑った。
「だってさ……」
息が、浅い。
それでも、言葉を紡ぐ。
「本気なら……全員潰せた」
「でも……やらなかった」
「だから……」
震える手で、リゼリアの袖を掴む。
「守るのは……俺の役目だ」
その言葉。
深く、突き刺さる。
「……馬鹿ね」
小さく、呟く。
けれど。
その瞳から、涙が零れた。
「大切な人……だからさ」
静かに。
言い切る。
――ドクン
何かが、変わる。
リゼリアの中で。
「また……すぐ逢えるから……」
「だから……笑っていて……」
力が、抜ける。
「アルク……?」
返事は――ない。
静寂。
その中で――
リゼリアは、ゆっくりと立ち上がった。
俯いたまま。
その表情は、見えない。
「……そう」
小さな声。
だが、その一言に込められた感情は、あまりにも重かった。
護りたかった人は、もういない。
ここにいるのは――
私の、知らない人達。
そして。
大切な人を奪った――敵。
「……全部、消せばいいのね」
ぽつりと零れる。
無言で、武装が展開される。
十二対の機械が、空間に浮かび上がる。
怒りと、悲しみ。
そのすべてを圧縮したような重圧が、周囲を支配した。
「潰していいわ。建物ごと」
重力を――
かける。
――はずだった。
「……あら?」
発動しない。
その瞬間。
整列していた機械が、ふっと軌道を変え――
パコォン
軽い音と共に、リゼリアの頭を叩いた。
「な…なんで!?」
困惑。
頭に声が響く。
「ダメじゃないか。怒りに飲み込まれるなんて」
聞き馴染みのある声。
「アルク…?なぜ?」
疑問。
思念のなかに、アルクがいた。
幻覚か…
「だから、幻覚じゃないって」
間髪入れず返ってくる。
そのやり取りに――
ほんの少しだけ、現実感が戻る。
「……説明して」
「了解。この武器を作った時の事だけど…」
――――――――――二日前――――――――――
「この武器は、今までのとは違う感じにしたいんだよね」
「でもどうするんです?」
「このままでも強いと思いますが…」
「これ以上は負荷がかかりすぎてしまいます」
技術的には無理か…
「心霊部によると昔は、武器に記憶を込めていたそうですけど…」
「それだ!記憶を込めよう!」
「誰のを?」
うーん
"実験で、部員を犠牲にしました"なんて言ったら…
「だったら、こういうのはどうでしょうか」
その人が死にかけたら、記憶を込める。
"再利用"ではないが、合理的だ。
「プログラムを組んで…」
「つまり……貴方は、この中にいるのね」
「まあ、ざっくり言えばそう」
短く笑う気配。
「……そう」
それだけでよかった。
“完全に消えたわけじゃない”
それだけで――
崩れかけていた心が、繋ぎ止められる。
「……来るよ」
アルクの声。
現実に引き戻される。
弾が、一斉に放たれる。
重力で叩き落とすが…さすがに魔力が途切れてきた。
「このままだと、ジリ貧か…」
認めたくないが、事実だ。
そう言えば昔、心霊部がこんな事言ってたような…
「"神格者"なるものが昔、この世界で暗躍していたんです。
条件は簡単で、
・特殊能力持ちであること
・一定以上の魔力量を持っていること
・生贄がいること
の三つだけだそうで、
神格者になると、神格能力が使えるようになるとか、進化するとか、色々言われてるそうですよ〜」
そんな事…
そう言えば、二之宮君達が連れて来てたルナって子、
普通の人間とは違ったオーラがあったな…
まさか、事実なのか?
となると、特殊能力持ちで、魔力量もあるリゼリアは…
生贄…か。
自分の魂を見る。
「あのさ…」
「何?」
「…この魂を使ってくれない?」
「…」
「……はぁ?」
間抜けな声が出る。
「なんでそんな事…」
「さっきも言った通り、僕の身体はボロボロなんだ。このままでは、まさに無駄死にだろう」
武器が、魔法陣を描く。
「だからこそ、僕は君――リゼリアの心の中で生きていきたい」
「無駄にするよりは、ずっといい」
軽く言うな。
そう言いたかった。
けれど。
「……本当に、それでいいのね?」
「うん」
迷いのない声。
「僕の魂は、君に託すよ」
静かに、息を吐く。
「……後悔はしないわね?」
「もちろん」
「じゃあ――行くわよ」
手のひらに収まっていた魂が消える。
いや――取り込まれる。
身体が白く光った。
"神格化"は、始まったばかりだった。
――――――――センターベース――――――――
《ビー ビー ビー》
「今度は何!?」
「東館にて、異常なエネルギーを感知!」
モニターを見る。
「何…これ」
今までの巨人よりも最も大きい反応を示していた。
「何が…起きてるの…?」
「これは…私と同じ種族?」
どこかで、10番目の神格者が生まれたのね…
私の義弟、義妹にあたるのかな?
「誰だろう。楽しみだな」
〚特殊能力:重力改竄が神格能力:万力統一へ進化〛
「……っ」
目を開く。
世界が、違って見えた。
重さ。
流れ。
すべてが、“手に取るように分かる”。
「これが……」
一歩、踏み出す。
床が沈む。
空気が震える。
「やめ……」
敵が後ずさる。
遅い。
「安心しなさい」
静かに言う。
「殺しはしないわ」
さらに一歩。
「でも――」
重力が、落ちる。
全員が、地面に叩きつけられる。
抵抗不能。
完全制圧。
「二度と――」
指先が、わずかに動く。
骨が軋むほどの圧。
「同じことが出来ないようにしてあげる」
絶対的な支配。
誰一人、動けない。
沈黙。
その中で。
リゼリアは、ゆっくりと空を見上げた。
「これが……」
小さく呟く。
「“守るための力”よ」
その声は――
怒りではなく。
悲しみでもなく。
ただ、強く。
揺るがなかった。




