#30 要塞都市ゼルティア
――――――――センターベース――――――――
ヴェルナ
明朝。
《ウゥウウウーーー》
警報が鳴り響く。
《一種緊急警報発令。一種緊急警報発令。》
《速やかに安全な場所へ避難してください》
「……安全な場所、ね」
皮肉のように呟く。
守られる側じゃない。
――“守る側”だ。
「みんな、準備は出来てる?」
白石:はい!
「――出撃よ」
一斉に現場に向かう。
「北部第五区画にて、エネルギー波を感知」
「聞こえた?北部第五よ」
ガルド:肉眼で確認済み。対処します。
先輩 :こちらも肉眼で確認しました。移動します。
「了解。フォローするわ」
「出現地点付近にドローン到着しました」
「映像、映して!」
「了。第一モニターに投影します」
スクリーンに映し出される“それ”。
白く、異質で、圧倒的な存在。
「……大きいわね」
静かに呟く。
「生徒会の許可確認!しぶしぶ認めたようです」
「OK…」
「これより、生徒会の全権限を戦略部が担う、特例6を発動します」
「学園都市ゼルティア、戦闘形態に移行します」
《プールルルル プールルルル》
電子音が、都市全域へと連鎖する。
地上、地下、空――
すべての機構が、目を覚ます。
「さあ――」
ヴェルナは、モニター越しに戦場を見据える。
「ここからが、本番よ」
―――――――――南部第六区画―――――――――
白石 湊
「……最悪だな」
ビルの合間の空を見上げる。
敵は北部。
ここは――南部。
「完全に真逆じゃないか……」
この都市は広すぎる。
だからこその、分散配置。
――それが、裏目に出た。
その時。
《プールルルル》
耳を打つ電子音。
次の瞬間――
「……っ!?」
地面が、鳴いた。
「敵の攻撃か――!?」
違う。
これは、下からだ。
「――なんだ、これ……」
目の前のビルが、沈む。
崩壊じゃない。
滑らかに、“収納”されていく。
まるで、最初からそう設計されていたみたいに。
ありえない光景。
だが、それで終わりじゃなかった。
「まだ……動くのかよ」
地面が、再びせり上がる。
今度は――
“武装”だ。
ミサイルポッド。
レールガン。
無数の砲塔。
都市の至る所から、牙が生える。
ビルが消えた場所に――
戦いのための装置が、姿を現す。
「……はは」
乾いた笑いが漏れる。
「これが……」
理解する。
「――ゼルティアの“本性”か」
――――――――センターベース――――――――
「空対地攻撃システム稼働可能率87%」
「通常兵器の攻撃初めて!絶対に誤爆しないように」
「了」
短い返事。
余裕はないのだ。
"何が起こるか分からないからね"
あの時言った言葉。
いつ終わるかも知れない襲撃。
早く、手を打つ。
それしかできない。
「敵に高エネルギー反応!攻撃、来ます!」
直後、ビームが発射される。
その放射線上にあった建物は
蒸発。
後も残らない。
「直撃したら…マズイな」
「ビームは絶対に避けるように!」
―――――――――北部第五区画―――――――――
ガルド
先輩
「チィッ」
これは…二人じゃ無理だな。
今までのよりも、大きすぎる。
「まだ誰か来ないの?」
返事は、『後少しで…うん?これは…』
南東方向。
一閃。
『相変わらず、無茶をするわね』
呆れが交じる言葉が聞こえた。
「私が、来たわよ」
軽く髪を払う。
リゼリア=アークライトの、普段は見ない戦闘服。
戦乙女のような姿。
周囲には、従者のように浮遊している機械。
重力制御…なのか?
「一日で作って下さった技術部には感謝しておきましょう」
――――――昨日、東館2階技術部部室――――――
「この技術を使って、私に丁度いい武器を作って下さる?」
そう言ってリゼリアが出したのは、巨人の欠片。
「これは…見たことのない素材ですね。加工は難しいかと…」
「それをどうにかするのが、技術部の仕事ではなくて?」
高圧的だが…面白そうだ。
技術部員は揃いも揃って、発明バカなのだ。
「分かりました。やって見せましょう。リゼリア…
いや、今はリゼリアさんかな?」
「貴方までそう言うのは、止めてほしいわね。リゼリアでいいわ。アルク」
「まだお預けです。リゼリアさん。いつまでに作れば?」
「3日もあれば出来るでしょう」
「御冗談を。一日で作って見せますよ」
そうやって作られた、リゼリア専用武器。
重力を使って浮遊させ、重力エネルギーを光学エネルギーに変換し、レーザーとして発射させる事もできる武器。
十二対の浮遊機械であらゆる状況に対応出来る、技術部の最高傑作だった。
「さあ、駆除の時間よ」
その一言で、空気が変わる。
「全機、展開」
背後に浮かぶ十二の機械が、一斉に広がる。
円を描くように配置され、リゼリアを中心に“陣”を形成した。
「――重力場、展開」
見えない圧が、空間を歪める。
巨人の動きが――鈍る。
「動きが……止まった!?」
先輩が驚く。
「完全停止じゃない。ただ、“重くした”だけよ」
余裕の声音。
「その程度で止まるなら、苦労はしないわ」
巨人が、強引に腕を振る。
空気が裂ける。
「来る!」
ガルドが前に出る。
「下がってなさい」
その一言で、ガルドの身体が“押し戻された”。
重力。
味方すら制御下に置く領域。
「邪魔よ」
機械の一基が前方へ滑る。
「――収束」
光が集まる。
空間そのものが一点へ圧縮されるような感覚。
次の瞬間――
「撃ち抜きなさい」
閃光。
音が遅れて追いつく。
光の線が、巨人の胴を貫いた。
「やったか!?」
しかし――
「……浅いわね」
煙の中から、巨人が姿を現す。
貫かれたはずの部位が、蠢いている。
再生。
「再生能力……!?」
先輩が息を呑む。
「面倒ね」
リゼリアが、わずかに眉をひそめた。
「核を潰さないと意味がないタイプか」
巨人が、再び光を溜める。
『南西方向へ照射予測!回避行動を!』
ヴェルナの指示。
だが――
「必要ないわ」
リゼリアは動かない。
代わりに、機械が一斉に前へ出る。
「――重力偏向」
空間が、歪む。
放たれたビームが――
“曲がった”。
あり得ない軌道で逸れ、空へと流れていく。
「……マジかよ」
ガルドが呟く。
「これが……本気か」
「感心してる暇があるなら、私のサポートぐらいしなさい」
リゼリアが視線も向けずに言う。
「核の位置、分かる?」
『解析中…』
センターベースからの通信。
『胸部中央、わずかにエネルギー集中あり!そこが核の可能性高い!』
「了解」
リゼリアの目が、細くなる。
「じゃあ――終わらせるわよ」
十二の機械が、一斉に収束。
すべての砲口が、巨人の一点を捉える。
その時…
急な浮遊感がリゼリアを襲った。
――――――――センターベース――――――――
《ビー ビー ビー》
「北部第五区画、地盤崩落!」
映像に映るのは、ひび割れ、沈みゆく道路。
「これは……重力負荷の影響……!」
ヴェルナが息を呑む。
リゼリアの放つ強力な重力に耐え続けるだけの耐久力が道路には無かった。
普段なら、これぐらい簡単に対処できただろう。
しかし、力を溜めていたリゼリアは、すぐ対処する事が出来なかった。
「……しまった」
リゼリアが歯を食いしばる。
(今、解除すれば――攻撃が途切れる)
(でも、このままだと――落ちる)
選択の猶予は、ない。
身体が、引きずり込まれる。
「……っ」
目を閉じる。
(誰か――)
「危なかった…」
衝撃。
だが、痛みは来ない。
恐る恐る目を開けると――
抱きかかえられる形になっていた。
「貴方は…葵」
「救助成功!」
『良くやったわ』
飛んでいる先輩に、巨人が気づいたようだ。
ビームが飛んでくる。
「危ない!」
「防御結界」
冷静に言う。
ビームは弾かれた。
「ほら、そろそろ回復した?」
序列三位の自分が、心配された…?
一瞬、呆気にとられる。
そして、
「ふふ…」
吹っ切れたように笑い出した。
「貴方を見込んで、頼みたいことがあるんだけど…」
先輩とリゼリアで、二人並ぶ。
「私が重力の制御をするから、貴方は一撃入れる事だけ、考えて」
短く言う。
しかし、言葉には信頼が混じっていた。
「OK!」
「それじゃあ…行くわよ!」
巨人が動き出す。
リゼリアは全ての魔力を消費するつもりで、重力をかける。
今度は“押し潰す”のではなく――
“固定する”。
空間そのものを縫い止めるように。
巨人が、軋む。
先輩も、魔力を使い切るつもりで、機械に注ぐ。
力を溜める。
巨人は必死に抵抗するが、動けない。
静寂。
そして…
一撃。
光が走る。
一直線に、核へ。
巨人は一瞬抵抗しようとしたが、すぐに消滅した。
「できた…」
安堵も束の間、再び落下する。
隣を見る。
リゼリアは、意識を失っていた。
魔力を使い切った。
それは、自分も同じ。
(この高さから落ちたら…)
抵抗虚しく、気を失う。
『二人とも!?起きて!」
ヴェルナの叫びも響かない。
その時、一人の影が見えた。
白石 湊。
「――間に合えぇぇぇ!!」
剣を振り、反動で身体を持ち上げ、空へ舞う。
「起きろ!」
着地がかろうじて出来る程度の、数少ない魔力を注ぐ。
魔力切れで白石は意識を失い、同時にリゼリアが目を覚ます。
「はっ!これは…」
落ちている事に気が付く。
重力波で持ち上げようとするが、体勢が悪い。
(このままじゃ…)
『後もう少し…もっていて!』
南西方向、一筋の光!
ルナだ。
神格化している。
「簡単に死ぬなよ…!」
淡い光に包まれ、体勢が変わる。
「これだったら…」
魔力を注ぐ。
速度が落ちた。
「間に合え…」
地面に落下。
煙が上がる。
『みんなは無事!?』
「落下地点より生命反応あり!無事です!」
『よかった…』
煙が晴れる。
そこには、みんなの下敷きになった、ガルドの姿。
クッション代わりになったのだ。
「見たかリゼリア…サポートしてやったぞ…」
その言葉は聞こえていない。
こうして、ゼルティア史上、最大規模の被害を出した襲撃は――
幕を下ろした。
だが。
それは終わりではない。
“何か”が、確実に変わり始めていた。




