#28 戦女
―――――――――中央第三区画―――――――――
前回見たものとは違う。
小さい。
“巨人”というより――
大人ほどの大きさ。
「これぐらいだったら一撃で……」
ガルドがハンマーを担ぎ上げる。
その後部に取り付けられた噴出器が唸る。
トリガーを引く。
空気を吸収し、圧縮し、爆ぜる。
「これで……終わりだぁぁ!!」
衝撃波が叩きつけられる。
――決まった。
そう、思った。
だが。
“それ”は、そこに立っていた。
何食わぬ顔で。
……顔もないくせに。
「何!?」
「ねぇ!なんか光ってる!」
ルナの声。
巨人の頭部。
そこから、細い光が収束していく。
「これは……レーザー!?」
反応した瞬間――
空気が、歪んだ。
圧力。
全身を押し潰すような重み。
(敵の攻撃か!?)
違う。
「遅かったじゃないか」
ガルドの声。
その方向を見る。
そこにいたのは――
一人の少女。
ドレス姿。
風もないのに、裾が揺れている。
「せっかく来てあげたのですから、まずは感謝ではなくて?」
気品に満ちた声音。
だが、その奥にあるのは――明確な“上から目線”。
「この人は……?」
「ああ……味方だ。一応は……」
ガルドの言い方が引っかかる。
(“一応”ってなんだよ)
その間にも、巨人が動く。
こちらをロックオン。
光が、放たれる――
「もう対応してきましたか。今までの個体とは違いますね」
少女は一歩も動かない。
「一応、褒めておきましょう」
次の瞬間。
「ただ――」
巨人が飛びかかる。
「レディに手を出すのは、無礼でなくて?」
静かな声。
その瞬間。
ズン――
空間が沈んだ。
目に見えない“何か”が、巨人を押し潰す。
「下民らしく、そこで這いつくばっていなさい」
さらに圧力が増す。
地面に叩きつけられる巨人。
ミシミシと、存在そのものが軋む。
(重力……?)
次の瞬間――
巨人は、音もなく消えた。
静寂。
誰もすぐには動けない。
「……今の、一瞬で?」
ガルドが呟く。
「当然でしょう?」
少女は、軽く髪を払う。
「こんなもの、脅威にもなりませんわ」
その言葉に、違和感が混じる。
(“こんなもの”…?)
つまり――
もっとヤバいのを知ってるってことか?
「改めて名乗りましょうか」
優雅に一礼。
「私はリゼリア=アークライト」
ゆっくりと、顔を上げる。
その瞳は――
まっすぐ、こちらを見ていた。
「ゼルティア序列第三位。重力制御を司る者ですわ」
(序列……?)
聞き慣れない単語。
だが、意味は分かる。
(強さの順位、ってことか)
「第三位ってことは……」
ルナがぽつりと呟く。
「上に、あと二人いるってこと……?」
リゼリアは、ふっと笑った。
「ええ」
「そして、その二人は――」
一瞬、間を置く。
「あなた達では、まず勝てませんわね」
空気が、張り詰める。
挑発。
だが――
事実でもあるのだろう。
《ポーン》
電子音が響く。
《消失を確認しました。緊急警報を解除します》
静寂が戻る。
さっきまでの緊張が、嘘のように消えていた。
「今日は終わったみたいね。でも……これは誰が放送してるんだろう」
確かにおかしい。
この街の放送は基本、放送部か戦略部が管理しているはずだ。
だが今の声は――どちらでもない。
「放送部じゃないとしたら……誰が?」
小さく呟く。
胸の奥に、嫌な違和感が残った。
「まあいいわ、今日はもう帰りなさい」
ヴェルナが手を振る。
その言葉で、緊張が少しだけ解けた。
けれど――
(……終わってない)
視線を横に向ける。
リゼリアが、さっきの“何か”をじっと見つめていた。
さっき巨人がいた場所。
何もないはずの空間に――
「ねえ、それ」
思わず声をかける。
リゼリアは、ゆっくりと振り向いた。
その手には、
白く、小さな“欠片”が握られていた。
「……こんなもの、前は残らなかったのだけれど」
静かに言う。
その欠片は、かすかに脈打っていた。
まるで――生きているみたいに。
「これは……」
嫌な予感が、確信に変わる。
ただの“巨人討伐”じゃない。
何かが――進化している。
リゼリアは、その欠片を見つめたまま、ぽつりと呟いた。
「面白くなってきたじゃない」
その笑みは、どこか楽しげで――
同時に、底知れなかった。




