#27 部活
「今日は休校だから、我が校の設備を見ていってもらおうかな」
せっかくの休日に駆り出された4人。
「休ませてよ〜」
先輩がぼやくが、ヴェルナは聞こえていないふりをする。
「我が校には30種類以上の部活、もしくは組織が存在する。それぞれが街の発展に直接関わっているの」
歩きながら、淡々と説明が続く。
「例えば――建築部がビルを建て、購買部がそれを売る。生徒が買い、そこに住む」
「いやスケールでかすぎません?」
思わずツッコむ。
「ここは“学園都市”よ?」
軽い一言で流された。
「そして君たちの所属する戦略部は――」
ヴェルナが足を止める。
「この街の防衛。“アレ”の討伐担当」
そう言いながら、壁のタッチパネルに手をかざす。
ウィン――
棚が横にスライドし、その奥から階段が現れた。
「な、なにこれ……」
「来れば分かるわ」
コツ、コツ、と靴音を響かせながら降りていく。
やがて――
前方に光。
「ようこそ、戦略部の中枢――“センターベース”へ」
そこに広がっていたのは、
果てしなく広い地下空間と、
中央に鎮座する巨大な施設。
要塞。
その言葉が一番しっくりきた。
「……これ、学校の設備ですよね?」
「一応ね」
軽すぎる。
「こんなの作る必要あるんですか?」
先輩の問いに、ヴェルナは少しだけ間を置いた。
「“何が起こるか分からないから”よ」
その言い方が、妙に引っかかった。
「さ、戻るわよ」
「えー、もう帰るの?」
ルナが名残惜しそうに振り返る。
「バレたら困るからね。ここは“秘密”」
その言葉だけ、少し重かった。
廊下に戻ると、空気が一変した。
さっきまでの静けさとは違う、張り詰めたような空気。
その原因は、すぐに分かった。
「おやおや、有名無実の戦略部じゃありませんか〜」
数人の生徒。
全員、同じバッジを付けている。
「なにこれ…煽ってる?」
小声で呟くと、先輩も小さく頷いた。
「そうみたい…」
「教頭直属の組織で、よく媚びを売ってるって噂だけど?」
ヴェルナがわざとらしく言う。
「おや、怖いですね〜。事実無根ですよ?」
表情は笑っているが、目が笑っていない。
「ろくでもないことをしないようにしてくださいね〜」
そう言い残し、すれ違う。
すれ違った瞬間――
一人が、こちらを一瞬だけ見た。
(……今の目)
明らかに、“ただの生徒”じゃない。
……
「情報部ってのは、情報収集のためならスパイもする連中よ」
「よく煮え湯飲まされてるからね」
ヴェルナの声には、わずかに苛立ちが混じっていた。
(敵は外だけじゃない、ってことか)
「今日はもう帰っていいわよ」
「え、急に?」
「アイツらと同じ空間に長居したくないの」
本気だった。
「それじゃあ――」
言いかけた、その時。
視界に、見覚えのある姿が入る。
カルナ。
そして――
隣には、男性教師。
しかも、腕を組んでいる。
(……え?)
「カルナさん?」
ヴェルナが声をかける。
カルナの肩が、わずかに揺れた。
「教師同士の婚姻関係は禁止だったはずですけど?」
空気が一瞬で凍る。
「い、いや……私は正確には教師ではないので……」
明らかに動揺している。
そして――
「すみません!」
綺麗な土下座。
早い。
「これには……深い訳が……」
言い淀む。
隣の男は、気まずそうに目を逸らしている。
その時――
「へぇ〜」
ルナが一歩前に出た。
「“演技”、上手だね」
空気が変わる。
「……なに?」
カルナの声が低くなる。
「その人、“本当に本人?”」
沈黙。
次の瞬間――
男の足元に、微かに魔法陣が浮かび上がった。
「――ッ!」
ガルドが反応する。
「離れろ!」
遅い。
バチッ――!
電流のような音。
男の瞳が、不自然に揺れた。
「……命令……実行……」
(操られてる!?)
カルナの表情が一変する。
「やめろ――!」
だが、その声は届かない。
男の手が、ゆっくりと持ち上がる。
狙いは――
カルナ。
カルナの目立った抵抗もなく…
懐に入る。
もちろん、カルナの罠だった。
「異状解除」
小さく呟く。
その瞬間、男の周りに光が溢れ…
刻印が消える。
正気を取り戻したようだ。
それにしても…
「よくそんなに便利な能力使えますね」
異状解除といい意思再会といい…
「それは私にスキル:能力創造があるからです。私しか使えませんけど…」
便利なスキル。
欲しかった…
「あれ、僕は一体何を…?」
男性教師が意識を取り戻したようだ。
「あなたは…操られていたのよ」
「ああ…最近噂の」
「噂?」
「最近人が急に変わるっていう噂があるんだよね…まるで操られているみたいに」
そんな事が…
「思ったより、身近に起きてるみたいね」
ヴェルナが腕を組む。
「そうですね……」
早く対処しないと、被害は広がる。
男――教師は立ち上がる。
「助けられたみたいだし、これから協力するよ。僕は放送部顧問のクロード。よろしく」
「放送部……」
思わず反応する。
「放送、監視カメラ、情報伝達……全部うちの管轄だよ」
ニッと笑う。
「つまり――“校内の目と耳”ってわけ」
(当たりだ)
「それは……心強いですね」
その時。
ピーン。
校内に、電子音が響いた。
次の瞬間――
《一種緊急警報発令!繰り返す。一種緊急警報発令!》
《中央第三区画周辺の生徒は避難してください!》
「緊急警報!?予報ではまだなはず!」
クロードの顔色が変わる。
「……この放送、俺じゃない」
「え?」
「放送室のパスワードは基本、俺しか知らないはずなんだ」
嫌な予感が走る。
《中央第三区画に戦略部は至急集結せよ》
「……早速、来たみたいね」
ヴェルナが笑う。
完全に“仕事モード”だ。
「中央第三区画って……どこですか?」
「センターベースの、上層よ。つまり、ここ」
(いきなりかよ……)
その時――
ルナが、ふと立ち止まった。
「どうした?」
背筋が冷える。
「今度は、はっきり見える」
視線の先。
廊下の奥――
何もないはずの空間に、
**“歪み”があった。**
空気が裂けるように揺らぐ。
そして――
ズルリ、と。
白い腕のようなものが、現れた。
「――来る!」
次の瞬間。
空間を引き裂くように、巨人の一部が現れる。
未完成。
だが、それでも十分すぎる威圧感。
「校内で……直接出てきた!?」
「生成型……いや、召喚か!?」
クロードが叫ぶ。
「そんな悠長に分析してる場合じゃないでしょ!」
先輩がツッコむ。
「戦略部――出番よ」
ヴェルナが振り返る。
その目は、完全に戦場のそれだった。
「初任務、いける?」
ニヤリと笑う。
(ハードすぎるだろ……!)
それでも――
剣を握る。
「やるしかないですね」
その一言で、全員の空気が揃う。
学園という“日常”の中で、
戦いが始まった。




