#26 級友
夏休みが明けたクラスは、
「夏休み中何した?」
「花火見たー」
と、いつも通りの雑談で賑わっていた。
そんな空気を断ち切るように、教壇に先生が立つ。
「落ち着けー」
数秒後、ざわめきがゆっくりと収まっていく。
「今日は、転校生がいます!」
再びざわめく。
「入ってきていいぞー
呼ばれて、ドアに手をかける。
ガラッ――
一斉に視線が集まる。
ほんの一瞬、息が詰まる。
(……まあ、慣れてるけどな)
教壇に立ち、軽く一礼する。
「僕は二之宮 湊です。よろしくお願いします」
二之宮 湊。
それが、この学園での“偽名”。
「湊君の席はあそこね」
先生が指したのは、クラスの端。
(都合いい配置だな……)
ちなみに、校長・教頭の許可は取れている。
教師陣も調査に協力済み。
――つまり、かなり自由に動ける。
席に向かうと、隣の男子が小さく笑った。
「俺はガルド。話は聞いてるよ。よろしく、白石――いや、二之宮君」
「よろしく」
(そういえば、こいつだけは知ってるのか)
そのとき――
「あと、教育実習生が来てるから、入ってきてー」
ガラッ。
入ってきた人物を見て、思わず目を見開く。
(あれ……あの人って……)
「ソル=ラグナ国立大学から来ました。レイン=カルナです。魔法学を担当します。よろしくお願いします」
静かで、よく通る声。
一通り挨拶を終えたあと――
カルナの視線が、こちらに向く。
ほんの一瞬、目が合った。
(気づいた……よな)
「レインさんには副担任として入ってもらうから」
「よろしくお願いしま〜す」
表向きは、ただの挨拶。
でも、この教室には――
“普通じゃない人間”が多い。
授業が始まる直前。
窓の外で、一瞬だけ“影”が揺れた。
ビルの隙間――
白く、巨大な何か。
次の瞬間には、何もなかった。
(……気のせいか?)
「二之宮、どうした?」
「……いや、なんでもない」
胸の奥に、小さな引っかかりだけが残った。
――――――――――――――――――――――――
「私の名前はスミレ。好きなものは恋愛。よろしく」
スミレ。
それが、私に与えられた偽名。
「スミレさんの席はあそこね」
案内された席に向かう。
(ターゲットの隣……ね)
座ると同時に、隣の少女が身を乗り出してきた。
「この時期の転校生って珍しいね!私はイリス。よろしく(^^)」
語尾に何か付いている気がするのは私だけだろうか?
少し距離が近い。
「慣れないことがあったら何でも聞いてね(。•̀ᴗ-)✧」
(……テンション高いな)
でも、悪い子ではなさそうだ。
「ありがとう。助かるわ」
そう答えると、イリスは嬉しそうに笑った。
(この子が――今回の鍵になるのか…)
――――――――――――――――――――――――
放課後。
指定された通り、戦略部の部室へ向かう。
扉を開けると、すでに全員揃っていた。
僕、先輩、ルナ、ガルド、ヴェルナ。
そして――
カルナ。
「なんでここにカルナがいるの?」
先輩が即座にツッコむ。
「私は……あなた達とは別の案件で」
少しだけ視線を逸らしながら答える。
「まさか知り合いだったとはね」
ヴェルナが面白そうに笑う。
(この人……絶対わざとだろ)
どこか“社長”と似た、胡散臭さ。
「今日は特に進展がなくてもいいわ」
空気が少し締まる。
「でも明日からは――」
ヴェルナの表情が変わる。
「この学園の“裏側”、しっかり暴いてもらうわよ」
静かな圧。
そして――
窓の外、遠くの空に。
一瞬だけ、白い影が揺れた。




