#19 遺跡
決戦前夜――そんな言葉が似合う夜だった。
“敵の本拠地に乗り込むのは危険だ”
そんな考えは、不思議と浮かばなかった。
操られているなら、救い出す。
ただ、それだけだ。
当たり前のような感情で、僕たちは明日を迎えようとしていた。
「作戦はあるんですか?」
尋ねる。
「そんなの無い!」
元気よく返された。
「相手の魔法が分からない以上、立てても無駄だと思うよ」
……そんなものか。
納得したような、していないような気持ちのまま、僕は剣を磨く。
最近は、この作業にも慣れてきた。
ふと、ルナがこちら――いや、剣をじっと見つめているのに気づく。
(やっぱり、不思議な子だな……)
「よし、出来た……」
「それ、何ですか?」
視線の先には、フィアナさんの手のひらに収まる、黒く小さな物体。
「スキルの強制解除装置」
そんなものもあるのか……。
「これを使えば、操りも解けるはずよ」
「便利ですね」
思わず呟く。
「ただし――相手を制圧しないと使えないけどね」
……結局、力ずくか。
「眠くなってきたし、僕はもう寝ますよ」
そう言って、その場を後にした。
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「まだ夜か…」
――「もう、寝るのも飽きた」
いつになったら、私は――
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早朝、いつも通りに目が覚める。
ただ、いつもとは違う緊張感。
起きると、みんないた。
僕が起きたのが一番最後だった。
「遅かったね」
(いつも通りなんですけど…)
「今日は魔法車使わないからね」
え、じゃあ何で――
その時、外から音がなった。
「これは…ヘリコプター?」
そう、それはまさしくヘリコプターそのものだった。
「早いじゃないか」
「そうですか?先生の役に立てるんだから、張り切ってしまいました。ほら、早く乗って下さい」
「ほら、行くぞ」
「先生が"適当な乗り物を出せ"なんか言ってきたときはびっくりしましたよ」
「"先生"ってことは、この人も…」
「いや、違いますよ。私は先生の教え子、という名のパシリです」
パシリ…か。
「まぁ、大先生に使われるだけでも名誉な事ですが」
大先生…?
首を傾げていると、
「知らないのですか?この方はソル=ラグナのトップである大魔導士様ですよ」
そうだったんだ…
「大魔導士なんてとんでもない。ただの人間ですよ」
どこか愁いを帯びていた声だった。
「さあ、もうすぐですよ」
ヘリコプターがゆっくりと高度を下げる。
風圧で砂埃が舞い上がり、視界が揺れた。
その中に――
異様な光景が広がっていた。
「これが……アル=ゼリオ……?」
思わず、声が漏れる。
遺跡は、崩れているはずなのに。
まるで“生きている”かのように、脈打っていた。
地面に刻まれた魔法陣が、淡く光っている。
「……嫌な感じがするね」
先輩が小さく呟いた。
その言葉に、全員が同意するように黙り込む。
「降りるぞ」
フィアナさんの一言で、空気が切り替わる。
地面に足をつけた瞬間――
ゾワッ、と背筋が粟立った。
(……何だ、この感覚)
見えない何かに、見られている。
そんな感覚。
「結界だな」
フィアナさんが即座に言った。
「しかも、かなり大規模な……」
言い終わる前に、
ゴォン……
重い音が、地の底から響いた。
次の瞬間。
遺跡全体が、ゆっくりと動き出す。
「は……?」
崩れていたはずの塔が、形を取り戻していく。
砕けた石が浮かび上がり、元の位置へと戻っていく。
まるで時間が巻き戻っているかのように。
「歓迎ってわけか」
フィアナさんが杖を構える。
「いいだろう。正面から突破する」
その声に、迷いはなかった。
「白石君」
先輩が隣に立つ。
「準備、いい?」
「……もちろんです」
剣を握る手に、力が入る。
その時だった。
遺跡の扉が開いた。
そこから現れたのは――
見覚えのある姿。
「……レイン=カルナ」
フィアナさんが低く呟く。
「待っていたぞ」
災禍 カルナ。
その目は、前に見た時よりも、
明らかに“人間じゃない光”を宿していた。
「さあ、見せてみろ」
ゆっくりと杖を掲げる。
周囲の魔力が、暴風のように渦を巻く。
「――お前たちの“救い”とやらをな」
明日も投稿




