#194 信じる者のアティチュード
「法皇様ー!」
大衆の前に降り立ち、手を降る彼女を、市民は熱烈に信じていた。
前の災害の被害を最小限に食い止めた一人――
そんな肩書が、彼女の人気を更に押し上げていたのだ。
しかし、そんな大衆人気とは対象的に、カノンの顔は暗い。
それは親善大使であるワダツミの目から見ても明らかだったようで⋯
「法皇サマ⋯いや、カノンさんよ。巷での人気もあるというのに、なんでそこまで思い詰めた顔を?」
厳かな接客室に、彼特有の忖度しない言葉遣いが響いた。
お互いがそれぞれの土地の首長だからこそ出来る芸当だ。
「⋯ああ、ごめんなさい。まったく気が付かなかったわ」
そんな返事が帰ってきたのは、彼が聞いてから6分後。
「疲れてんじゃねぇの?」
呆れたようにワダツミが言った。
「⋯そうかも。最近ちょっと考えていたの」
そして、カノンは話を聞いてほしそうにワダツミを見つめた。
「その目⋯分かった。乗ってやる」
ワダツミはソファに座り込む。
「⋯流石はヒトの技術力だな」
感心したように、ワダツミは深く座った。
「ローラス教は、世界が滅亡する時に勇者が現れ救って下さる……これを大本に3つの戒律を設けて、400年間進行されてきた歴史ある宗教なのは知ってるわよね?」
確認するように、カノンは聞いた。
「勿論だ。俺もこの目で見てきたからな」
すると、カノンは言った。
「すぐ側に"天界"と呼ばれる世界があった。だけど、ローラスの経典には一切書かれていないのが不思議でー」
「先代が存在を隠していたからではないのか?」とワダツミは言う。
「その割には、世界樹の存在は認知されているのよね。世界樹の上に天界が広がっている以上、それが畫かれていないのは可怪しくない?」
そして、彼女には怪しいことがもう一つあった。
「その昔、旧ラグナ帝国では"神格者"を祀る教団があったと聞いたことがあるの」
当時は八柱だった神格者。
しかしその存在は"運命王"によって秘匿されていた。
変わりに、そのような形で自らに忠誠を誓うものを集めたのだ。
「そのなかに、天界と関係のある神格者――"聖霊王"がいたとされている」
「⋯つまり?」
「この2つの宗教には共通点が多いってのが不思議なの。できた時代も理由も違うのに、偶然とは思えないし――」
すると、ワダツミは言った。
「だからって民衆の前で暗い顔してると、民も不安になるぜ」
「⋯そうね。ただ⋯」
カノンはため息を付く。
「直接聞いたら早いと思うけど、なんか嫌な予感がするのよー」
そう言って、カノンは机に突っ伏した。
法皇とは思えないだらけ具合に、流石のワダツミもたじろいでいた。
「"聖霊王"って、得体が知れない恐ろしさと言うか⋯」とカノンは言う。
「⋯なんか嫌」
すると、それを聞いたワダツミは取り直し「嫉妬だな」とにやにやしながら言った。
カノンはバッと顔を上げる。
「なんでそうなるのよ!」
「俺は知ってるぞ。法皇サマもあいつのことが好きなんだろ?」
ワダツミはソファに深く座って言った。
そのふてぶてしさは、どことなく竜族の威厳を思わせるほど。
カノンはしばらく黙っていた後、それに根負けしたのか少しずつ話し始めた。
「⋯あのヒトほど、彼を思っている人など他にいない。何となく分かるの」
すると、ワダツミはすこし眉をひそめた。
「⋯そうか?部下と上司は似るものだぞ」
「⋯何が言いたいのよ」
「"聖霊王"は相当な奴ってことだ」
「電雷双奏!」
「淵源彗霊!」
電撃が地を這う。
光球が天井を焦がす。
同じ思いが、相反する二人を生み出した。
「精霊体である私に、物理攻撃が通用すると思ってるの?」
挑発するようにポラリスが言った。
すると、葵は
「[天罰]の影響で、まともにスキルも使えないんじゃないの?」とやり返す。
「言ってくれるわね。聖なる斬撃!」
ポラリスは、その真っ黒な剣からすべてを切り裂く攻撃を繰り出す。
「流石に⋯不味い」
簡易魔法を使う時には、ある程度距離を保って置かなければ隙が生まれてしまう。
なので、前衛の後ろでサポートする――それが鉄則なのだ。
しかし、ポラリスは問答無用。
フェアプレーとかけ離れた攻撃を次々と行い、葵を徹底的に追い詰めていく。
「⋯そこまで白石君を殺したがっていたなんて思わなかったよ」
挑発以外に、少し葵の本心が混じっていた。
「それ以外に、どんな方法があるわけ?もっとも確実なものを私は選ぶわ」
発動。"栄光ナル鏡玉"。
あらゆる光が、一点に集まる。
「閃光爆発!」
「ヤバっ!隔壁創設!」
部屋を埋め尽くすように、光が爆ぜた。




