#193 ポラリスとアクルックス
静かに扉が開く。
第三の部屋、そこは他の部屋とは、一線を画している。
厳かな空気が漂い、見るものに、あの"天界"を想起させた。
そして、そこに挑戦したのは――
「⋯こんな雰囲気ってことは、相手はきっと⋯」
此花葵の声が、部屋の奥にいた女性のもとに届く。
振り返り際に、その長い髪が少し靡いた。
「⋯よく来たわね。此花葵」
"聖霊王"エスピリト=ポラリス。
いつもの少し身軽そうな服装ではない。
天界の正装とも取れる服を羽織り、普段よりよっぽど威厳があるように見えた。
(⋯話は出来るってわけね)
葵は警戒していた。
"社長"が何をするか分からない以上、あらゆる状況を想定する――
しかし、その生活は想像よりも自由そうだった。
「これでも、私は天界の長をやっているのよ。そう簡単に懐柔される訳がないでしょう?」と、ポラリスは言う。
「⋯ただ湿度が高いだけじゃないってことか」
葵はポラリスのことを、正直変な人だと思っていた。
ドロドロの恋愛感情を湊に向け、他人への嫉妬が凄まじい人――
それが、葵から見た評価だった。
「ただ、妹の方はどうなっているのか知らないけど」
そうポラリスは続けた。
「ディストリス=デイナートは、ルナの方にだけスキルを付与している」
しかし、葵はそれが誰かを知らない。
「⋯その人、誰?」
率直な疑問だった。
すると、ポラリスは驚いたように言った。
「もしかして、名前を知らなかったの?ディストリス=デイナート⋯貴方達が言う、"社長"ね」
葵は、その事実に困惑した。
「ディストリスって⋯」
始まりの神格者、ディストリス=ファルトと同じ名前。
「⋯つまるところ、私の遠い甥に当たるのよ」
少し嫌そうにポラリスは言う。
「神格者は生殖能力が欠落している筈なのに⋯」と、ポラリスはブツブツ呟いていた。
――閑話休題。
「なら、一緒に"社長"を説得して、神格者だっていい人がいるって知って貰おうよ」
葵は、平和的解決を望んだ。
ポラリスは、少し悩んでいた。
「[天罰]の影響で四大聖霊との繋がりが絶たれているこの状況だと、正面から言っても勝ち目はないわね⋯」
そんな事を言いながら、部屋をウロウロ。
こころなしか、いつもより長考している気がした。
その間、葵は壁にもたれ掛かっていたが⋯
突如、その壁が大きく揺れた。
「何!?」
壁が壊れることはない。
しかし、その衝撃が隣の部屋からなのは明らかだった。
「白石君!」
急いで部屋を出ようとする。
しかし、自分よりも強い力で阻まれた。
ポラリスが、葵の手を掴んだ。
「⋯あなただって分かってるでしょ。多分、白石君とルナちゃんが戦ってる」
「私には、その方が都合がいい」とポラリスは言った。
「なんで?どっちかが死んじゃうかもしれないのに⋯」
"聖霊王"は、微塵も気にしていないようだ。
「説明するのも面倒だけれど⋯教えてあげる。仮に湊が殺されたパターンは、その魂が天界へ行く。ルナが殺されたパターンは、寡婦となった湊を慰めればいい。他にも方法は幾つもある」
「⋯最低」
「何とでも言えばいいわ」
売り言葉に買い言葉。
見守った二人の関係は、いつしか戦いへと発展していった。




