#191 狂気的な罠
「⋯ルナ」
名前が口からこぼれる。
すると、ルナの視線が強くなったのを感じた。
「どうして私の名前を知っているの?」
(知っているも何も、僕が――)
そこで気が付く。
その目は、いつも仲間に向けている目ではない。
敵を見る時の、非情な目。
背筋に悪寒が走る。
同時に、ルナは武器を再び構えた。
「邪魔する人には、容赦しないから」
その瞬間――床が、建物が揺れた。
リーチを詰めて、突進。
ルナがいつもやっていた攻撃。
その動きは、[天罰]を喰らえど変わらなかった。
「あっぶな⋯」
姿勢を低くし、盾で受け止める。
そして――槍が刺さる。
その衝撃に、つい姿勢が崩れた。
それをルナは見逃さない。
容赦なしに全力で槍を振り下ろした。
「ッ――!」
咄嗟の勢いで剣を出す。
ぶつかった時に手が痺れた。
そして――手から力が抜ける。
「この攻撃――あの時の」
"相手の力を奪う攻撃"
それが、剣を持っていた手に作用した。
『あのような攻撃まで出来るようになったとは、娘も成長したな』
いきなり思念が流れてきてびっくりした。
(そうだ。娘のことならどうにか出来ないんですか?)
自分の"義理の父"に当たるであろう人に頼んでみる。
『私のスキル:超越者が万全であれば可能だったが、今では洗脳されているような奴を操ることまではできないだろう』
(じゃあどうやってシフリスの世界超越を使ったんですか!?)
すると、別の方向から思念が流れる。
『私が彼女らと直接的な繋がりがあったから。あの二人を結びつけたのは私』
さらっととんでも無い事を言われた。
『とは言え私はあくまで補助しただけで、私が関与しなくても遅かれ早かれ結ばれていたと思うけど――』
そんな事より、出来るか出来ないかである。
『⋯駄目だ。断絶させられている。しかもかなり前に』
――つまり"社長"が意図的にやった訳ではない。
となると、多分あの時――
「私の前で悠長に考え事していいの?」
ルナの言葉で、現実に引き戻される。
と同時に、その槍が猛威を振るう。
すべての攻撃が致命傷寸前。
今こうして避けれているのが不思議なぐらいだ。
「⋯まさかルナが操られるなんて」
"社長"は何がしたい?
"毒は毒で制す"と言う事だろうか。
⋯そう見られているなら、なんだか悲しいな。
攻撃を捌きつつ、そんな事を思った。
ルナの攻撃が止む気配はない。
「⋯ちょっと気が引けるけど」
こちらからも攻撃するしかない。
そう思い、剣を構える。
すると、ルナは何かを感じ取ったようだ。
「⋯私に効くと思ってるの?」
正直、賭けだ。
「分からないけれど、やるしかない!」
これまでのようにポラリスの力を借りることはできない。
正真正銘、自分だけの力。
ただ攻めるだけじゃない。
守りつつ攻撃――
ルナは槍を構えて走り出す。
盾で真っ向から受けるだけでは防ぎきれない。
ならば横に受け流して⋯
槍と盾が触れる。
そして、ルナの向きが変わる。
「胴体⋯ごめん!」
剣を力いっぱい振るう。
ルナは防ぐことができず――
服が切れた。
そして、切れた所が赤く滲む。
「⋯血?」
ルナの姿勢が崩れた。
「回復を⋯!」
ルナのもとに走り出す。
すると、槍が振られた。
咄嗟に見たその目は、悔しさが顕わになっている。
「ルナ⋯」
その声も、もう届いていない。
「まだ私はやれる。私は⋯」
よろめきながらも立ち上がる。
『まだ駄目だったか⋯』
そんな思念が剣から流れ込んだ。
『ああなると完全に倒すまで終わらないだろう』
貴方の子供ならどうにかして下さい。
すると、今度は盾から。
『いや、もしかするとこれは――』
ルナは傷口を抑えながらも、必死に攻撃をする。
しかし、完全にエレンが言い切る前に途切れてしまった。
考えている間に再び、突進される。
落ち着いてさえいれば、攻撃をもう見極められるようになっていた。
「⋯こんなのじゃ駄目」
避けきられた後、何やらルナが言っていた。
「もっと、もっと早く」
その言葉に答えるように、速度が上がる。
「早っ――」
再び、避けるのが難しくなった。
本来ならば集中――しなければいけないのだろう。
しかし、どうしても、思考はルナの放つ呟きに吸われていた。
「まだ、もっと」
最早、ルナの身体は限界を越えていた。
その影響は、次第に本人の身体に現れ始めている。
足が切れ、血が滲む。
そのことにも気がつかず、ルナは更に加速する。
『このままだと、先に体のほうが潰れてしまうな』
ファルトが静観して言った。
ルナは今、神格者と同じ動きを――生身の体で行っている。
限界が来るのは、目に見えていた。
それでも、ルナは止まろうとしなかった。




