#181 ヘレル
「どうして綻びが治りきらないわけ!?」
カルテを乱暴に机に叩きつけ、検体を見つめる人がいた。
ゼルティア隔離医療棟所長、その名もヘレル。
「恐らくですが、体の許容量を大幅に上回る魔力が作用しているものと推測されます。このままでは全身が引き裂かれるのも時間の問題かと」
そう。リツカの体は今も蝕まれ続けていた。
速度は以前と比べて沈静化したものの、確かに進んでいる。
「こうなったら制御装置を体に埋め込んでやるわ。荒治療だけどしないよりもまし」
「しかし、そうなると心身への負担が…」
「じゃあどうしろってのよ!」
焦りが見えていた。
「…何か別の方法で魔力を吸い続けることはできないのでしょうか?」
そんなのある訳…
その時、ヘレルに青天の霹靂!
「そうだ!彼氏を作ってもらおう!」
その言葉に、助手は困惑していた。
しかし、既にヘレルは動き出した。
「体に負担のないようにする方法なんて簡単よ。彼氏に魔力を吸い続けてもらえば…」
「待ってください!アテはあるんですか?」
すると、ヘレルの足がピタリと止まった。
「…そうよね。我ながら慌ててしまったわ」
「落ち着いて考えましょう。それに、検体はもう一人――」
その時、ヘレルに通信が入る。
「はいはい。また戦略部のお小言…」
しかし、今回は内容が違った。
『ヘレル?もう一人対応してほしい人が増えたけど、やってくれるわよね?』
…図々しい内容。
「今回はどんなのですか?また身体系?」
少し呆れるようにヘレルは言った。
『心身ともに正常よ。基礎検査だけ済ませてほしいの』
「はい。分かりましたよっと」
通話を切ろうとした。しかし、最後にヴェルナは言った。
『もうすでに向かわせているわ』
「ハァ!?ちょっと待て――」
敢え無く、通話は切れてしまった。
「…強引なんだから。すぐに準備して」
第四病室に空きがある。
「あの人の基礎検査は精密検査をしろってことよ。機器も全部用意しといて」
慌ただしく動き出す。
「全く、今回はどんなのが…」
すると、コンコンと扉を叩く音が聞こえる。
「どうぞー」
そして、その被験体…ビャクヤが部屋に入った。
「400年生きてこの成長速度…どこが健康なのよ」
早速、ボヤく。
しかし、右手は電子機械のキーボードに置かれている。
「名前と年齢、生年月日それに性別。身長体重座高スリーサイズ⋯は測らないと分からないわね」
すると、全てあやふやな答えが帰ってきた。
「名前はNo1008:通称ビャクヤ。年齢、生年月日フメイ。性別はオンナ」
分かることが異様に少ない。
あの二人もそうだったが、情報が撹乱させられているのだ。
「はいはい。予想通り⋯と。戸籍は?」
「旧ラグナ帝国」
「よし。新しく作ろう」
もう諦めた。
「⋯さて。検査を始めようか」




