#179 巨人出現
《ウゥゥ――――!》
鳴り響く警報音に、逃げ惑う人々。
遥か見えるは巨大な敵。
『一種緊急警報発令!シェルターへ避難してください!』
すれ違う人々は皆、何を思っていたのだろうか。
僕にはそれが、絶望とは思えない。
寧ろ、期待を見いだしていた。
『センターベースより通告。南部第一区画に巨人出現。これまでとは異なるエネルギー波を観測しています』
しかし、報告は絶望的なもの。
『ここにきて新種とは厄介ね』
通信越しにヴェルナが言う。
そこで、今の時系列を理解した。
「今がどんな状況なのか、ボクには分からないよ」
こちらとしては分からなくても構わないが…一応説明しておく。
「ここはゼルティア。旧ラグナ帝国に対抗した人達が守り抜いた地で、今は怪現象に襲われている。大体分かった?」
すると、小さく頷いた。
なんとなく、ガイドみたいな気持ちになった。
その時、轟音が響き渡る。
戦闘が開始されたのだ。
――センターベース。
「解析急いで!部隊の現着をもって作戦開始!」
新種の敵は、これまでとは一線を隠した特徴がある。
生物敵ではなく、より機械に近づいた見た目。
「対象から高エネルギー反応を検出!方向…ゼルティア中央区画!ここに来ます!」
監視者の言葉に、咄嗟に反応する。
「伏せて!」
その声の直後、建物が揺れる。
直撃――
貫通せずとも、被害は甚大。
「…結構なご挨拶ね。やってやろうじゃない」
モニターには、光線の跡が焦土と化していた。
敵に向かって、一直線に――
「ガルド!出れる?」
無線からは、こもったガルドの声が聞こえた。
『勿論です。でも、どこへ――』
「つべこべ言わない。発射!」
無線が切られ、ガルドを乗せたポッドが凄まじい速度で上昇する。
ゼルティアの遥か上空にて、ポッド分解。
「…実戦経験ないから、ぶっつけ本番」
ヴェルナから祈るような声が聞こえた。
モニターには、落ちる光が表示される。
そして――急加速。
「勝ったな」
隣に座っていた人が呟いた。
「バカ者。フラグを立てるな」
しかし、思い通りとばかりにガルドは現着し――
同時に撃破。
「よしっ!」
歓声が沸き起こる。
皆が視線を外していた。
――生体反応が、微かに残っていた。
――南部第一区画。
「おースゴい」
ビャクヤは称賛していた。
勿論、僕も。
「上空一点から潰し切る、ガルドにしか出来ない技」
しかし、当人ガルドはなんとも間抜けな顔で出てくるものだから呆れてしまった。
「仕方ないだろ。俺だって怖い物は怖い。500メートルに投げ出されて動揺しない奴がいるものか」
…それもそうである。
自分だとしても嫌だ。
しかし、妙なことに…
「消えないな」
新種は消滅しないのだろうか。
「これが新しいのだとしたら、随分心理攻撃に偏った奴だな」
その時、一瞬敵の体の一部が動いた。
「死後硬直?いや、まさかな…」
しかし、予感はすぐに的中する。
肉体が引き千切れる音。
その瞬間気が付く。
まだやられていない、どころか…
「ここからが本番って事――」
サナギから孵った蝶のように、みるみる姿が変わっていく。
もはや、巨人ではない。
翼を大きく広げ、鳥のように天へと舞う。
ゼルティアを覆い尽くす大きさの、機械仕掛けの神として――
「ビャクヤ。これは夢だよな…?」
「うん。ヘンな所でソウゾウリョク使っちゃってる」
隠されし厨二病が目覚めたのかもしれない。
いや、もともと隠してはなかったが…
「そんな事より、キミ死んじゃうよ」
珍しくビャクヤが慌てるように言った。
「前は死ぬところ見たいって…」
「アレは流石にジョウダンだよ」
その時、無線通信が入った。
『センターベースより通告。撤退して』
短い言葉だが、切羽詰まっているのが伝わった。
「ガルド!下がろう」
そして、センターベースへと帰還した。
――センターベース。
「核の特定完了。胴体中央部の光球です」
「民間人の最終避難完了」
よい知らせと悪い知らせが交互に飛び交う。
「私が行く」
そう言って出ようとしたルナを、葵が止めた。
「敵がどんなのか分かってないから駄目」
そして、リゼリアが言う。
「神格者がたとえ2人いようとも、対処できるとは思いませんわ。大人しく増援を待つのが得策よ」
「増援って誰が…」
ルナが呻く。
そう。増援なんて来やしないのだ。
ここにいる面々で戦うしかなかった。
「…と言うことです。上空にいる対象物に向かって無人機による機銃掃射を実施しましたが、効果は見られませんでした。起動を確認したところ、透明なシールドが張られているようです」
「核兵器は使ったのか?」
「未使用です。しかし、着弾点が不安定な事、さらに地上への影響を鑑みると使うのは得策ではないかと」
「ならどうするんだ!こうしている間にも攻撃してくるかも知れないんだぞ。先の騒乱のせいで防御形態は壊滅的だ」
「…仕方ない。地上装甲を全て収納しろ」
「機械仕掛けの神には、神格者をぶつければいい話だ。得体の知れない奴らを一掃できるいい機会だろう」
「正気ですか!?彼女らは仮にも生徒なのですよ」
「ヒトでなくなった以上、我々の手に押さえられるかは未知数だ。ならば使っていたほうが合理的なのだよ。そして、これは命令だ」
「…分かりました」
そして、地上からありとあらゆる装備が消える。
出撃するのは、神格者2人のみ。
「何故ですか?理解しかねます」
「貴方は上層部に兵器として見られている。研究材料になりたくないなら従う方がいいわ」
すると、リゼリアは悔しそうな顔をした。
「こんな者の為に成ったんじゃない…」
その時、施設が揺れた。
「中央第二区画に被弾。軽微な損害」
しかし、それは戦闘開始の合図に過ぎない。
「お願い。時間はもう残されていないのよ」
ヴェルナのそれは、命令ではなく懇願だった。
「もう道しか残ってないじゃない。きれいさっぱり消えちゃって」
「兵器として見られているのも不愉快ですわ。さっさと終わらせてしまいましょう」
神格者が2人、地上へ降り立った。
「万力統一」
ゼルティア一帯に、神格者でなければたちまち押し潰されてしまう程の強力な重力がかかる。
「機械仕掛けの神を引きずり堕ろす…」
しかし、ソレは動かなかった。
「この力…もしかして反重力?」
リゼリアが力を加えるだけ、反重力も強くなる。
「ま、そうでもないとあの巨体を浮かせることはできないわよね」
以外とすんなり納得できた。
さしずめ、「世界に反発する者」と言った所だろう…
「なら、これはどうかな?」
ルナが試しに打ったのは、アローレイン。
すると、シールド状の何かが出現し、全て防がれた。
「…どうしようかな」
簡単な攻撃は効かない。
「なら、コレを――」
そう言って試そうとした時、思考が流れ込む。
――霊魂蘇生
その瞬間、周囲が光り出す。
センターベースでは、突如発生した巨人の観測に追われていた。
その数、およそ9体。
全て、これまでに討伐したのと同個体。
――戦力が、圧倒的に足りない。
個としての出力は落ちるが、仲間と共に戦うか…
それとも、2人で対処し切るか。
それを決める瀬戸際に立っていた。
「他にダレかいないの?」
ビャクヤが言っても、何も思い浮かばず――
「いや、一人いる」
すぐさま司令室を出る。
「白石君!?」
先輩が声を上げたが、後回し。
なぜなら、これは夢なのだから。
階段を駆け上がって外に出ると、辺り一面まっ更になっていた。
機械文明の脆さを露呈しているようだった。
しかし、それでも残っているものがある。
今からそこに向かうのだ。
…前言撤回。
ない。
そりゃ地面に隠すよなと思いながら、入れそうな場所を探す。
もう時間が少なくなっている。
「キミ。こっち」
すると、ビャクヤがそれらしき物を見つけた。
鉄扉をこじ開け、中に入る。
「…ここって何があるの?」
ここは、ゼルティア国立図書館。
時刻はもうすぐ6時になろうとしている所。
「ガーディアン!出てきて!」
異界の扉が、開かれる時だ。
鐘の音が響く。
そこには、外の戦闘音など届かない。
静寂のみが広がっていた。
「いけた…」
思わず、安堵の声を漏らす。
夢なりのご都合設定という事なのだろうか?
そして、ビャクヤは少し驚いた。
「こんなセカイを知っているなんて、キミは一体何者?」
その声は、驚嘆に包まれていた。
勿論、湊の答えは…
「「白石湊、冒険者」」
声が、被さっていた。
その事に一瞬、困惑する。
しかし、目はその答えを考えるより早く見つけていた。
「…ガーディアン」
そこに立っていたのは、まだ使い魔を連れていない七番。
「異世界からの訪問者にしてゼルティアの監視役。二之宮と言う偽名を持つ。『流星を斬った』事により名を上げ、ソル=ラグナでの爆発事件解決にも関与した可能性がある。他にも――」
殆ど変わらない、初対面の情報暴露。
「…しかし、仮とはいえどうして私の名を?経歴を見た所、関わった事はありません」
不味い。疑われていた。
…そりゃそうだが、生憎疑いを解く時間もない。
「お願い、一番を呼んで。外がピンチなのは見て分かってる筈」
すると、ガーディアンは怪しみながらも頷く。
「…儀式の方法は、お分かりですよね?」
「勿論。答えを二つ書いて、呼び出す」
すると、彼女は認めたようだ。
「…省略。非常時より七番の名において、一番:テンビンサマを呼び出します」
そして、さっと魔法陣を描く。
「"魂久王"ファント=ナイエクレよ。その姿を現せ!」
そう言って、魔力を放出する。
魔法陣が光る。
徐々に、その姿が顕になった。
その時、ビャクヤが呟く。
「神格者…」
睨むような目で、それを見つめていた。
「…いや、ファントはラグナ帝国には関与していない。寧ろラグナ帝国に反乱した側だ」
すると、ビャクヤは落ち着きを取り戻した。
「…全員がそうじゃないんだよ。ファントよりも後に産まれた神格者は、悪くない」
本当なら、あの二人も違うと言いたかった。
しかし、ルナは分からないが、ポラリスは確実に実験に参加してしまっている。
擁護できない。
「僕も、しっかり知らないとな…」
そう言っている間に、ファントが顕現する。
「…今すぐ、外に行ってルナと一緒に戦ってほしいんだ。"魂久王"!」
日が暮れる。
夜中になると、戦闘は困難を極める。
機械の援護が全て消える。
「…戦力、不足…」
息が上がることはない。
しかし疲労は確実だった。
「…どうにかならないの!?」
その時もう一本、灰色の光が現れる。
「敵でしょうか…いや、違います」
波長は、神格者そのもの。
「新手の神格者です!恐らく、味方と思われます!」
センターベースはあわただしい雰囲気に包まれていた。
そして、それを見てほくそ笑んでいるのが2人。
白石湊とビャクヤである。
「シミュレーションゲームをやっている気分だよ。いつになったら解放してくれるの?」
「…まだまだ。もう少しボクを楽しませてよ」
これだと、どれほど遊んでも飽きない子供を相手にしているようなもの。
埒が明かなかった。
「一応聞くけど、先輩達に何かしてない?」
すると、ビャクヤは首を振る。
「勿論。キミ以外はぐっすり眠ってもらっているだけ。悪夢とかも見せていないからアンシンしていいよ」
これも立派な悪夢である。
「…ところで、カレらはどんなスキルを持っているのか教えてよ」
…じっくりとモニターを見つめる。
三者三様の攻撃を繰り出し、時折天井が揺れる。
「…ルナは、記憶をもとにして戦う。滅びの物語とかそういうのを」
今は、氷を身に纏っている。
「リゼリアは力を操る。重力、その他諸々…」
敵の核らしきところ目掛けて飛び、極太のレーザーを放っていた。
そして、最後の一人。
「ファントは…僕もよく知らないけれど、選択肢を元に戦う。無視する事もできるけど、相手がそこまで考えられるかな…?」
さらに、元の体術や幽霊である事が幸いして、ほとんどの攻撃を無傷で受け切っている。
「ファントには回復魔法しか効かないから、倒すのは困難なはず」
実際、ガーディアンはカノンにだけ抵抗を示した。
回復魔法の第一人者を廻廊に連れて行くのは、よくよく考えたら危なかったのかもしれない。
「…ところで、キミは行かなくていいの?」
モニターを指していた。
「僕なんかが行ったらすぐにやられる。弱いからね」
すると、ビャクヤは不思議そうな顔をした。
「あんなにいっぱいナカマがいて、弱い…?どうやって仲間にしてきたの?」
…これまた難しい事を言う。
「…拳で分かり合った例なんてほんの少しだけで、殆どは利害の一致から仲間になってるんだよ」
「ふーん。フシギ」
「でも、君にもいるじゃないか。リツカ達…一緒に逃げ出した仲間が」
すると、ビャクヤは屈む。
「アレってナカマでいいのかな…?」
自分がそう思えたら仲間でいいと思うんだけど。
「だったら、今度会って言ってみたら?『一緒に旅をしよう』って。ちょっと恥ずかしいかもしれないけど…」
その時、天井が大きく響く。
急な揺れに、思わずふらついた。
慌ててモニターを見直す。
そこに移ったのは、夢特有の支離滅裂。
翼をもがれた機械仕掛けの神が堕ちていた。
「困ったときの神格者頼み…まさにデウス・エクス・マキナだ」
僕には似合わない言葉を言った。




