#172 反省と半生
「⋯これから二度としないこと。加減を考えること。分かった?」
「――はい」
ポラリスが正座している。
そして、それを叱りつけるのが湊である。
「今回はまだ許されたけど、これから先もそうなるとは⋯」
完全な説教ムードに入っていた。
すると、黙って返事していたポラリスが口を開く。
「――いいところ見せたくて⋯」
嘘はついていないようだが⋯
「前にも言ったとおり、そんな事しないでもいいから」
⋯とはいえ、守ってくれたのも事実。
あまり責め過ぎてはいけないのかもしれない。
また感情が爆発しても困る。
「⋯今日は、その体のままでもいいよ」
聞いた途端にポラリスは顔を上げた。
「誘って⋯」
「違う。縛りっぱなしなのも心が痛むからな」
元の体に折角戻れるのだ。
「断じて、同じ布団に入ってこない事。分かった?」
このことはルナには秘密にしよう。
「でも、それだと意味が⋯」
もう、僕は取り合わない。
電気を消して寝ることにした。
「⋯自制」
本当は今すぐにでも潜り込みたいが、約束は約束。
暇つぶしにラファエルを呼び出した。
「⋯彼のこと、どう思う?」
起こさないよう、思念上でのやり取り。
《一言で表すなら、「若い」です》
「ふーん?どうしてそう思った訳?」
《理由は二つあります。一つは彼自身の行動にも現れる通り、基本的には人を許してしまうところです》
確かに、その優しさに救われた人は沢山いるだろう。
ただし、それは危険でもある。
仮に自分の命を狙った相手でも、許してしまった事がある。
いつも近くに居たから分かる。
"操られていたから"という理由だけでは危険だ。
それに、結局元凶であったリアエンド=フェイタルを生かしている。
もし彼が止めていなければ、私はもしかしなくても復讐を考えていただろう。
⋯その分、自分にないものに惹かれているのかもしれない。
私には真似できない、何でも許すその心。
《もう一つは、彼の正義感から来る思いです。前述したことにも含まれるのですが、言葉を選ばずに言うと「歪」です。私には彼の信念を押し付けている――そう見ることもできます》
中々厳しいことを言うじゃない。
《彼の正義は一貫しているようで、その本質はバラバラです。"過去に虐げられた人間が復讐するのを許すか否か"この質問は彼なら「許す」を選ぶでしょう》
「⋯なら、彼はその"信念"を持っていないとすれば?」
《⋯理解しかねます。人は信念がないと動けないものです》
「果たして、本当にそうかしら?彼の旅を振り返ってみれば分かることよ」
最初は、元の世界に戻るためのもの。
そのためにイシス=シフリスを倒した。
そして、帰るためにリアエンド=フェイタルと戦った。
「本来なら、ここで旅が終わってもいい。たとえ義理の妹が介入したとしても、その後のこの世界を救う義理はないはず」
しかし、彼は旅を止めなかった。
"社長"の言うとおりにローラスへ行き、誘われるようにレイズと出会う。
情報を求めてゼルティア学園へ向かい、そのまま忘れられた地へと。
最終的に私を復活させるため、全ての神格者と出会った――
「簡潔にまとめるなら、こうなるわね。それでも、この道中には色々な人が彼に縋ったわ。そして彼は全てを解決しようとしていった。この事が、立派な証明よ。災禍だけでなく、道中でも救おうとしているその姿が」
《――使用主は、彼のことを買い被り過ぎでは有りませんか?》
「彼氏の自慢話よ。聞いてくれてありがとう。そう言えば、貴方、私の前と彼の前で随分態度が変わるわね」
《私の中では重要度は使用主の次です》
「同じところまで引き上げなさい。後々私の夫になる人です」
《それが起きてからにします。では》
そう言って、すぐに去っていった。
「⋯生意気なことを言うじゃない」
負け惜しみのように言ったポラリスは、窓の外の景色を眺める。
「⋯本当に、私とは違うのよ。殺さない甘さも、その優しさもね⋯」
湊はすっかり寝ていた。
新月の夜には、北極星がよく輝いていた。




