#169 大打撃
「不味い。このままだと町に船がぶつかってしまうぞ」
「どうやって防波堤を乗り越えてきたんだ⋯?」
「早く逃げるよ。こんな危ない所に居ちゃ堪らないからね」
道行く人々があれやこれやと騒いでいる。
中には棒読みのように聞こえる人もいた。
「緊張感ないな⋯」
気が動転しているのだろうか。
「私たちがやるべきことは一つだよね」
二人と視線を合わせる。
「「「あの船を止める!」」」
⋯どうやって?
「エンジンを壊す」
ルナはまた物騒な手段に出ようとしている。
「もっと穏便に、例えば逆回転とか⋯有名な沈没船の話にもあるみたいに」
先輩は、金曜日によくやるあの話を引き出した。
「でも、それならもうやってないとおかしいよね」
舵も聞かず、エンジンも制御不能⋯
まるで鉄の棺桶だ。
「避難が完全に済んでいたら⋯」
それなら別に壊すだけでいい。
沖にいる内にルナとポラリスが頑張れば恐らく壊せる。
「⋯多分船長乗ってるよ」
流石に、船だけ置いて逃げるわけないよな。
「やっぱりエンジン壊す⋯?」
その案が、一番実行可能な方法に思えてきた。
「白石君。スクリューは凄い速度で回転してるんだよ。下手したらぶつ切りになっちゃう」
外からは壊せないわけだ。
「甲板から中に入って、機動室めがけて突き進めば良いってことね」
うん。まあ合ってる。
「それなら私行ってくるよ?」
⋯ルナは果たしてエンジンがどれか分かるだろうか。
博識かつ記憶家なのは確かだが、どことなく不安だった。
「飛行系魔法とか覚えてないからなぁ⋯」
覚えておけばよかった。
しかし、こう決め倦ねている間にも船はどんどん町へ近づく。
タイムリミットまで後6分。
覚悟を決める時が来たようだ。
「ルナ。お願いがある」
「任せて!」
「あれも駄目。これも駄目だ。生きてる機械はないのか!?」
操舵室では船長が一人慌てていた。
かれこれ40年やってきたが、ここまで悲惨になったのは始めてのよう。
"対岸の人達が避難してくれていると信じて逃げる"
頭の中で、その囁きが反復横跳びをしているように現れる。
「⋯船を置いて逃げるのは船長の恥。船を置いて逃げるのは船長の恥⋯」
自分に言い聞かせるように呟きながら、まだ使える道具を探していた。
計器の殆どは死んでいて、磁石式のコンパスと紙の海図、筆記用具一式など、機械に頼らないものだけが残っていた。
アナログの大切さを改めて知った50代。
「こんな事なら定期検査の時に機械を大量導入しなかったらよかった」
"ゼルティアの機械なら全自動で目的地まで運んでくれる"と言っていた後輩を叱りつけてやりたい。
しかし、過去の愚行を嘆いても後の祭り。
まさか全部お釈迦になるだなんて⋯
「そうだ。錨は!?」
視界を端に移した時だった。
「⋯ぁぁあああれえええ!!」
ガラス越しなのに声がした。
ふと目を上げると、少年が一人吹っ飛んでいた。




