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#166 医療と倫理

「今日は一人だけなの?」

「始業式だって」

今日は、ルナ一人だけでゼルティアに来ていた。

「二足の草鞋は大変そうね。ところで、どうしてここを選んだの?」

「"社長"がここにしろって言ってた」

ゼルティアが最も医療技術が発達しているからである。

「厄介な仕事を二つも持ってくるなんて…」

そう言って、ヴェルナはため息をついた。

「いいわ。始めましょう。隔離病棟第二検査室、準備出来てる?」

『勿論。すぐ始められます』

「検体の様子は?」

『少し興奮していますが、正常の範囲内です』

「よろしい。出来次第始めて」

『了解』

センターベースは、もう過去のような使い方をしていなかった。

職員室よりも専門的に指示を出せる、便利室のような扱い方。

今回のは、それが顕著に出た。

"力で人を守る"から、"科学で人を守る"への変遷。

センターベースの平和的利用だ。

「貴方は第一検査室へ移動して。貴方が言う"プロフェッショナル"も連れて」

「了解!」

ルナは、通信の真似事をするように言った。


――第二検査室。

まず、頭に謎のクリームを塗られた。

痛くはないが、気持ち悪い。

そして、しばらく放ったらかされた。

退屈だ。


次は、寝ているだけでいいと言われた。

謎の機械をくぐり抜けるのに、15分もかかった。

寝転がれるだけまだましだった。


「はい。そこに立ってください。もう少し右、その辺りです――」

今度は動くなと言われた。

時間はそこまでかからないらしいが、過去の実験を思い出した。

最悪だ。


かれこれ3時間程度、体のあちこちを調べられた。

見世物じゃないといくら言っても聞く耳を持たなかった。

やはり、人は愚かだ。


――勿論、見世物として吊るし上げるために撮ったのではない。

いわゆる人間ドックだ。

少し専門的な領域まで踏み込んだが、未知の病気まで持たれていてはたまったものではない。

本人のカルテとして、データは保管するつもりだ。

そして、全ての検査が終わった今、分かった事がある。

骨格どころか臓器の位置に形、更には神経系までもが人間のそれとかけ離れている。

つまり、産まれた直後もしくは産まれる前に、遺伝子改変を受けた可能性があるということだ。

400年前の帝国がそこまでの技術力を保持していた事に、驚きを隠せなかった。

「つまり、彼女を我々と同じ"人間"として扱うのかが問われています」

終いには、医療関係者から文化人などを一堂に集めた倫理に関する有識者会議にまで発展することになるのだが、それは別の話である。

一方、その隣の第一検査室では――

「なんで今まで隠していたの?」

「貴方達に知られたとなると、抹消させられると思ったからですよ」

ルナとファントが来ていた。

「体の綻びを全て修復するのは不可能です。暴走した魔力由来の傷が今も蝕み続けています」

魂が体から抜けると言うことは、全ての生命維持に関する働きが止まることを意味する。

それを外部からの補助で生かしているのだが、綻んだ体には負担が大きい。

「なんとか動かす事ができる所まで持っていきましたが、それでも――」

状態は芳しくなかった。

「それで、今から魂を戻すと…?」

「はい。小生のスキルと問題児(ルナ)のスキルがあればできます」

「問題児とは何よ。だいたい…」

言いたげなルナを押しのけて、ファントは続けた。

「この綻びに痛覚はないですよね。ならば可能です」

『分かったわ。開けて』

「了」

音も立てずに、リツカを覆っていたカプセルが開く。

「それでは、私は退出します。何かありましたらご連絡を」

残った神格者2人は、力を解放する。

今見ているのはヴェルナのみだ。

そして、ルナは言う。

「ファントの魔力はいつ見ても灰色ね…」

「幽霊らしくていいじゃないですか」

そのまま、魂そのものを分解し、新たなエネルギーとして構築する。

意思も記憶も全て保った状態で再構築し、それを体へと戻す。

「不死凋霊(アノ・ヴァボスィ)発動。魂よ、元ある場所へ戻れ!」

ひときわ光が増した。

まばゆいばかりの明かりを放ったリツカの魂は、本人の体へと沈んでいく。

「…終わりね。安静にさせておいて」

作業はすべて終わったのだった。

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