#159 リベンジの有無
現地時間12時24分、ゲルゼズ首相官邸――
「今回の遺跡内の爆発は、溜まっていたガスに松明の火が引火したことによる自然爆発で、何者かが関与した可能性は全くございません」
勿論、嘘である。
ゲルゼズのラグナ帝国時代の遺跡で起きた爆発。
何かしらの脅威が潜んでいると踏んだゲルゼズ指導部は、事件を徹底的に隠匿する事にした。
それでも、"徹底的に反論を考え出すのが記者の役割"である故に――
「当初、遺跡内には人が最近まで立ち入った痕跡が残されているとの説明を受けましたが、その中での爆発はあまりに不自然でしょう」
当然の反論だった。
「そもそも、この場に総理がいない事自体、真実とは到底思えない!」
声を荒げる記者達。
その様子を、総理大臣は隠しカメラを使い静かに見ていた。
「…知って何になるというのか。混乱を招くだけだと分からないのかね」
声には呆れが混じっていた。
「それでスキャンダルでも起きたら見ものです。きっと目先の利益の事しか考えていないのでしょう」
副総理は諦めきったようだ。
外は久しぶりの晴れだと言うのに、気分は真っ暗。
全く、偏向報道は止めていただきたいものだ…
「総理。お客様です」
不意に後ろの扉が開いた。
「…君か。入る時はノックぐらいしたまえ」
「いやー!未だに慣れなくて、すみませんねぇ」
聞いただけでも分かる、ヘラヘラした口調。
入ってきたのは、元893のあの人。
「会いたがっていた人を連れてきましたよっと」
勿論4人組、湊達である。
「…この度は面会の機会を与え頂き、誠に有難う御座います――」
堅苦しくぎこち無い挨拶。
「前置きはいい。本題に入る」
真新しい官邸の大きなスクリーンに、ゲルゼズの地図が映る。
「公安に任せておいたが、案外使えるようでな。ここまで情報が集まった」
赤い点と日付がいくつも表示される。
「これが初期地点。そこから日が変わるごとにあちこちに移動しているのだが、君達はどう見る?」
「どうと言われましても…何かを探しているのでしょうか」
もしリツカの仲間だとするなら、復讐の念を募らせていても不思議ではない。
「――早急に手を打ちましょう。猟奇連続殺人あたりの重大事件が起きる可能性があります」
それを聞いた総理は、小さく頷いた。
「だからこそ、君達を呼んだのだ。好きにするがいい。公安も警察も全てくれてやろう」
「それは流石に――」
荷が重すぎるというものである。
しかし、反論の暇は無かった。
「もともとゲルゼズ共和国の転覆に関わった身、半分指導者のようなものだろう」
「それはそうですけど…」
改めて画面を見る。
首都の周囲に幾つもの点が混在している。
特に魔法陣の様な規則性は見られないが、首都には唯一来ていなかった。
「妙。理由があるのか、それとも――」
まだ来ていないだけなのか。
「分かりました。その仕事受けます」
こうして2日間だけの特別体制が敷かれることになった。
記者達は、それを知る由は無かった。
一方、ユラリア北東部、ゲルゼズ国境地域。
「今回も負けた。しかし次こそは…」
一人の男が、またもや復讐を誓っていたところだった。
「こんばんは。主犯格――レイズ」
優しく怒りのこもった声が、夜中の街外れに響く。
「――手負いを詰めに来たか。ギルドの女狼め」
相対したのは、セレナだった。
「悪事を見過ごせなくなったのよ。お疲れ様」
服の内側から暗器を取り出す。
「苦しませる時間すら無くす。安心して死ぬといいわ」
そう言って、大地を一蹴り。
「暗闇を利用して周囲から攻める作戦か」
「ええ。アナタ相手には隠しても無駄でしょう」
レイズは短剣を取り出し、冷静に1個ずつ受ける。
「まだ武器を持っていたなんて、意思だけは一人前ね」
「どうだろうな。これだけではない!」
懐から一丁の銃を取り出し、撃つ。
キィン――!
暗器で受け流す。
「もたもたしているとやられるわね」
ハルバードを使い、距離を詰める。
「銃は全て斧で防ぎ、リーチの差も相まって状況は決した。
「さようなら」
無慈悲にも一撃を入れる、その時――
「まだだ…"変幻"!」
姿を変える。
「この姿だと攻撃できまい!」
最後まで卑怯な手を使う男。
セレナの手が止まった。
「やはりな!結局その程度の――」
レイズの顔が笑みに染まるが、それも一瞬の事。
セレナの手に力が入る。
「彼は死んだ!人の命を弄ぶな!」
追い詰められていることを自覚したレイズは、脱出を試みるも――
その間もなく、刃が裁きを下した。
完全悪は、この場で消滅したのだ。
「…来世があるかは分からないけれど、もっと普通に生きなさい」
そう言って、セレナはその場を離れた。




