幕間、8月31日の日常
「久しぶりだなー」
こんな事を親に言ったら、怒号が飛んできた。
「今までどこに行ってたの!?連絡ぐらい寄越して!」
そういや、夏休み中盤以降からずっと帰ってきていなかった。
しかし、今はそのために来たのではない。
「その話はまた後で聞くから。今は黙っといて!」
今日帰ってきたのは他でもない。宿題を終わらせるためだ。
ドタドタと階段を駆け上がる。
母の声はどこか懐かしかったが、感慨に浸る前に終わらせらなければ――
「お、生きてる?」
「なんとか⋯」
無論、一人では終わらない――ということで、援軍として先輩を呼んでいる。
「なんか奢って」
そう言われた時は渋ったが、背に腹は変えられない。
そして、もう一人。
「早く終わらせるぞ。にしても、最後まで貯めるとは⋯」
博識少年⋯っぽい見た目の28歳、夜月玲君である。
今思うと大分青年とは程遠いが、本人曰く「本当の年は自分でも知らない」とのこと。
10年も異世界にいたら、タイムラグは膨大なのである。
ついでに、松尾先輩も。
「自分にも何か下さいね」
痛い出費である。
そんなこんなで、1時間は黙々と宿題ができた。
僕が数学を、此花先輩が言文・現国を、松尾先輩が地理歴史を、夜月が英語系を――といった感じだ。
数学系は1とAでそこまで大差はない。
集中力さえあれば簡単だった。
――しかし、そこで尽きてしまった。
「のこりは物理生物と、読書感想文と、体力テスト⋯?」
物理生物はともかく、なんだ残りの2つ。
「ちょっと、まだ宿題やってる途中なんだけど」
先輩に苦情を言われてしまった。
「体力関連は余裕だろ」
夜月の言葉に、松尾先輩以外の全員が納得した。
それを、当人は不思議そうに見ていた。
「一体どこで知り合ったのですかね⋯?」
その場は適当に流した。
まだ秘密にしているのもある上に、説明するのも面倒くさい。
「⋯体力テスト、やってみる?」
一度家を離れて、近場の公園へ移動するのだった。
「項目は⋯50メートル走のタイムと、腕立て、腹筋、握力、持久走⋯?」
どうしてここまで多いのだか。
しかも、握力って⋯
「それっぽいスコアを、適当にでっち上げればいいじゃないか」
「ソレだ!」
「でも、出来るものだけでもやりましょうよ」
少しの言い争いの後、50メートル走と腕立てのみする事になった。
50メートル走!と言っても、ご存知のとおりである。
「だいたいこの辺りかな…?」
先輩は自信なさげに言うが、スキルを使っているので正確そのもの。
「タイムは私が数える」
夜月が口頭で…しかし、これもスキルで100%正確。
そして、松尾さんが始める。
「号令は自分が。よーい」
クラウチング?それともスタンディング?
分からぬ内に始まる。
「ドン!」
とにかく走る。
やけに早いことにも気が付かずに。
「え…」
先輩も夜月も、勿論松尾さんも驚愕していた。
タイム:6.5秒。
そこらの陸上部あたりのレベルである。
「いつの間に…」
無論、心当たりしかないが。
「コレなら、腕立ても…」
予想のとおりだった。
30秒の間にどれだけ腕立て伏せを出来るかを競う競技。
「よーい。スタート!」
さあ始まった…と思うと、腕にとてつもない力が入った。
この細い腕の何処に…と思ったが、異世界様々である。
「終了!回数は…35回!」
…微妙である。
一秒一回はやっている計算だが、あのタイムを見た後だと霞んで見えた。
「戻りましょう。まだ宿題は残っていますよ」
帰宅。
すると同時に、2階から音がした。
「…まさか!」
急いで階段を駆け上がる。
ドアを開くと、案の定ルナとポラリスがいた。
「…不味い」
見られるとややこしくなる…
しかし時既に遅し、松尾は今この場にいる。
「えっと…これは…」
しどろもどろになっている時に、話しかけたのは松尾だった。
「お久しぶりです」
恭しく礼をする。
「…知り合い?」
「前に一緒に旅をしました」
そう言えばそうだった。
「なら、問題はないね」
一息ついたのだった。
「さて、残りは理科系と読書感想文だね」
理科系はもう二人に任せた。
「読書感想文…手頃な本…」
もうこれしかないのである。
「先輩!書いた小説読まして下さい!」
「嫌だ!」
断られてしまった。
「知り合いに読まれるの結構恥ずかしいんだから!」
ソレはそうである。
しかし、今は非常事態。
「丁度良いのあったじゃないですか」
懇願!
「あとでご飯ぐらいなら奢りますんで!」
その響きに心惹かれたのか、一枚の冊子を渡してきた。
「…約束すること!いいね?」
「了解です」
…読破中。
「1500文字でいいんですよね?なら簡単です」
サッサッサと文章を書いていく。
この文章よりも全然短い…というのはメタである。
「…夏休み、楽しかった?」
退屈になった先輩が言った。
僕は、疲労感が半端ない夏休みだった――
と、普通なら答えるだろう。
しかし――
「なんだかんだで楽しかった」
終わりよければ全てよし。
こんな夏休みもありだと、そう思ったのだ。
「今日は白石君が奢ってくれるらしいし、何処か行こう!ファミレスとか!」
「え!?」
「私たちも付いて行って良いんだよね?」
ルナが聞いた。
「勿論だよ。終わり次第行こう!」
結果、財布にあった6000円が尽きたのだった。




